第28話(試されてる?)
朝食の騒動の後、ようやく冒険者ギルドにたどり着いた。
あの後は本当に大変だった。コック長らしき人に「ぜひレシピを譲ってくれ」と猛烈に迫られ、
引き剥がすだけで一苦労した。さらにフィオナさんたち三人には「他にも老化予防の食材はないのか」と
質問攻めに遭い、まともに逃げ出す隙もなかった。
何とか振り切って、息も絶え絶えにギルドまでやってきたが――
さすがは朝の冒険者ギルド。
中は活気に満ち、依頼ボードの前では冒険者たちが新たな任務を探してひしめき合っている。
受付の面々も真剣な表情で応対に追われ、カウンターの向こうで忙しなくやり取りをしている。
(あちゃー……アル、大広場で時間を取りすぎたな。これじゃ受付に辿り着くまで相当かかるぞ)
(そうですね、この混雑は想定外でした)
レイがギルド内をきょろきょろと見回していると、受付の一角でセリアと目が合った。
「あ、レイ君、ちょっと来て」と手招きされる。
「はい。何でしょう?」
「レイ君が来たらギルドマスター室に通せって言われてるの」
「ええ?ギルドマスター室ですか?」
「とりあえず伝えたわよ。あと帰り受付に寄ってね。この間の緊急依頼の報酬が出てるから。さぁ行った行った!」
セリアから伝言を受け取った後、レイは受付から半ば強引に追い出された。
まあ、この混雑では仕方がない。長居していたら邪魔者扱いされるのも当然か。
レイは気を取り直し、階段を上って二階のギルドマスター室へ向かった。
扉の前で足を止め、軽く呼吸を整えてから、三度ノックする。
コン、コン、コン。
間もなく、中から低く落ち着いた声が響いた。
「入れ」
中に入ると、ギルドマスターが自分のデスクに座っていた。
「おう、昨日ぶりだな。ちょっと待ってろ……えっと、これだ、これだ!」
と言いながら、ギルドマスターは書類の中からクエストの紙を選び、レイに渡してきた。
「オークを倒しているお前さんなら簡単な依頼だ。祈りの洞窟ダンジョンにいるポイズンフロッグの毒腺の採取だ。一匹分でいいんだから楽勝だろ。期日は明後日までだな!」
「はい、分かりました。他に注意すべきことはありますか?」
とレイが尋ねると、
「後は依頼が無事に終わったらな」
と言って、もう用は無いと言わんばかりに手をヒラヒラさせて追い払われてしまった。
自分から呼んでおいて、いやにあっさりしてないか?
(レイ、どうやらギルドマスターに試されているようです。とりあえずここを出ましょう)
とアルが言う。
レイは(分かった。)と念じ、踵を返してギルドマスター室を立ち去った。
(アル、ギルドマスターに試されてるって何?)
(資料室に寄ってください。そこで証拠をお見せします)
アルが言うんだから間違い無いだろうと思ったレイは、資料室に入ると、次はどうするのか聞いた。
(目の前の棚にある『採取の辞典』という本で、ポイズンフロッグの毒腺の採取方を調べてみてください)
レイは並んでいる本の中から『採取の辞典』と言う本を選ぶと、ポイズンフロッグの毒腺について調べ始めた。
(あった。ポイズンフロッグの毒の採取方法だ)
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【ポイズンフロッグの捕獲】
ポイズンフロッグを必要以上に傷つけてしまったり、殺してしまうと体内の毒が放出され、
毒腺が使い物にならなくなる。その為、網などを使った生け捕りが必要である。
【ポイズンフロッグの毒腺採取】
準備と注意: まず、作業用の手袋を着用し、ポイズンフロッグを安全に固定する。
毒は非常に危険なので、注意が必要である。
解体: ポイズンフロッグの体を解体し、毒腺にアクセスする。
毒腺は背中や足の近くに位置している。
毒腺の採取: 毒腺を慎重に取り外し、安全な容器に保管する。密閉できる瓶などが良い。
毒腺は小さい場合が多いので、精密な作業が求められる。
処理: 解体した後は、残りの部分を適切に処理し、安全な廃棄方法を確保する。
その場で解体が出来ない場合、外部からの衝撃が伝わりにくいように設計された二重構造の袋などに入れて
持ち帰ると良い。
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「……!何だよこれ。ワナばっかりじゃないか!」
憤慨するレイ。
「その場で解体なんて出来ないし、持って帰るにも専用の袋が必要だって書いてあるよ。知らなかったら依頼失敗になってたぞ」
(ギルドマスターは、わざとその事を話題に出さないような態度をしてましたね)
「アルは良く分かったな。こんな本があるのを」
(以前、魔法について調べた時に、レイはこの本も目を通していました)
「そうなの?あの時は、ほとんど飛ばし読みしてたから、やり方までは覚えてなかったよ」
(これで依頼達成の確率が上がりましたね)
(でも自分じゃ解体も出来ないから色々準備しなくちゃだな。セリアさんに相談するしかないね)
(まさに愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶということですね)
「前から思ってたんだけど、アルって博識だよな。どうやってその知識を仕入れたんだ?」
(ナノボットを使う者の中には必要最低限の指示しか出さない人がいます。だから、情報を補完して使用者の指示を確実に遂行できるように、膨大な知識と情報がバックアップされています)
(まるで図書館や辞典のように、何世代もの経験が蓄積されているのです。世界が変わっても類似点を類推し、異なる状況でも同様のパターンや原則が見つかれば、それを元にレイの意図を理解して正確に行動できるようにしています)
「うわ、何かすごい事を言ってるってのは分かるんだけど、でも導いてくれるのだったら、やっぱり、師匠なのかな」
「師匠にするなら、金貨を丸呑みしてもらわないとですね」
「それ、見た目的にも金銭的にもキツイんですけど…」
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