第278話(山積する課題)
レイは大聖堂の一角にある静かな部屋で再び仲間たちを集めた。
フィオナ、サラ、セリア、リリー、そしてイーサンが揃うと、彼は深く息をついてから話を始めた。
「みんな、帝国との交渉に向けて動き始める予定でいます。まず、帝国側に交渉の日程と場所を
提案しなければならないので。これからスカイホークを送る準備をします」
レイは机に広げた地図を指しながら説明を続けた。
「これはバルタザール宰相がエヴァルニアとラドリア帝国の国境沿いの簡単な地図を描いてくれたのですが、
この地図のここ、国境近くにある中立地帯が最も適していると宰相が教えてくれました。
帝国側にとってもアクセスが良く、交渉の場として公平性も保たれるそうです」
フィオナが頷きながら言った。
「この場所なら、帝国も不利だとは感じないだろうな。交渉が始まれば、少なくとも彼らが急に
侵攻する可能性は少し減るかもしれない」と言った。
レイはその言葉に同意しつつ、次の段取りに移った。
「帝国の意図や動向については、今のところ分からない部分が多過ぎて判断が難しくなってます。
そこでイーサンにお願いがあるんだけど、帝国の動きを密かに探ってきてほしいんだ。
彼らが何を考えているのか、交渉に本当に応じる気があるのか、それとも何か裏があって
あの場所にいるのか調査が必要だから」
イーサンは真剣な表情で頷いた。
「了解しました。帝国に潜り込んで、情報を集めてきます。少し時間をください」
レイは感謝の気持ちを込めてイーサンに目を向けた。
「イーサン、頼りにしているよ。この情報が、交渉の成功にかかっていると言っても過言じゃない。
でも気をつけて。帝国は警戒心が強いだろうから、無理だけはしないでね」
「承知しました。慎重に動きます」とイーサンは静かに答えた。
イーサンが情報集めで部屋を去った後、レイは残ったフィオナ、リリー、サラ、セリアに向けて話を再開した。
「イーサンが帝国の動向を調査してくれている間、僕たちは別の準備をしなくちゃいけません。
交渉が成功することを願ってますが、万が一、失敗した場合や、帝国が交渉を拒否した場合の
シナリオも必要です」
セリアが口を開いた。
「もし帝国が交渉を拒否したら、侵攻のタイミングが早まる可能性があるわね。
国境に軍が集まっている以上、交渉が失敗すればそのまま戦争に突入する恐れがあるわ」
フィオナが深く考えながら言葉を続けた。
「そうなった場合、エヴァルニア国だけで帝国の軍勢に対抗するのは難しいかもしれない。
こちらから戦力を増強する方法を模索する必要があるな。
周辺諸国に援軍を要請するか、あるいは民間の協力者を募るか」
サラは少し思案顔で、指摘した。
「でも、周辺諸国は逃げ腰って聞いたニャ。すぐに動いてくれるかどうかは分からないニャ」。
「そうすると民間の協力者かしらね。でも今から集めてもたかが知れてるわ。
もし交渉が失敗した場合、最悪のシナリオは即座に戦争だもの。
やはり他国との連携は必要ね」リリーが真剣な顔で加えた。
フィオナが鋭く頷いた。
「そして、交渉が決裂しても、こちらから帝国に対して弱みを見せるわけにはいかない。
交渉の場でこちらが強い姿勢を見せることが重要だと思う。
彼らにこちらが脅威になり得ることを示すことで、無理に戦争を仕掛けさせないようにする」
「確かに、その通りなんですけど…」
とレイは答えた。今の状況では、手持ちの戦力が少なすぎるのが一番の問題だ。
「ギルドに頼んで、傭兵をお願いしちゃいましょうか?」
「それって、お金がかかるわよ?どこからそんな財源を確保するの?」
リリーが冷静に指摘する。
「パーティ資金から出しちゃダメですか?使いきれないほどあるって言ってますし」
とレイは少し気を抜いたように笑う。
「まぁ、シーサーペントはレイ君が一人で倒しちゃったようなものだし、その資金の使い道はレイ君の
自由だけど。でも、本当にそれに使っちゃうの?」
「どこかから調達するのを待ってる時間が勿体ないですから」
フィオナは深く息をついて、少し考え込んだ後、立ち上がった。
「分かった。なら私がギルドに行ってこよう。予算は金貨千枚もあれば、それなりに集まるだろう」
「よろしくお願いします!」
レイがフィオナを見送ると、彼女はギルドに向かって駆け出していった。
「他にやらなきゃならないことってありますか?」とレイは残った仲間たちに問いかけた。
セリアは少し考え込んでから、問題点を挙げる。
「万が一のために、避難計画も考えておいた方が良いかもしれないわ。
戦争が始まれば、国民を守るために安全な場所に避難させる必要がある。
特に国境付近の住民には早めに準備を促したほうがいいかも」
リリーもそれに同意した。
「教会としても避難所を設ける準備を始めるべきかもしれないわ。
人々が安心して身を寄せられる場所が必要になるわね」
「そうですね。そっちならすぐに動けそうです。教会と協力して、万が一に備えた準備を進めましょう」
リリーがすぐに行動に移るためにその場を離れた瞬間、レイは考え込んでいた。
その時、頭の中にアルの声が聞こえてきた。
(レイ、全体的には順調に進んでいますが、一つだけ。
商人たちの協力で集める物資について、優先順位を明確にしておいたほうがいいかもしれません。
戦争が長引けば、食料や水が不足することが一番のリスクです。)
レイは軽く頷いた。
「確かに、食料と水が無ければ、戦えないどころか避難計画も進まないよな。
分かった、サラさんに優先して食料と水の確保を頼んでみよう」
アルの助言を受けたレイはすぐにサラに声をかけた。
「サラさん、物資の確保についてだけど、まずは食料と水を最優先でお願いできる?」
「分かったニャ!やっぱり、食べ物と水は大事ニャ。私に任せてニャ!」
サラはにっこりと笑い、元気よく応じた。
サラが物資の提供を呼びかけに行った後、セリアは避難ルートの策定に取り掛かり、
すぐに教会と協力して逃走経路の整備を始めた。
「避難ルートは確保されていますが、物資の運搬が間に合わないかもしれません。
急いで追加の物資を調達します」
と、物資を運ぶ商人たちとも連携を取り始めた。
まだ動き始めたばかりだが、問題は山積みだと感じていた。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。
⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。