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第277話(エヴァルニアの和平交渉)

エヴァルニア国の大聖堂には荘厳な空気が漂い、ステンドグラスから差し込む光が静かに揺れて、

場の緊迫感を映し出していた。

レイの背後にはフィオナとリリーが控え、彼を見守っている。彼らの位置には明確な順序があるようだった。


「大聖者レイ殿、エヴァルニア国へようこそ」


柔らかな口調でそう告げたのは、宰相バルタザールだった。白髪が混じる威厳ある中年の男だが、

その表情には穏やかさも感じられた。


「しかし正直に申し上げれば、今このタイミングで和平交渉を進めるのは難しい。

 帝国との緊張が続くなか、軽率な動きは国全体に混乱を招く恐れがあります」


レイは落ち着いて頷き、言葉を選びながら答えた。


「貴国の立場は理解しています。しかし、戦争が始まれば、多くの命が失われます。

 教会としては、その悲劇を防ぐためにも、どうにか和平を目指したいのです」


隣に座る国防大臣グレゴールが腕を組み、鋭い口調で返した。


「帝国はすでに国境で我々と対峙しているんだ。和平を持ちかけても、相手が応じるかは分からない。

 むしろこちらが弱気だと思われれば、侵攻が早まる恐れがあるんだぞ」


レイはしばらく考え込み、静かに答えた。


「そのリスクも承知しています。ですが、教会が仲介に入ることで、状況を少しでも改善できる

 可能性があると信じています。すでに帝国側にも交渉の働きかけを始めています。

 それには、エヴァルニアの協力が不可欠です」


その場に重い沈黙が訪れた。侍従が驚いた様子で口を開く。


「帝国にもすでに動きかけているのですか?どの程度進んでいるのでしょうか?」


「今のところ、教会を通じて和平交渉の場を提案しています。

 帝国は慎重な姿勢を見せていますが、エヴァルニアが和平の意思を示せば無視できないはずです」


レイは自信を持って説明した。


バルタザールは腕を組み、少し考え込む。


「和平を望むのは皆同じだ。しかし今は、国内の安定を最優先しなければならない」


その時、フィオナが一歩前に出て毅然とした声で言った。


「無駄な血を流し続ければ、エヴァルニアも他国も取り返しのつかないことになるでしょう。

 確かに国の安定は重要ですが、今動かなければ後悔することになるかもしれません」


フィオナの言葉にグレゴールは少し驚き、ラファエルも深刻な顔で頷いた。


「レイ殿の提案を無視するのは賢明ではありません。すぐに和平は難しくとも、

 交渉の場を設けることは可能だと思います」


バルタザールも渋々頷き、決断を下した。


「交渉の場を設けるのは必要だ。帝国にも提案を送り、準備を進めよう」


「ありがとうございます」

レイは深く頭を下げた。


「これが平和への一歩になることを願っています」


こうして、エヴァルニア国はレイの提案を受け入れ、帝国との和平交渉に向けた準備が始まった。


※※※


その夜、レイとイーサンはエヴァルニア国の宿屋で、和平交渉の行方について真剣に話し合っていた。

蝋燭の揺れる明かりが二人の顔に影を落とし、部屋には緊迫した空気が漂っている。


「帝国の狙いがイシリアに向いている以上、エヴァルニアはただの通過点に過ぎない。

 そう言ったら怒られるだろうから会議では言えなかったが、今のところ帝国を止める決定打が

 見つからないんだ」


レイは頭の中で交渉のシナリオを組み立てながら言った。


「確かに、交渉だけで帝国を止めるのは難しいですね」


イーサンも深く頷く。


「ただ、エヴァルニアが完全に無視されているわけではない。何か彼らを引き止める策があれば…」


その時、屋根裏からかすかな音が聞こえた。


アルから警告が入る。

(レイ、何者かが屋根裏に降りてきたようです)


レイが上を見上げると、イーサンはすでに鋭い目を光らせていた。

彼はすぐに立ち上がり、レイに小さく静かにするようジェスチャーで伝えた。


「ここに誰かいるな」


低い声で呟きながら、イーサンは部屋の隅にあった椅子を使い、屋根裏へ登り始めた。

その動きはまるで密偵のようだった。


「おお、本物の密偵みたいだ!」

レイが思わず声を漏らすと、イーサンは振り返らずに静かに答えた。


「本物です」


屋根裏に身を滑り込ませると、イーサンは低く身をかがめ、カツン、コツンと微かな足音を立てて

侵入者に近づく。暗闇の中、カサッと衣擦れの音がし、相手も警戒しているのが分かる。


黒い布で全身を覆い、鋭い刃を構えた侵入者が静かに構える。

呼吸は一定で、いつでも動ける態勢だ。


イーサンも負けていなかった。

静かに侵入者の背後に回り込む。


次の瞬間、二人は互いの存在を完全に察知した。

闇の中で視線が交わり、シュッと刃が振り下ろされる音。


イーサンは素早く低く屈み、相手の懐に飛び込んだ。

刃が振り下ろされる前に、相手の腕を絡め取り、体勢を崩させる。


「……ッ!」

侵入者は驚きの声を上げるが、その隙を逃さず、イーサンは相手を壁へ押し付けた。


狭い屋根裏で動けなくなった侵入者は必死に抵抗するが、すでにイーサンの手中にあった。


イーサンは刃物を素早く取り上げ、腕を強く押さえ込む。

侵入者は窓から逃げようとしたが、イーサンは見逃さず、力強く追い詰めて窓際へと押しやった。


侵入者は自分から窓につっこみ屋根の上へ転げ落ちると、屋根の上を足音を響かせながら逃走した。

その足音は次第に闇に溶けていく。


イーサンは静かに息を整え、侵入者が去ったことを確認すると、音もなく元の場所に戻った。


「やったね」

レイは笑みを浮かべる。


「今回は軽い相手でした」

イーサンは淡々と答えた。


「どっちだと思う? 帝国かエヴァルニアか?」

レイが尋ねる。


イーサンは少し考え、冷静に言った。


「おそらく帝国でしょう。エヴァルニアの今日の交渉からは、和平を望む意思が伝わってきました。

 彼らは戦を避けたい。となれば、暗殺者を送ってきたのは帝国しか考えられません」


レイも頷きながら言った。


「帝国が暗殺者を送ってきたということは、和平交渉自体を潰そうとしているんだな」


「はい。今日は退けられましたが、今後はさらに強硬な手段を取る可能性があります。用心が必要です」


イーサンは前を見据え、静かに告げた。

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