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第273話(エヴァルニアに向けて)

デラサイスは、サティとセドリックが暮らす屋敷へ向かっていた。


馬車に揺られながら、彼はレイがエヴァルニア国へ向かうこと、そしてイシリアへ戻ってきた際に

時間があれば話を聞くと約束したことを伝えるつもりでいた。


二人の望む再会は、まだ叶っていない。だからこそ、デラサイスの胸にはどうしても重たいものが残っていた。


屋敷の前に馬車が止まると、彼は静かに降り立った。

胸中には、レイと二人の未来が繋がる可能性と、それがまた遠のいてしまうかもしれない不安が同居していた。


ドアを叩く音が屋敷に響く。短い静寂のあと、扉が開いた。


デラサイスは教会の定めに従い、簡潔に挨拶を済ませる。そして出迎えたメイドに微笑みかけた。


「サティ様とセドリック様にお伝えいただけますか。デラサイス大司教がお二人にお話ししたいことがあり、

 訪問いたしましたと」


メイドは一礼し、すぐに奥へと姿を消した。


デラサイスは玄関先で静かに待ちながら、これから交わされる会話がどのような結末を迎えるのか、

思いを巡らせた。


ほどなくして、サティとセドリックが現れる。

やや慌ただしげな足取りながら、デラサイスを応接室へと案内した。


まもなくメイドが戻り、茶器を丁寧に並べて退出する。


サティはどこか落ち着かない様子で口を開いた。


「レイと、いえ、大聖者殿と話し合いができるようにしてくださったのですか?」


デラサイスは頷き、静かに答える。


「レイ殿は、エヴァルニア国とラドリア帝国に赴き、開戦を止めるために

 直接交渉に向かう決意を固められました。

 ご両親との話し合いについては、イシリアに戻った際、時間があればお話を伺うとおっしゃっていました」


その言葉を聞いたサティは目を見開き、動揺を隠せずに声を上げた。


「なんでそんな危ない場所に行くのですか? レイが戦争を止めるなんて…そんなこと……」


セドリックも表情を曇らせながら、黙ってデラサイスに視線を向けた。


「そういう状況だからこそ、彼が動いたのです」


デラサイスは静かな声で続ける。


「危険を承知の上で、彼は自分の役目を果たそうとしています」


サティは焦りを隠せず、セドリックに向き直った。


「セドリック、私もエヴァルニアに行けないかしら?

 あの子にもしものことがあったら…もう二度とあんな思いはしたくない…」


セドリックはため息をつきながら、落ち着いた口調で返した。


「無理だ、サティ。私たちには砦への駐屯命令が出ている。

 従わなければならないのは分かっているだろう?」


サティは涙を堪えつつ、震えた声で言った。


「分かっているわ…でも、レイにもし何かあったら……

 また、あの時のような辛い思いをするなんて……耐えられない」


デラサイスはソファに深く身を沈めた。その心に渦巻くのは、やり場のない無念さだった。


なぜ、この親子は、これほどまでに試されねばならないのか。

生きていたという希望が芽生えたばかりの彼に、なぜ再び戦地という試練が待ち受けるのか。


言葉を選びながら、彼はそっと体を前に傾けた。


「お二人のお気持ちは痛いほど分かります…。

 ですが、今は彼に託すしかありません。レイ殿は、自らの使命を果たそうと決意しています。

 それを、誰も止めることはできないでしょう」


その声には、諦めと祈りが混じっていた。


***


翌朝。


陽が昇りはじめたばかりの中庭で、レイは馬車の前に立っていた。

シルバーが牽く馬車に、教会のシンボルを取り付けるため、イーサンとともに黙々と作業を進めている。


そのとき、背後から軽い足音が聞こえた。振り向いたレイの目に映ったのは、見慣れた顔ぶれ。

フィオナ、サラ、セリア、そしてリリーが並んで歩いてくる。


だが、いつもとはどこか違っていた。胸元には、神殿のシンボルが刻まれた金属のプレート。

そして肩には、白と金の刺繍が施された神殿騎士のマントがかかっている。


その凛とした装いに、レイは思わず息をのんだ。彼女たちは、まるで別人のように見えた。


フィオナが一歩進み出て、静かに告げた。


「大聖者に護衛がいないなんて、格好がつかないからな」


レイは驚きながらも尋ねた。


「それ、どうしたんですか?」


リリーが微笑みながら言った。


「苦肉の策ね。前にも言ったけど、この馬車に追いつける護衛なんていないし、一刻を争うときに

 護衛を待つのも非現実的でしょ?」


「昨日、少年がセリアと買い出しに行ってる間に、こっちも準備してたニャ」


そう言ったサラは満足げに微笑んだ。


レイは彼女たちの行動に、言葉にならない感謝を覚えながら、ゆっくりと頭を下げた。


「ありがとう。みんなの準備には感謝してます。でも、無理はしないでください」


そう言って笑みを浮かべると、仲間たちもそれぞれ軽く頷いた。


そのとき、ふとレイは視線を下げ、大鎌を携えたリリーに気づく。


「でも神殿騎士が大鎌って……」


苦笑混じりに漏らしたその言葉に、リリーは即座に答えた。


「言うことを聞かない相手を地獄に送るには最適でしょ?」


彼女は軽く大鎌を振ってみせた。その瞳には、冗談めかしながらも確かな覚悟が宿っていた。


こうして仲間たちは馬車へ乗り込み、エヴァルニアへと向けて出発した。


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