第271話(剣を抜く覚悟)
レイは、自室にフィオナ、サラ、セリア、リリー、そしてイーサンを集めた。
その表情は厳しく、今から話す内容の重さがはっきりと伝わってくる。
彼は、目前に迫る和平交渉の重要性と、その困難さをひとつひとつ言葉にして語り始めた。
ラドリア帝国とエヴァルニア国の激突を止めるため、レイは自ら交渉の場に赴く覚悟を固めていた。
「これから話をしに行く相手は、魔物を使ってまで戦争を仕掛けようとしている帝国です。
間違いなく、『止めてください』と頼んで、『そうですね』で終わるような簡単な話ではないと思っています」
教皇が口にした『剣を抜くことも避けられぬ道』という言葉が、レイの中で何度も反響していた。
本来は力に訴えずとも済ませたい。だが、それだけでは通じない場面が訪れる可能性は高い。
そういう覚悟を持った上で、彼は続ける。
「だけど、話を聞くことで、なぜ帝国が侵略しようとするのかヒントが掴めるかもしれません。
だからその話し合いに行くつもりです」
レイはそこで一度言葉を切り、軽く息を整えた。
視線を皆に向け直すと、口調を少しだけ落ち着かせる。
「ここに集まってもらったのは、これから帝国へ向かうことを伝えるためです。
まずはこの状況をしっかり伝えたかったので集まってもらいました」
室内には、各々が違う感情を抱いた表情が並んでいた。
だが共通していたのは、その事態の深刻さを、全員が正しく理解しているということだった。
「で、僕が言いたいのは、できればみんなに危ない場所に来て欲しくないんです。
今回はダンジョンの比じゃないくらい危険な気がします。だから……」
その言葉を遮ったのは、フィオナだった。
「でも、レイ、あなたが行くなら私はどこでも一緒に行くつもりだ。
それが私の役目だと思っているし、それはレイでも止めることはできない。
あなたと共に行動し、守ることが私にとって最も大切なことなんだ」
彼女の意志は強く、揺るぎないものだった。
セリアも頷きながら、やわらかく言葉を続ける。
「私もフィオナと同じよ、レイ君。もし危険が迫るなら、私たちも力になれるわ。だから私も行きます。
レイ君、一人で抱え込まないでね」
リリーは少し考え込んでから、口を開いた。
「レイ君、一人で全部解決しようとするのは無理だと思う。
それに、最初にちょっかいをかけてきたのは帝国なんだから、引き下がるつもりはないわよ。
帝国の連中を思い知らせないと気が済まないから」
サラは軽く肩をすくめつつ、明るく言い放った。
「危険だからって、少年だけに全部任せるのはニャんか違う気がするニャ。
だから私も一緒に行くニャ、これは決定事項ニャ!」
冗談めいた口調とは裏腹に、その瞳は真剣そのものだった。
イーサンもまた、一歩前へ出た。
「レイ様、どうか私を信頼してお任せください。この日のために訓練を重ねてきました。
従者としてではなく、戦士としてお役に立ちます」
仲間たちの決意を前に、レイは一度深く息をついた。
そのうえで、静かに言葉を紡ぐ。
「みんなの意見は分かりました。でも、本当に危険なのは間違いないです。
だから、無理だけはしないでください。僕もそうします」
フィオナが真っ直ぐにレイを見つめて答えた。
「分かっている。無理はしない。でも、レイが危険に晒されるなら、私が全力で守る。
それだけは忘れないでほしい」
「そうね、無理はしないわ。でも、レイ君一人で抱え込まないで。私たちはいつも一緒よ」
「無理しないニャ。でも、楽しい冒険になりそうニャ」
「そうよ、危険なことはみんなで乗り越えましょう。無理はしないって約束するわ」
リリーの言葉は、熱を帯びていた。
「レイ様の判断に従います。私も慎重に行動しますので、どうかご安心を」
イーサンは頭を下げ、静かに誓った。
皆の思いが、ひとつに重なる。
レイはその声を胸に刻みながら、強く決意した。
「分かりました。ならオレの気持ちは、“絶対に誰一人欠けさせない“です!」
その瞬間、アルの声が心の中に届く。
(レイ、私も同じ思いです。誰一人欠けることなく、この件を終わらせましょう)
(ありがとう、アル。何かあった時は全力で頼むかもしれない)
(了解しました。いつでも準備は整っています)
その確かな応答に、レイは静かに頷いた。
仲間たちにもう一度視線を向けると、心の中で再び誓う。
誰一人欠けさせない。必ず皆で帰る。
「それで、会談の場所ですが、アレクシアさんにお願いしてあります。
ただ、返事をエヴァルニア国の教会に送るよう手紙に書いたので、実際に行かないと分かりません。
まずはザリアを経由してエヴァルニア国に向かいます」
イーサンが答える。
「では、レイ様、出発の時間を決めていただければ、そのように調整いたします」
「明日の朝に出発するよ。みんなよろしくお願いします」
その言葉に、全員が頷いた。
部屋には一瞬、静寂が流れる。
レイの決意と仲間たちの信頼が、確かに重なった瞬間だった。
やがて皆は、明日の出発に備えて、それぞれの準備へと動き出していった。
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