第269話(平和のための課題)
翌朝、レイは少し不満げに口を開いた。
「もう国王と会ったし、晩餐会で顔も見せたんだ。謁見なんて、もう必要ないんじゃない?」
イーサンは穏やかに微笑んで答えた。
「レイ様。晩餐会はあくまで社交の場。
謁見は、国王陛下から正式に認められ、今後の関係を築くための儀式です」
レイはため息をついたが、渋々頷いた。
「そうか……じゃあ、行くしかないな」
そのままシルバーが引く馬車に乗り込み、王城へと向かった。
車窓から町の様子を眺めながら、レイは黙り込む。
(認められるって……重いな)
王城に到着すると、レイは深呼吸して馬車を降りた。シルバーに“待っててね“と言うと
イーサンの案内で玉座の間へと進む。重厚な扉が開かれ、荘厳な空間が視界に広がった。
玉座には国王が静かに腰掛けていた。
「大聖者、レイ殿よ」
落ち着いた声が響く。
レイは緊張しながら一礼し、膝をつく。
「貴殿には、平和と安寧のために尽力していただきたい。知恵と力を、我が国にお貸しいただきたい」
国王の言葉に、レイは顔を上げて真剣な眼差しを向けた。
「はい、国王陛下。平和のために、全力を尽くします」
国王は静かに頷く。
「これにより、貴殿は正式に我が国の大聖者として認められた。神の加護が共にあることを願う」
儀式は淡々と進み、あっという間に終わった。レイは深く礼をして、玉座の間を後にする。
その後、レイは控え室のような部屋に通された。レイは首をかしげる。
「……あれ?まだ帰れないのかな?」
部屋の中を見回したそのとき、静かに扉が開いた。入ってきたのは、国王と宰相だった。
「えっ……?」
レイは驚きの声を漏らす。国王は、いたずらが成功したかのような微笑を浮かべながら言った。
「驚かせてすまなかったな、大聖者殿」
しかしすぐに、その表情は真剣なものへと変わっていった。宰相も同様に、重々しい雰囲気を纏っている。
そして国王が口を開いた。
「実は、大聖者殿には――いや、これは私的な話ではないな。
表立っては言えないが、お願いしたいことがある」
「だがこれは、我が国の領内の話ではない。隣国との関係に関わる事案だ。
大聖者殿の力があれば、もしかすると事態を収められるのではないかと思っている」
宰相が前に出て、冷静な口調で続けた。
「現在、小国家連合と帝国の間で、不穏な動きが続いております。
イシリア王国も小国家連合に隣接しており、どちらかが動けば我が国にも影響が及びます」
「特に、帝国の動向が危険です。最近の報告では、北の方で魔物を集めているとの情報が入っています。
魔物使役薬が関与しているようです」
レイは表情を引き締め、姿勢を正した。
「はい……その情報は、私たちがファルコナー伯爵を通じて伝えたものです。
間違いなく、帝国は魔物を戦力に取り込もうとしています」
国王は頷き、さらに言葉を重ねた。
「そこで、大聖者殿には、この不穏な状況を食い止めるために動いていただきたい。
争いが起きる前に、何とか両国を諌めてほしいのだ」
宰相も続く。
「この争いが本格化すれば、我が国の平和も脅かされます。
大聖者殿の立場であれば、両国の調停役となれるはずです」
レイは視線を落とし、しばし沈黙した。
(アル……おれ、こんなことまでやらなきゃならないのか? 一人じゃ無理だよな……)
(レイ、一人で背負う必要はありません。これは国家間の問題です。アルディアの力を借りるのが得策です)
(そう、だな……一人でやれることなんて、限界がある)
レイは目を上げ、静かに言った。
「私にどこまでできるか分かりませんが、アルディアを通じて、両国の代表と話ができる場を持てるか
確認します。それが、今の私にできる最善の方法かと思います」
国王と宰相は互いに目を合わせ、頷いた。
「それだけでも、十分に心強い。我が国の平和を守るため、あなたの助けに感謝する」
「どうかこれからも、我が国のためにお力をお貸しください。大聖者殿。
あなたなら、調停という困難な役目も担えるはずです」
こうして、表向きの謁見に加え、裏での非公式な要請も終わった。
レイは、また新たな使命を抱えて控え室を後にする。
まるで難題を押しつけられた子供のように、少し肩を落としながら。
その後、レイはイーサンに問いかけた。
「ねぇイーサン、アルディアに緊急連絡を取る方法って、あるの?」
イーサンは冷静に答える。
「教会には〈スカイホーク〉という益魔物を使った通信手段があります。
手紙を一日でアルディアまで届けることが可能です」
レイは神殿もそれを使ってたなと納得し、早速その足で教会へ向かった。
デラサイス大司教と話す、ほんの一刻前のことだった。
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