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第266話(豪華な宿泊地)

レイとイーサンが四大神教会イシリア総本部に足を踏み入れると、信者たちの歓声がふたたび湧き起こった。


しかし、王都でのパレードを終えたばかりのレイは、その声援をどこか遠くで聞いているかのように、

少しぼんやりとした様子を見せていた。


満面の笑みで応えることもなく、どこか疲れの色を漂わせながら、肩を少し落としたままの歩調で進む。


イーサンはそんなレイの後ろに控え、いつも以上に気を配っていた。

鋭い視線で周囲を静かに見渡しながら、護衛として、そして彼の影としてレイに付き添っていた。


レイが教会総本部の廊下を歩いていると、後ろから男がにじり寄ってきた。

イーサンは危険を感じ取り、レイのすぐ隣にさっと移動して身構える。


男は不自然にニヤリと笑い、低い声で話し始めた。


「よぉ、大聖者様。ちょっとお話ししたいことがあるんだが、顔を貸してもらえないか?」


レイは足を止め、振り返りながらも、その態度に不快感を覚えた。


「話って、何のことですか?」


イーサンは警戒心を緩めることなく、男をじっと見据えていた。

男は親しげな調子で肩をすくめ、さらに馴れ馴れしく話し続ける。


「おいおい、あんたももうこの世界でやっていくんだろ?

 高い地位にいるからこそ、持っておいて損はない話があるんだよ。

 これがあんたにもかなりのメリットがあるって話さ」


レイは眉をひそめながらも、冷静に問い返す。


「メリットって、具体的には?」


その時、イーサンが一歩前に出て、男に対して静かに警告するように言った。


「ご用件を簡潔にしていただきたい」


男は一瞬ひるんだが、すぐに態度を立て直し、小声で囁く。


「権力さ、大聖者様。お前さんは教会での力がある。だがな、貴族の力も持つとなれば、もっと上に行ける。

 伯爵様もそう言ってるんだ。『うちの娘があの大聖者と結婚すれば、双方にとって都合が良い』ってな」


レイは呆れたようにため息をついた。


「すみませんが、その話には乗れません」


イーサンは男の動きを見張り、いつでもレイを守る準備を整えていた。


男はそれでも笑顔を崩さず、さらに食い下がる。


「そう焦るなよ。娘は美人だし、あんたも悪い話じゃないだろ?

 権力者としてもっと自由に動けるってのは、いい話だぜ?」


レイは冷たく「結構です」と言い、背を向けて歩き出した。

イーサンもすぐに後ろに付き従い、男を鋭い目つきで牽制する。


「おいおい、考え直してくれよ!」

男は慌てて追いすがろうとしたが、イーサンの冷たい視線にひるみ、足を止めた。


「また胡散臭いやつか…」とレイが呟き、イーサンは黙って軽く頷く。



この二日で、ガメイツ男爵からは養子縁組、ゴヨーク伯爵からは娘との結婚話を持ちかけられたレイは、

さすがにうんざりしていた。


「まったく、次から次へと…」

小さく呟きながら、二人は教会総本部の奥へと歩を進めた。


(レイ、また権力を求めてくる連中が現れましたね)とアルが話しかけてくる。


(本当だよ。ガメイツ男爵もゴヨーク伯爵も、自分たちの都合ばかりで、オレのことなんて考えてないんだ)


(それが大聖者としての宿命かもしれません)


(分かってるけど、こんな話ばかりじゃ気が休まらないな…)


レイはそうぼやきながら、ため息をついて歩き続けた。




やがて、以前訪れたことのあるデラサイス大司教の執務室にたどり着く。

イーサンが静かにドアをノックし、中へ入る。続いてレイも入室した。


部屋には、女性陣四人とデラサイス大司教、そして彼の助祭が揃っていた。

皆、レイの帰還を待ちわびていたようだった。


デラサイス大司教は無言で四大神教の礼式を示し、レイもそれに倣って静かに返礼する。

イーサンは軽く頭を下げ、部屋の隅へと控えた。


「急なパレードのお願いにもかかわらず、こちらの都合にご協力くださり、感謝します、レイ殿」


デラサイス大司教は落ち着いた声でそう言い、軽く微笑んだ。


「いえ、お役に立てたなら幸いです」


すると、大司教の隣に控えていた助祭が一歩前に出て、丁寧な口調で告げた。


「レイ様がしばらく王都に滞在されると伺いまして、教会側で滞在先をご用意いたしました」


助祭は小さく手元の書状を確認しながら続ける。


「今回は、貴族区にございますホテルの上層階を一棟、教会の権限で貸し切っております。

 大聖者様のお部屋のほか、同行される四名の女性の皆様、そして従者の方のお部屋もございます」


「急ぎの手配ゆえ、さすがに豪華な邸宅というわけにはまいりませんが……

 静かで快適な環境を整えさせていただきました」


レイは助祭に一礼し、簡潔に応じた。


「ありがとうございます。私には十分すぎる場所です。

 広さや格式より、皆で落ち着いて過ごせる場所があれば、それで充分です」


その言葉に、リリーが柔らかく微笑んでうなずく。


「そうね。私たちはその方が落ち着けるわ」


「狭い方が安心するってあるニャ」

サラが冗談めかして言い、フィオナが小さく笑った。


一連のやり取りを見届けたデラサイス大司教は、満足そうに表情を和らげると、案内を締めくくった。


「何かご不便があれば、遠慮なく助祭までお知らせください。

 我々でできる限りの対応をさせていただきます」


教会から案内されたホテルは、すぐ近くにそびえ立つ立派すぎる建物だった。

その外観に、レイたちは思わず圧倒される。


最上階のペントハウスに案内されたレイは、その広さと豪華さに戸惑いを隠せなかった。

従者であるイーサンも、その贅沢な空間に目を見張っていた。


一方、フィオナ、セリア、サラ、リリーの女性陣には、その一つ下の階にスイートルームが

四部屋用意されていた。


それぞれ部屋に入ると、広さと豪華さに驚きの声を上げる。


「一人しか泊まらニャいのに、ベッドルームが二つもあるニャ! 部屋が広すぎニャ!」


「本当にこれは、私たちが泊まる部屋なのだろうか?」


だが、レイの部屋はさらに別格だった。


大きな窓から王都の景色が一望でき、高級家具が並ぶその空間はまるで一つの邸宅だった。

彼はため息をつき、独り言のように呟く。


「デラサイス大司教も助祭さんも、あんなに申し訳なさそうな顔をしてたから油断したよ。

これのどこが『豪華な邸宅とはいきませんが』なんだ…」


「なぁアル、なんかセリンの素亭の素泊まり銅貨十枚の部屋が恋しくなってきたんだけど、そう思わない?」


苦笑いを浮かべながら、レイは部屋を見渡した。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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