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第265話(すれ違う親子)

ドワーフの里で一泊したレイ達は、公爵と共に王都に向かっていた。

レイはガメイツ男爵とはなるべく目を合わせず、素早く馬車に乗り込んだ。


王都の外壁に到着すると、公爵と一緒だったため、紹介状を渡す必要もなく、王都の門をスムーズに通過できた。

ここで公爵や伯爵とは一旦別れることになる。


公爵達は内壁に入ってから王城へ向かったが、レイは教会主催のパレードが控えていたため、

スタート地点の一般区の教会に向かった。


パレードの後には王宮での晩餐会があり、翌日にはイシリア国王との謁見も控えている。


自分が大聖者としての立場にいる実感が湧かず、緊張よりも気が重かった。

これまで戦いと冒険に明け暮れてきた彼にとって、格式ばった儀式や形式張った行事は苦手だった。


フィオナとセリアもそんなレイの様子を察していた。


「大丈夫だ、レイ。パレードは馬車に乗って手を振るだけ。王宮の晩餐会も、ただの食事だと思えば良い」

フィオナが軽く声をかけた。


「そうそう、肩の力を抜けばいいのよ。私たちがついているから安心して」

セリアも同調する。


「何だかんだ言って、みんなレイを守りたいだけニャ」


「レイ君、無理しないでね。ここさえ乗り切れば、あとは少し楽になるわ」


「じゃあ、私たちは先に本部の方に行ってるから、イーサン、後はレイをお願いね」


「はい、お任せください」


レイと分かれた四人はそれぞれ異なる思惑を胸に抱いていた。

それはイーサンから晩餐会には大聖者のサポートとして一人だけ女性が同行できると聞かされていたからだった。


リリーは静かに周囲を見渡し、心の中で冷静に考えていた。

「晩餐会は貴族たちが集まる場だわ。帝国の動きとか、最新の情報を手に入れる絶好の機会ね」


彼女にとって、貴族たちの会話から情報を得ることは今後の大きな武器になると感じていた。


サラはふと鼻を鳴らし、食欲に駆られていた。

「晩餐会には豪華な料理が出るニャ!一度でいいからそんな料理を味わってみたいニャ」


王宮の料理がどんなものかが、彼女の最大の興味だった。


フィオナとセリアは、それぞれレイの隣に立ちたい思いを抱いていた。


フィオナは心の中で決意を固めていた。

「私がレイの盾になるべきだ。烈火の騎士の物語だって、こういう場では主君を守りながら一緒にいたはず」


一方、セリアは感じていた。

「ずっとレイを陰から支えてきたのは私。こんな時だからこそ、彼の隣にいるべきだわ」


四人の間には、表には出さないものの、晩餐会同行の権利を巡る静かな競争心が漂っていた。

それぞれが自分こそがふさわしいと信じていた。


レイとイーサンが馬車を降り、一般区にある教会の裏口から中に入ると、格の高いローブを纏った

上級司祭が出迎えた。無言で深々と頭を下げ、形式に則った四大神教の挨拶を示す。


レイも無言のまま、慣れた動作で手を挙げ、同じ挨拶を返した。

イーサンも黙礼して静かに後ろに控えていた。


「大聖者様、お待ちしておりました。

 本当ならもっと大々的にお披露目したかったのですが、あいにく軍が出動する騒ぎがあり、

 警備も手薄になってしまいました。

 ですので、ここから総本部までの短い区間でしかパレードの許可が降りなかったのです」


「いえいえ、短い方が私にとってはありがたいです」


「うーむ、大聖者様は謙虚でいらっしゃいますね」

上級司祭が感心した様子で言った。


「そういうことでは無いんですが…」

レイは苦笑いしながら、小さく肩をすくめた。


レイはまたしても純白に金糸の入った豪華なローブを着せられ、教会の用意した

オープンタイプの馬車に乗せられた。


そこから先は作業のようなものだった。

馬車は教会からスタートし、王都の観衆の中へと進んでいく。


セリンとは比べものにならないほどの観衆から声援が押し寄せ、レイは戸惑いを隠せなかった。


「大聖者様だ!」

「あれが今代の大聖者様か、若いなぁ」

「おお、大聖者様!」


声が四方八方から飛び交う中、レイは必死に手を振って応えた。

馬車が進むにつれて熱狂的な視線と声援が次々に注がれ、気が抜けない思いで手を振り続けた。


パレードは一般区を抜け、内壁を越えて貴族区に入ると、観客の数も徐々に減り始めた。

レイはようやく少し息を抜き、周囲を見渡しながら手を振ることができた。


歓声が少しずつ遠のく中、彼はほんのわずかに安堵を感じた。


***


その頃、セドリックとサティは駐屯地から王都へと帰還していた。

門の衛兵が二人の馬車を止め、内壁を通る道が混雑しているため、裏通りを通るように案内した。


「混雑?」


セドリックが眉をひそめると、衛兵が答えた。


「今、ちょうど大聖者の凱旋パレードが行われています。

 今代の大聖者様がイシリア王国出身で、聖地から戻ってきたのです。

 それで教会本部までパレードをしている様子です」


「へぇ、大聖者ねぇ……」


セドリックは軽く眉を上げ、驚いたように目を細めた。


その時、サティが馬車から顔を出し、声をかける。


「セドリック、何かあったの?」


「今、大聖者様の凱旋パレードをやってるそうだ。

 どうやらイシリア王国出身の大聖者が誕生したらしい。

 それで裏通りを通るように言われたってわけさ」


サティはその話に目を細め、何かを思い出すように遠くを見つめた。


「大聖者……? そう、それで晩餐会の招待状が家に届いたのね」


「まあ、この時期に駐屯から帰ってこられたんだから、大聖者様に少しは感謝しないとな」


セドリックは冗談めかして笑い、同行の騎士とともにサティの馬車へと戻った。

騎士たちは馬を馬車と並走させながら、王都の裏通りを抜けて家路を目指していく。


その瞬間、表通りを進む大聖者のパレードの馬車と、裏通りを進むセドリックとサティの馬車が、

一本の道を隔ててすれ違った。


まるで異なる二つの世界が、一瞬だけ交差したかのような、ほんのわずかな瞬間だった。


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