表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

274/334

第264話(男爵の申し出)

酔いがまわって寝てしまった仲間たちを、レイはアルに頼んで順番に起こしていった。

アルコールは魔力でほどよく分解、みんなほろ酔い状態に戻っていた。


「みんな、ボルグルが来てるよ」


声をかけると、フィオナたちはゆっくり目を開け、懐かしい顔ぶれに

「うわっ、本物!?」「生きてた!」と歓声を上げた。


飲食代はパーティ資金から支払われた。


「資金は増える一方だし、これくらい使った方が健全だ」

とフィオナがさらりと言い、レイは内心、ホッと胸を撫で下ろした。



少し場が落ち着いたところで、サラがボルグルに興味津々でたずねた。


「ねえボルグル、最近は何してるニャ?」


「最近はのう、工房にこもって船を作ってるんじゃ。じゃが、どうにもスピードが出なくて困っておるんだわい」


リリーが乗ってきた。


「え、船も作れるの?すごい!」


「おう、そこの港に停まっとった外輪船、あれもワシが手がけたやつじゃよ。

 ちと自慢の品じゃが、スピードだけが課題でのう…なかなか思うようにいかんわい」


「えっ、あれってボルグルさん作だったんですか?」

と、レイは驚いたように言った。


「そうじゃ。もうちょい速けりゃ完璧なんじゃがな」


その話を聞きながら、レイは心の中でアルに語りかける。


(アル、船ってもっと速くできない?)


(蒸気タービンを使えば、効率はずっと上がります)


(たーびん?)


(蒸気で細かい羽根を回して回転を生み出す仕組みです。

 その回転で、外に付けた“ねじ”のような羽根――スクリュー――を動かせば、

 水を押して船を進ませられます)


(ねじを……回して水を押す?)


(レイ、プロジェクションを使って図解します)


アルが視界に投影してくれた映像を見ながら、レイは頭の中で仕組みを整理していった。


「えっと……今の外輪って、水を叩いてる感じですよね?

でもこの方法なら、筒の中で細かい羽根を蒸気で勢いよく回して、

その回転で“ねじのような羽根”をぐるぐる回せるんです。

そいつが水の中で回ると、水を後ろに押し出して、船が前に進むってわけです」


ボルグルは腕を組んでしばらく唸っていたが、やがて目を見開いて言った。


「なるほど、その“ねじ羽根”が水を押すわけか!

 たしかに、外輪でバシャバシャするより無駄が少なそうじゃな!

 それに、回転軸が通ってりゃ、蒸気の力を直接伝えられる――こいつは面白い!

 試してみる価値はありそうじゃわい!」


そこからボルグルは、さらに熱っぽく語り始めた。


「今は魔石を燃焼室に置いて蒸気を作っとるんじゃが、外輪よりねじ羽根の方が効率ええかもしれんのぅ。

 それに、高温に耐える油を触媒に使えば、もっと出力を上げられるかもしれん。

 オーク油とか、ミノタウルス油とか……ふむ、実験する価値は十分あるぞ!」


技術の話に夢中になって目を輝かせるボルグルを見て、レイはふっと肩の力を抜いた。

アルのアイデアが役に立ったんだ――そう思うと、少しだけ誇らしかった。


「よっしゃ!さっそく試作に取りかかるぞい。おいプリクエル!いくぞ!船のいい案を思いついたんじゃい!」と元気に工房へ戻っていくボルグルを見送りながら、レイは小声で尋ねた。


「本当に、船ってもっと速くなるの?」


(ええ。エンジンがあるなら、次はタービンの時代です)と、アルは自信たっぷりだった。


レイは、よく分からないまま「へえ」と頷いた。


でも、彼がこの船の完成によって、ある“探し物”をしやすくなるのだが、それは先の話。


***


その夜、宿に戻ったレイは、玄関先でイーサンに呼び止められた。


「レイ様、少しお話が…」


「どうかしたの?」


イーサンは眉をひそめる。


「先ほど、ガメイツ男爵という方が面会を希望されていました。

 公都から同行してきた方ですが、ちょっと怪しい雰囲気がありまして…

 家令の方が来たのですが、念のためお断りしておきました」


レイは一瞬驚いたが、

「ああ、昨日の食事会にいた人でしょ?一緒にここまで来たんだから、さすがに門前払いはまずいよ」


「……そうですか」


「挨拶くらいなら、いいと思うよ。部屋は、どこ?」


イーサンに部屋番号を聞いたレイは、指定された部屋の前まで向かい、ノックした。


しばらくしてドアが開き、ガメイツ男爵が満面の笑みで出迎えた。


「おお、これは大聖者様ではありませんか!よく来てくれた…くださいました。ささ、中へどうぞ!」


レイは少しだけ警戒しながらも、礼儀として部屋に入った。

だが、その瞬間、思わず息をのむ。


テーブルにもソファにも、男爵が持ち込んだと思われる金刺繍のクロスやカバーが掛けられていた。

ここは一泊の宿なのに、部屋の中は派手すぎて居心地が悪い。強い香りも漂い、どこか落ち着かなかった。


「いや〜、来ていただき感謝ですな。実はちょっとしたお願いがありましてね…というか、提案というか…」


「お願い、ですか?」


「うむ。あなたの将来を考えてのことなのですが…わたくしの家の養子になっていただきたいのです。

 私の家は由緒ある名門でして、貴族社会でも大きな影響力を持っております。

 あなたの立場にとっても、大いにプラスになるはずですぞ」


急な申し出に、レイは目を見開いた。


「養子…?えっと、それって今ここで決めるような話じゃないですよね…」


「もちろん、もちろん。急にすぎたかもしれませんが…これはお互いにとって非常に有益な話なのです。

 私はあなたを後継者として迎え、最高の環境と支援を約束しますし、あなたの地位向上のために力を

 惜しみません」


「えーと…ちょっと、そういうのは…」


レイがやんわり断ろうとしたその時も、男爵の勢いは止まらなかった。


「なにも今すぐ決断せよとは言いません。ただ、少し考えていただきたい。

 我が家の影響力は王国全体に及びます。あなたの未来を盤石なものにするには、後ろ盾が必要ですからな」


レイは内心で(ああ、イーサンが言ってた通りだ…)とうんざりしながら、なんとか一言。


「考えておきます」


「うむ、ぜひ!あなたのため、我が家のため…これは非常に重要な話なのですぞ!」


部屋を出て廊下に戻ったレイは、ようやくため息をついた。


「やっぱり、イーサンの判断は正しかった…すっごい胡散臭い…」


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ