表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

273/334

第263話(酒は飲んでも呑まれるな)

宿屋のすぐ隣に「ドゥーリンの酒場」があるなんて、まったくの偶然だった。

レイたちは「それなら幸い」と、チェックインを済ませてすぐ向かうことにした。


「こんなに早く来たら、びっくりするかな?」

レイがちょっと不安そうに言うと、フィオナが笑って返した。


「さぁな。もう二ヶ月も経ってるし、意外と驚くんじゃないか?」


「この里に来て素通りしたら、確実に文句言われるわね」

セリアが笑い、サラが続ける。


「せっかく遊びに来てやったのニャ」

みんなで笑い合いながら、店へと足を踏み入れた。


中に入ると、周囲の視線が一斉にフィオナへ向いた。

どうやら、ハーフエルフはこの里でもかなり珍しいらしい。


レイは少し気まずそうに店主らしき男に声をかけた。


「すみません、ボルグルさんに会いたいんですが…」


店主は一瞬驚いたが、すぐににやりと笑った。


「ボルグルか。夜には来ると思うが、今は工房にこもってるだろうな。

 まぁ、座って待ってな。ヤツの客なら歓迎するぞ」


そう言って、彼はレイたちを席に案内した。


しばらくすると、大きな樽が運ばれてきた。


「ボルグルが言ってた。ハーフエルフと獣人を連れた客が来たら、これを出せってな」

そう言って置かれた樽には、しっかりと“ボルグル”の名が刻まれていた。


「これ、火酒じゃない?」

リリーが尋ねると、店主は胸を張った。


「そうだ。うちで一番強い酒だ」


「つまみは?」とレイが聞くと、


「炭火焼きチーズと、ホットペッパーの肉詰めが人気だな」


レイたちは素直にそれを頼むことにした。

そこへ隣の席のドワーフが声をかけてきた。


「ボルグルの知り合いか?」


「ええ、そうです」とレイが答えると、すかさず返ってきた。


「それなら飲まねばなるまい!」


ドワーフは勢いよくグラスに酒を注ぎ、レイの前に置いた。


「ど、どうしよう…」

戸惑うレイに、ドワーフの表情が少しずつ険しくなっていく。


これはまずい、と判断したレイは意を決して一気に飲み干した。


(アル、アルコール分解は?)


(どうします? 酔わないように? それとも少し酔ったフリを?)


(じゃあ…ほろ酔いで)

レイはそう指示を出したが、それが地獄の始まりだった。


最初はおずおずと飲んでいたレイだったが、酔いが回ってくるとテンションが上がってきた。


「全然平気です!」

と笑いながら飲み干すレイに、隣のドワーフは大喜びでどんどん酒を注ぐ。


「レイ、大丈夫?」とセリアが声をかけるも、


「大丈夫ですって! さぁ、サラさん、乾杯!」


「少年、なかなかやるニャ!」

グラスを掲げるサラ。すでに宴モードである。


気づけば、ボルグル印の酒樽は空っぽになっていた。


「おかわり持ってきてー!」と叫ぶレイ。

「いいニャ、それでこそドワーフの酒場ニャ!」とサラもご機嫌。


フィオナは呆れ顔で、「本当に大丈夫か…?」とつぶやき、リリーも苦笑する。


だが、レイとサラがあまりに楽しそうなので、ついに彼女たちも杯を手にした。


「まぁ、たまにはこういうのもいいか」


乾杯が重なり、店内はどんどん賑やかに。


「次はこっちも行くぞー!」

隣のドワーフが叫び、さらに大きな酒樽が運び込まれた。


完全に宴会である。


やがてボルグルが現れる頃には、リリー、フィオナ、セリア、サラ、店中のドワーフたちが酔い潰れていた。


ただひとり、レイだけがまだ元気にグラスを傾けていた。


「おい、ボルグルよ。あの人間……本当に人間か?」

店主がぽかんとしながらボルグルに言った。


「他は全滅なのに、こいつだけ平然と飲んでるぞ」


ボルグルはレイの姿を見て苦笑する。


「まさかレイが、こんなに酒に強いとはのぅ」


レイは笑顔でボルグルに手を振った。


「ボルグルさん、遅いよ! 一緒に飲もう!」


「お前さん、この店、高いんじゃぞ?」

苦笑いするボルグルに、レイはふと不安になる。


「……いくらですか?」


店主はしばらく腕を組んで考え、ニヤリと笑った。


「んー、金貨三十枚ってとこか?」


その瞬間、レイのほろ酔い気分が一気に吹き飛んだのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ