第260話(帰還準備)
レイは仲間たちと、秘書のアレクシア、助言者のセバスを交えて今後の話をしていた。
教皇アウレリウスから、自分のルーツを探すことも神の意志だと言われたことを思い出し、
レイはゆっくりと口を開いた。
「教皇様から、自分のルーツを探すことは神の意志だと言われました。
だから、イシリアに戻り、旅を続けてルーツを探したいと思います」
セバスは静かに頷き、助言した。
「自身の道を見つけることが、大聖者としての役割を果たすためにも重要でしょう」
「では、出発に向けてイシリア教会本部に連絡を取り、準備を整えます。
出航の時期はいかがいたしましょうか?」アレクシアは落ち着いた声で言った。
「準備ができ次第、できるだけ早く出発したいです。ただ急ぎすぎなくても大丈夫です」
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
アレクシアは頷き、その場を離れた。
「一応は、優秀な秘書だな」
フィオナはどこかまだ完全に信頼しきれない表情だ。
「でも、まだ様子を見た方がいいわね」
セリアは冷静に言った。
「皆さん、慎重でいらっしゃいますね」
セバスは呟いた。
レイは軽く笑った。
「まあ、みんなが仲良くしてくれたら、それでいいんだけどね」
それから三日後、レイは船の甲板に立ち、海風を感じながらイシリア王国に向かっていた。
アレクシアは船の手配からイシリア王都での滞在先まで、細かいところまで完璧に調整していた。
彼女が準備した資料一式はイーサンに渡され、イーサンはその手配書に従ってすべてをスムーズに実行していた。女性陣に頼まれてナノボットで船酔い防止を施し、順調にいけば、約二週間で公都に着く予定であった。
レイはぼんやりと海を見つめ、小さく呟いた。
「案外あっさりアルディアを出られたな…もっと色々引き留められるんじゃないかと思ってたけど」
彼が想像していたよりも、教会の人々や枢機卿たちは彼の旅立ちを静かに見送った。
それが少し意外だったのか、レイは微かに苦笑した。
その呟きを聞いて、アルが静かに補足した。
(アルディアにいるよりも、外に出た方が利になると思ったのでは?
大聖者のお披露目の場として、イシリアは絶好のチャンスですからね)
レイはアルの言葉を受け、少し驚いた表情を浮かべながら言った。
「そうか…大聖者って、どこに行っても注目されるんだな。
けど、外に出ることで得られるものもあるってことか」
レイが微かに苦笑した後、セリアが彼をちらりと見ながら呟いた。
「無事に大聖者になったとはいえ、油断は禁物だよね。」
フィオナが腕を組みながら深く頷いた。
「そうだな。表立って取り込もうとするものは防げるが、絡め手を使ってくるものが現れるかもしれん。
特に、帝国の動きは警戒しないとな」
リリーが微笑みながらも、しっかりとした口調で言った。
「教皇様から国々の間に立って、争いを調停する役目もあるから、帝国の策略は防げるかもしれないわ。
でも…簡単ではないわよね」
サラはしっぽを揺らしながら、ニヤリと笑って口を挟んだ。
「そうなれば、国の調停をしながら美味いものが食べられるニャ」
フィオナが少し苦笑しながらサラに返す。
「油断は禁物だと言ってるのに、サラは食べ物の話か」
サラは軽く肩をすくめ、真剣に言い直した。
「みんながいうこと聞いてくれるって保証もニャいし、もっと難しくなるかもしれないニャ」
「たしかに、言うことを聞いてくれない相手が出てくる可能性は高いわね。これからが本番って感じね」
セリアも同意して、静かに付け加えた。
レイは仲間たちの会話を聞きながら、少し引き締まった表情になった。
「油断大敵ってやつか、気をつけよう」
「そうだな。どんな小さな隙も見逃してはいけない」とフィオナが静かに頷いた。
「これからが本番よ。お互いに助け合いながらね」と、セリアも冷静な口調で付け加えた。
「大聖者様になったんだから、もっとしっかりしてもらわないとね」
とリリー軽く冗談を飛ばしながらも、心配を隠せない様子だった。
「まぁ、心配しすぎニャ。私たちがついてるんだから、何とかなるニャ」
サラは相変わらずの軽やかな口調で、場を少し和ませた。
そして二週間後、レイたちはイシリア公都の港に到着した。しかし、港の様子はいつもと違っていた。
静かな港の風景とは異なり、至るところに大きな旗が立ち、幟が風にはためいている。
華やかさと同時に、どこか不穏な空気も感じられた。
レイは視力強化の魔法で遠くを見つめた。
すると、群衆の熱気が異様に高まっているのがわかり、背筋に鳥肌が立った。
「大聖者様、歓迎!」
そう書かれた大きな旗が掲げられ、群衆の歓声が港全体に響いていた。
レイは目を丸くし、すぐにイーサンを呼び寄せる。
「ちょっと待って。『大聖者様、歓迎』って……なんでそんなのが用意されてるの?
俺が来るって、どうして知ってるの?」
イーサンは、まるで当然のことのように静かに答えた。
「私から、イシリア教会本部に事前通達を出しました。
教皇猊下のお言葉に従い、大聖者としての公的訪問と認識されておりますので」
レイは軽く頭を抱える。
「いや、それにしても歓迎って……ちょっと大げさすぎない?」
「王国側は、これを“神の祝福の来訪”と位置づけていますから。
現地教会の判断で、最大限の礼を尽くしているのだと思われます」
「……そっち方面、完全にノーマークだった」
そう呟きながら、レイは正面に掲げられた巨大な横断幕をもう一度見上げた。
そこには確かに、金糸で縁取られた文字が誇らしげに踊っている。
「大聖者様、歓迎」
「イーサン、この後の予定ってどうなってるの?」
イーサンは冷静に説明を続けた。
「まず、港で歓迎式典が行われます。次に公都の教会で感謝の祈りを捧げ、その後、公都や地方都市の
代表との夕食会が設けられています。
次の日に、王都に移動して頂き、一般区の教会からイシリア本部までのパレードが行われます。
その後、王宮での晩餐会が予定されており、翌日には、イシリア国王との謁見があります」
「油断大敵って言ったばかりなのに、そっちは油断してた!」
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