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第257話(彼女たちの焦燥と彼の平穏)

一方その頃、フィオナやセリアは、ついに我慢の限界に達していた。


神聖都市アルディアから立ち退かされて以来、レイには会えず、既に一ヶ月以上が経過していた。

それでも彼からの連絡は一切なく、状況はまったく見えてこない。


二人は苛立ちを抱えながら、何度もアルディアの門を訪れていた。

だが、返ってくるのは毎回同じ言葉だった。


「聖者様は試練中です」


それ以上は語られず、情報も得られないまま門前払いされる日々が続いていた。


「もう何度目だろうね…」


セリアが肩を落として呟いた。


「我慢の限界だな…」


フィオナも不機嫌そうに言葉を重ねた。


焦燥と不安は日を追うごとに募り、レイに何が起こっているのか、どれほど過酷な試練に挑んでいるのか、

まるで見当がつかない。怒りと心配が入り混じった感情が、彼女たちを静かに追い詰めていた。


セリアがため息をつきながら宿に戻ると、サラが声をかけた。


「またダメだったニャ?」


フィオナは疲れた表情で頷く。


「やはり同じ返事だった。『聖者様は試練中です』だけだ…何度聞いても変わらない」


「本当に少年は大丈夫かニャ…もう一ヶ月以上待ってるニャ」


サラの声にも、じわりと不安がにじんでいた。


フィオナは窓の外を見つめながら、静かに呟く。


「焦っても仕方ないけど…あまりに情報がないのも不安だな」


すると、リリーが眉をひそめながら口を開いた。


「このまま待っていても埒があかないわね。何か別な方法を考えないと、情報すら取れないわ…」


「リリ姉、何か考えがあるの?」


「ええ、ちょっと思いついたことがあるの。試してみる価値はあるかもしれないわ」


リリーはそう言うと、すぐさま具体的な策を口にした。


「アルディアに直接入れない以上、内部の情報は取れない。

 でも、代わりに――アルディアに出入りしている下級職員や供給業者を当たる手があるわ。

 彼らなら、内部の状況や、試練の進行具合をある程度知っているはず」


「供給業者?」と、フィオナが首をかしげる。


「そう。食材や道具を納品している商人や、修繕のために出入りする職人たち。

 彼らなら神殿内の動きを断片的にでも見ているはず。もちろん、目立たず接触する必要があるけどね」


セリアはすぐに納得した様子で頷いた。


「それなら私も協力できるわ。商人との交渉なら任せて」


「私も手伝うニャ!」


サラも意気込む。

リリーは微笑みながら続けた。


「直接内部に入り込むのは危険が伴うけど、これなら安全に進められる。

 レイの状況を知るために、慎重に動きましょう」


こうして、リリーたちはアルディアと取引のある業者たちに接触し、間接的に情報を得るという作戦を開始した。


まず彼女たちが目をつけたのは、食材や道具を定期的に納品している商人や職人たちだった。

交渉役はセリアが担当することになった。彼女は話術に長けており、相手の警戒を解くことができるからだ。


「こんにちは、ちょっとお話を伺いたいのですが……」


セリアは、アルディアから戻ってきたばかりの商人に声をかけた。

最初は世間話から入り、徐々に内部の話題へと切り込んでいく。


その巧妙な話し方に引き込まれた商人は、やがてぽつりと漏らした。


「最近、神殿で何か大きな試練が行われているらしいんだ。

 詳しいことはわからないが、聖者様が“泉に向かう試練”を受けてるみたいだよ。

 かなり遠くまで行ってるって話だ」


続いて、彼女たちは職人にも話を聞いた。


彼らからは――聖者が火を越え、知識を問われ、癒しを施すという、いくつもの試練をすでに

突破してきたこと。そして、神殿と外部との連絡が制限されていることが明らかになった。


泉の試練については、職人たちの間でも噂程度の認識しかなく、内容や場所については

詳しく知られていなかった。


サラは苛立ったように言った。


「情報は限られてるニャ……」


だがリリーは冷静に頷く。


「今の段階でこれだけ分かったなら、上出来よ。引き続き慎重に進めましょう」


宿へ戻った彼女たちは、集めた情報を整理しながら、

レイがいくつかの過酷な試練を乗り越えてきたことを確信し始めていた。


「火の中に入っていった試練もあったらしい。神聖な火の中を通過するなんて……普通の人間じゃ無理よね」


セリアが驚いた声をあげる。


「それに、知識を問われる試練もあったらしいニャ。

 神殿の中で学ばないと答えられニャいような、難しい質問をされたらしいニャ」


そこでセリアが手元の紙を握りしめながら声を上げた。


「待って、これ……“癒しの試練”、城塞都市の教会で行われてたってこと!?」


「……ああ。しかも、日付を見る限りだと――」


フィオナが紙の隅を指で押さえながら言葉を継ぐ。


「もう二週間以上前、だな」


その瞬間、セリアが立ち上がり、思いきり足を踏み鳴らした。


「ちょっと、それって……そのときレイ、すぐ近くにいたってことじゃない!

 ……なんで気づけなかったんだろ、なんで……!」


フィオナも目を伏せながら歯を食いしばった。


「アルディアの門前で追い返されてた頃……。あのとき、すぐそこにいたのか……」


悔しさがじわじわと込み上げ、セリアの拳が震える。


「せめて、もう少し早く情報が取れていれば……! 一目でもいいから会えたかもしれないのにっ……!」


フィオナが低く息を吐いた。


「神殿側が情報を伏せていた以上、完全に塞がれていたな。でも、悔しい……なぜ気づかなかった…」


サラが沈んだ声で言った。


「そんなに近くまで来てたのニャ……」


リリーは静かに二人の様子を見つめながら、落ち着いた声で言った。


「……これ以上、後手に回るわけにはいかないわ。今度こそ、確実に情報を掴む」


セリアは唇を噛みしめながら力強く頷いた。


「絶対に……次は見逃さない。何があっても、レイに会うんだから!」



***


一方その頃、当のレイ本人は、女性陣の心配などまったく知らぬまま、泉の試練の地で

平穏な時間を過ごしていた。


「よし、次はもう少し細くなるようにライズを試してみるか…」


そう独り言を呟きながら、彼は土魔法の訓練を兼ねてオブジェを作っている。


一人きりの試練の場で、彼はむしろのびのびと過ごしていた。

誰かが心配していることなど、まるで気づいていないようだった。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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