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第255話(癒しの試練)

レイがエルセイド王国の城塞都市に到着した時、広い石畳の広場が目の前に広がっていた。

人通りは少なく、静かな空気が辺りを包んでいる。都市のあちこちに、何かを待つような緊張感が滲んでいた。


ここで、第四の試練が行われる。レイはそう聞かされていた。


本当は、先に仲間に連絡を入れたかった。

だが、この城塞都市のどこに滞在しているのか分からず、連絡は諦めるしかなかった。


「第四の試練は、病人の癒し――か」


教会の建物を見上げながら、レイはつぶやく。


(これは私の十八番とも言える試練ですね。病や怪我を癒すことは得意中の得意ですから)


アルの声が、いつもの調子で返ってくる。


この試練では、「慈悲の心」と「治癒の力」が試される。

大聖者としてふさわしい資質があるかどうか、教会はそれを見極めようとしていた。


教会の治療院に案内されると、レイは早速、患者たちの治療を始めた。

病や怪我を負った者が次々と運ばれてくるが、アルのサポートもあって治療は順調に進んでいく。


だが、八人目の治療が終わった時、異変が起きた。

年配の女性が立ち上がり、鏡を見て叫ぶ。


「わ、若返っとる〜! 聖者様の奇跡じゃ! なんてことじゃ、私の皺まで消えた!」


レイは思わず目を見開いたが、すぐに思念でアルに問いかける。


(アル、やばい!やり過ぎてる! もっと抑えないと!)


(レイ、ナノボットを抑え込んだ反動が出ているようです。もう一度プログラムし直します)


アルは落ち着いた声で応じたが、すでに遅かった。

噂はすぐに広まり、周囲の患者たちが一斉に詰め寄ってくる。


「私も!」

「若返らせて!」

「私を先に!」


人々が群れになって押し寄せた。


「やばい、騒ぎが大きくなりすぎた……」


レイは頭を抱えつつ、どうにかしてこの騒ぎを収める方法を考えた。

だが群衆の勢いは強く、抑え込むのは容易ではなかった。


そこで、レイはとっさに策を講じる。


「みなさん、落ち着いてください!」


声を張り上げ、周囲の注目を集めた。


「この方が若返ったのは、私だけの力ではありません。

皆さんの慈悲の心と、私の治癒の力が今、試されているのです!」


その言葉に、群衆は一瞬静まり返る。

レイはさらに語りかけた。


「今、試されているのは私だけではありません。皆さんも同じです。

善行を積んだ方は、その慈悲の心で若返ることができるかもしれません」


そして、少し声を落とし、間を置いて続けた。


「しかし……善行を積めなかった人は、どうなると思いますか?」


ざわつきが広がる。誰かが小さくつぶやいた。


「悪いことをしてきたら……どうなるんだ?」


レイはその反応を逃さず、さらに言葉を重ねる。


「その場合、治癒の力は逆効果になります。たとえば……余計に老け込むかもしれません!」


大袈裟に手をかざしてみせると、群衆の中には不安げに後ずさる者も現れた。


「それは困る……」

「じゃあ、私は善行を積んでるのか?」

「ちょっと自信がないな……」


レイは内心ほっとしながらも、表情は変えずに続けた。


「だからこそ、静かに順番を守り、まずは心の清さを示しましょう。

 私の力が及ぶ範囲で、皆さんの健康を回復させます。


 ただし――善行のない心には、私の力は届きません。若返りも、癒しも、その心次第なのです!」


ようやく群衆は落ち着きを取り戻し、秩序が戻り始めた。

レイは心の中で安堵し、深く息を吐く。


(レイ、とっさの割には良い感じで場が収まりましたね)


(なんか知識の試練の後、自分でも冴えてるってことが増えたんだよね。でも危なかったな。

 正直、この試練が一番楽勝かと思ってたんだけど、こんなに手こずるとは思わなかった…)


ため息まじりに思考を巡らせながら、レイは次の患者に目を向けた。


その時、年配の男性が静かに立ち上がり、レイに近づいてきた。

控えめな態度で、彼は小さく呟いた。


「見事でした、聖者様。力そのものではなく、それをどう使うか……

 それこそが、真の試練だったのかもしれません。どうか、その重さを忘れぬように」


レイは驚いて顔を上げたが、男性の姿はすでに群衆の中に紛れていた。

顔すらはっきり見えず、ただその背だけが遠ざかっていく。


「誰だったんだ……?」


レイの呟きに、返事はなかった。


(レイ、ナノボットには指示した患部以外の治療行為を行わないように再プログラムしました。

 これで何とかなると思います)


(助かった。これで無駄に若返らせたりする心配はなくなったな)


レイは内心で安堵しながら、再び患者の方へ向き直った。


目の前の患者は、少し怯えた様子を見せていた。

先ほどの騒ぎの影響が、まだ残っているのだろう。


「心配しないでください。あなたの体に必要な部分だけを癒します」


レイは優しく声をかけ、手をかざした。


再プログラムされたナノボットが、的確に患部だけに作用する。

治癒は穏やかに進み、患者の表情からは徐々に緊張が消えていった。


(もう、この試練早く終わって欲しい……こっちが老けそうだよ!)


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