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第251話(天聖宮への導き)

レイたち一行は、神聖都市アルディアの門を通過すると、馬車を降りるよう促された。

門番の上官から引き継がれた神殿騎士二名に先導され、巡礼者たちとは別の道へと案内された。


騎士たちは厳粛な態度で、無言のままレイたちを静かな通りへと導く。


街道には多くの巡礼者が集まり、彼らは一様に広場へと向かっていた。

巡礼者たちは証明書を手に、聖堂に入る準備を進め、あちらこちらで祈りや賛美歌が聞こえていたが、

レイたちが進む道はその喧騒から遠ざかり、別の静寂に包まれていた。


「他の巡礼者とは違う道を進んでいるようですが……」とセリアが不思議そうに呟く。


それを聞いた神殿騎士の一人が静かに答える。


「あなた方は特別な招待を受けています。この道は、一般の巡礼者が立ち入ることのできない、

 教皇様がいらっしゃる天聖宮へ通じています」


フィオナは周囲を見渡しながら理解するように呟いた。


「なるほど、だからこんなに静かなんだな」


一方、巡礼者たちの賑やかな声は徐々に遠ざかり、レイたちはまるで別世界にいるかのような静けさの中を

進んでいく。重厚な石造りの建物が立ち並び、神殿騎士以外の姿は見当たらない。


神聖都市アルディアの中心部に近づくにつれ、空気がさらに厳粛なものになっていくのを感じた。


レイは馬車の中から外を眺め驚きの声を漏らした。


「ほんとに静かですね……巡礼者がたくさんいるはずなのに、まるで別の場所にいるみたいです」


神殿騎士たちは変わらぬ無言のまま、確実に彼らを教皇の待つ天聖宮へと導いていった。


やがて、案内の兵に従って建物の近くまでたどり着くと、騎士たちが見張る馬車置き場に通された。


そこに馬車を停めるよう指示を受け、シルバーはその場で待機することになった。

レイたちは荷物を簡単に整えると、馬車を置いて荘厳な石造りの建物の中へと足を踏み入れた。


建物の中に入ると、厳粛さが一層際立っていた。


広い石造りの廊下を進むと、一人の司祭が現れ、彼は深い色のローブをまとい、神聖な雰囲気を漂わせながら

レイたちを迎えた。司祭は四大神教の挨拶を示すように、ゆっくりと右手を上げ、左手を胸に当てた。


レイたちも同じように右手を開き、左手を胸に当て、軽く会釈をした。


その後、神殿騎士は一歩下がり、司祭が新たにレイたちを案内し始めた。


「こちらへお進みください。教皇様がお待ちです」


司祭は穏やかな声で促し、廊下を先導していった。


やがて、彼らは天聖宮の広間にたどり着いた。


そこには、五名の枢機卿が整然と並んでいた。枢機卿たちは厳粛な態度を保ちながら、レイたちを見据え、

彼らの背後には薄いカーテンが引かれ、教皇が静かに座していた。


枢機卿たちは整然と並び、誰一人としてその姿を乱すことなく、厳粛な空気を保っていた。

全員がレイたちを見据え、広間には一層の緊張感が漂っていた。


彼らは四大神教の正式な挨拶をゆっくりと行い、右手を開き、左手を胸に当てた。


レイもそれに倣い、同じように挨拶を返す。


すると、一人の枢機卿が前に進み出て、静かに口を開いた。


「聖者よ、よくここまで参られた。教皇様がご覧になっているが、大聖者となるには、

 この五名の枢機卿のうち、三名以上が認める必要がある」


レイはその言葉に無言で頷いた。


「だが、認められるためには、我々が出す試練を乗り越えねばならぬ。

 その全てを克服し、最終的に教皇様の認定を受けて初めて、大聖者として名乗ることができるのだ」


枢機卿はレイをじっと見つめ、静かに続けた。


「試練の詳細は、後ほど伝える。いずれにせよ、まずは試練を受けることになる。それが大聖者への道だ」


レイはその言葉を噛み締めながらも、黙ったままじっと聞いていた。

枢機卿たちの重々しい姿勢が、これからの試練が厳しいものであることを物語っていた。


「これにて謁見を終える。準備が整い次第、試練の詳細を伝えるだろう」

と枢機卿は告げ、静かにその場を退いた。


謁見が終わると、広間に張り詰めていた緊張感が少しだけ和らいだ。

レイは一歩下がり、教皇と一言も交わすことなく謁見が終わったことに、思わずぽつりと漏らした。


「あれ、これで謁見終わり?……オレ、何も話してない。それに教皇様と一言も話してないんだけど…あれぇ?」


***


一方その頃、四大神教会イシリア王国総本部では、大司教デラサイスの執務室に、

旧友セドリック・ブラゼンハートが訪れていた。


セドリックが部屋に足を踏み入れると、デラサイスは格式を保ちつつ、穏やかな笑みを浮かべた。


「セドリック卿、ようこそ。お忙しい中、わざわざお越しいただき感謝いたします」


セドリックもやや堅い口調で応える。


「デラサイス様、こちらこそお時間をいただき感謝します。実は暫く王都を空けることになりまして、

 その前に挨拶を」


しかし挨拶が終わると、セドリックは表情を崩し、苦笑を浮かべた。


「なあ、デラサイス。やっぱりこういう形式ばった話は、お互い気持ち悪いだけじゃないか?」


デラサイスも肩の力を抜き、静かに笑った。


「まったくその通りだ、セドリック。昔からの仲だというのに、つい礼儀を気にしすぎたな。

 ――で、どうした? こんなところにわざわざ顔を出すなんて、珍しいじゃないか」


セドリックは小さく息をつき、表情を引き締めた。


「ああ。実は――帝国と小国家連合の間で、不穏な動きが出てきている。

 噂では、帝国が小国家連合を見限って、逆に侵攻を仕掛ける可能性があるらしい。

 王国軍も国境沿いの砦に兵を集めてる。……俺も年末まで、砦に派遣されて様子を見ることになったんだ」


デラサイスは真剣な表情で頷く。


「それで、わざわざ挨拶に来たというわけか。危険な任務だな。気をつけろよ」


「まあな。でも、これも仕事だ。それに何かあれば、すぐ戻ってくるさ」


セドリックは冗談めかしながら笑い、いつもの調子で続けた。


「しばらく王都にはいられないけど、まあ適当にやってくれ。あんたがいるなら、俺の留守も安心だ」


そう言ったセドリックの言葉を聞きながら、デラサイスはふと視線を細める。

そして、彼の顔をじっと見つめながら、ある思いが頭をよぎった。


……レイのことだ。


その面影が、どうしてもセドリックに重なる。


(今はそのことを口にすべきではない……)


そう考えたデラサイスは、言葉を飲み込み、代わりに穏やかな笑みを浮かべて告げた。


「ともかく、気をつけろよ、セドリック。何かあれば、いつでも頼ってくれ」


セドリックも立ち上がり、軽く手を振る。


「ああ、ありがとう。新年になる前には戻ってくる。そうしたら――また飲もう」


セドリックが執務室を去ったあと、デラサイスはひとり、机の前でじっと考え込んでいた。

ふと、過去の記憶が胸に浮かぶ。


――あのとき、セドリックとサティが息子を亡くした時のこと。


二人は絶望し、何度も、何度も涙を流していた。

その姿が、今でも頭から離れない。


「また不用意な言葉で、あの夫婦に希望を持たせてしまったら……」


もし、レイがセドリックと関係があると伝えたとしても、それが確証のない話であれば――

その希望は、やがて裏切りに変わり、ふたりに再び深い傷を与えるかもしれない。


デラサイスは静かに目を伏せた。


「慎重にすべきだ……」


そう呟いた彼の表情は、深い葛藤と哀しみに満ちていた。


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