表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

260/334

第250話(神聖都市への招待)

レイたちは、巡礼者たちと一緒に船を降りた。

狭い場所からようやく解放されたシルバーは、鼻息荒く甲板を踏みしめる。


港から続く石畳の街道を、巡礼者たちは整然と歩いていく。

レイたちもそれに倣い、馬車を引いてゆっくりと進んだ。


シルバーの堂々たる姿や異国風の馬車に驚いた巡礼者たちは、何度も振り返ってくる。

だが、レイたちはそんな反応にはすっかり慣れていた。


やがて、大陸の広大な草原と林の向こうに、巨大な城塞都市の輪郭が見え始める。


「大きいなぁ。ここが神聖都市アルディアか……」


レイは見上げるように城塞を眺めながら、つぶやいた。


近くを歩いていた巡礼者が、笑顔で応じる。


「違いますよ。

 ここはエルセイド王国の城塞都市です。神聖都市アルディアは、この都市の中央にあります」


「え? ここがアルディアじゃないんですか?」


「そうですよ。アルディアはこの城塞都市の中に隠されています。

 巡礼者たちはこの拠点を経由して、聖地へ向かうんです」


巡礼者の説明に、レイはフィオナとセリアに視線を向けた。


「ん? どういうことだ?」


フィオナは首をかしげながら、城塞を見上げる。


「まさか、都市の中にさらに都市があるのか?……入れ子みたいな感じだな」


「確かに、こんな構造は予想してなかったわね。つまり、まだアルディアには着いてないってことか……」

と、セリアが静かに応じる。


「ニャ〜、城塞都市に入ってからが本番だニャ!」


サラは楽しげに尻尾を揺らしながら言った。


その時、別の巡礼者が近づき、目を輝かせて声をかけてきた。


「おいおい兄ちゃん、この馬すごいな! これって魔物なんだろ?」

「こんなに立派な馬車を持ってるなんて、あんたたち、どんな冒険者なんだ?」


今度は別の巡礼者も話に加わる。

突然の質問攻めに、レイは少し焦った様子で答えた。


「えっと、シルバーは従魔で……」


言いかけたところで、さらに別の巡礼者たちが割り込むように話しかけてきた。


「神聖都市アルディアは日中、巡礼者や聖職者で溢れかえるんですが、夜になると一気に静かになるんですよ」


情報通らしい巡礼者が、話の流れとは無関係に語り始める。

レイは困惑しつつも、無下にはできず耳を傾けた。


「そうそう!夜になるとほとんどの人が宿や家に戻って、神殿騎士だけが残るんだ。

 私も初めて来たときは驚いたよ」


リリーが興味深そうに尋ねた。


「なぜ、夜になると静かになるんですか?」


「アルディアは聖地ですからね。夜には“聖なる静寂”が大事なんです。

 巡礼者もそれを尊重して、夜は外を歩かないんですよ」


さらに別の巡礼者が、誇らしげに口を開いた。


「三回目の巡礼だけど、毎回新しい発見があるんだよね。

宿に入ったら、アルディアの見える窓がある方の部屋を頼むといいよ!

特に夜のアルディアは一見の価値があるから!」


その横で、シルバーは巡礼者たちに囲まれながら、にんじんをもらって尻尾を振っていた。

満足げな顔でのんびりと歩き続けるその姿に、また人だかりができていく。


レイはその様子を見て、「やっぱり目立つよな……」と内心でため息をついた。


***


城塞都市の門前では、巡礼者たちが順番を待っていた。


一人ひとり、巡礼の証明書を門番に見せ、寄進を行いながら都市へと入っていく。

レイたちもその列に加わり、静かに順番を待った。


やがて、レイの番が回る。


「次の方、目的地がアルディアの方は、証明書の提示をお願いします」


門番が促すと、レイはゆっくりと懐から一通の書状を取り出した。

それは巡礼証明書ではなく、大司教から預かった“教皇への紹介状”だった。


書状を受け取った門番は、目を見開いた。


「えっ……教皇様への紹介状!?」


その言葉に上官が駆け寄り、周囲の巡礼者たちがざわめき始める。

視線が一気にレイたちに集中した。


「教皇様に会うって? 一体何者なんだ?」

「兄ちゃん、ただの巡礼者じゃなかったのか……?」


人々の視線には、驚き、興味、尊敬、警戒――さまざまな感情が入り混じっていた。


フィオナが小さくため息をつき、レイの肩に手を置く。


「できれば穏便に入りたかったが、騒ぎになるのも仕方ないな……」


サラは尻尾を揺らしながら、嬉しそうに言った。


「ニャ、みんなレイたちを見てるニャ。まるで舞台の上に立ったみたいニャ」


セリアは少し眉をひそめてつぶやく。


「これじゃあ、普通に歩けないわね……」


レイは上官に近づき、申し訳なさそうに頭を下げた。


「すみません、あんまり目立ちたくないんですが……ここを通してもらえますか?」


上官は一瞬戸惑ったものの、すぐに真剣な表情で応じる。


「教皇様への紹介状を持つ方が、目立たずに通過するのは難しいです。

 ただ、できる限りの配慮をいたします」


「普通に通してくれるだけで良かったのに……」


レイは苦笑し、小さくため息をついた。


だが事態はすでに拡大していた。

上官は一歩退き、敬意を込めて深く一礼する。


「馬車にお乗りください。私が先導して、神聖都市アルディアの門までご案内いたします」


「こうなったら仕方ないな」


フィオナが頷き、レイたちはシルバーの引く馬車に乗り込んだ。

上官は馬車の前に立ち、進行を開始する。


街道に入ると、周囲の人々が目を止め始めた。

ひそひそと話し合う声、指さすしぐさ、驚いた表情――騒ぎは徐々に広がっていく。


「なんだ、あれは?」

「すごい馬車だな!」

「あの人たち、何者なんだ?」


レイは馬車の中で額に手を当て、ぼそりとつぶやいた。


「目立ち過ぎだよ……」


シルバーは鼻を鳴らし、堂々と街道を進んでいく。

レイたちは多くの視線を集めながら、神聖都市アルディアの門へと向かった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ