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第249話(嵐を越えて、聖地へ)

『天翔ける聖翼』は、外洋に出てからしばらくの間は順調に進んでいた。

だが、空に黒い雲が立ち込め、風が急に強まったかと思うと、波が見る間に荒れ始める。

船体が上下に激しく揺れ、船内はまるで巨大な獣に掴まれて振り回されているかのようだった。


レイたちは備え付けのテーブルにしがみつきながら、窓の外を注視していた。

船は大波に持ち上げられては、そのまま谷間へと叩き落とされる。

雨は甲板を激しく打ちつけ、天候は急激に荒れ狂っていく。


「こんなに揺れたら、普通は船酔いするはずなんだがな……」


フィオナが船の揺れに身を委ねながら、意外なほど落ち着いた声で呟く。


「外を見ても波しか見えないわよね。なんでこんなに落ち着いていられるのか、不思議よね」


セリアも、窓越しの荒波に目をやりながら言った。


「ニャ…、体調がすこぶる良いニャ。信じられニャいな」


サラが耳をぴんと立てて同意する。

いつもなら船酔いに怯えるはずの彼女だったが、今はまったく不調を感じていない様子だ。


「アルの調整のおかげで平衡感覚がしっかり保たれてるのよね」


リリーが冷静に解説する。


「いや、それより、船の方が心配なんですけど……」


レイは額に手を当て、深いため息をついた。

船の揺れは想像以上に激しく、不安は募るばかりだった。


一方、外では船長たちが嵐に立ち向かっていた。

荒れ狂う風と波の中、クルーたちはロープにしがみつきながら帆を下ろし、船長は舵を握りつつ、

寸分の狂いもなく冷静に船を操っていた。


「波がさらに高くなる! 各自、持ち場を離れるな! 命綱を確認しろ!」


船長の怒号が飛ぶ中でも、クルーたちは動じることなく、訓練通りに正確に動いていた。


船内でも、家具や荷物が転がり、ランプが不規則に揺れていた。

窓の外では、時折、巨大な波がガラスにぶつかり、鈍い音が響く。


そんな中でも、誰一人として船酔いの気配はなかった。


「ほんと、おかげで体調は全然悪くならないんだけど……」

セリアが小さく笑みを浮かべながら言った。


「でも、これだけ揺れるとやっぱり怖いわね」


揺れは収まる気配を見せず、船体は大きく上下していた。


「ニャ、さっきの大きな波には驚いたニャ!でも驚いただけニャ、揺れても気にならニャい」

サラは窓の外をじっと見ながら、元気そうに付け加えた。


「確かに船酔いどころか、妙にすっきりしてる気さえする」

レイも驚き混じりに同意し、再び海の様子をうかがう。


その表情には、少しだけ安心の色が浮かんでいた。


「船長たちが頑張っているし、この船は巡礼者用だし、きっと乗り切れるわ」

リリーが穏やかに微笑みながら、揺れに合わせて体をゆったりと動かしていた。


「私たちは、ただじっと嵐が過ぎるのを待つしかないわね」


数刻が過ぎた頃、風の音は徐々に弱まり、波も静かになっていった。

船がようやく安定を取り戻し始めると、船内にはほっとした空気が漂い始める。


「やっとおさまってきた。何もできないのって結構辛いですね」

レイが静かに呟いた。


「でも、こういう時は『舟は船頭に任せよ』って言うんじゃなかったか?」

フィオナが肩の力を抜きつつ微笑む。


「それってどういう意味ですか?」


「何事でも、その道の専門家に任せるのが一番良いということだな」


「それ、餅は餅屋と同じことですか?」


「餅は猫屋だニャ!」


「それ、聞いたことないです」


「ガーン! しらニャいのか?」


「サラさん、前にも変なこと言ってましたよね? 他に知ってることわざって何ですか?」


「ん〜。猫にご飯ニャ、犬も歩けば猫も歩くニャ。猫の手も撫でたいニャ! 

 あと、犬は人につき、猫は政府につくニャ!」


「なるほど、サラらしいな」

フィオナが苦笑まじりに呟く。


「それ、どれも微妙に違うような……」

セリアが困惑した様子で首をかしげる。


「ガーン! どれもちゃんと知ってることわざニャ!」


「いやいや、猫が政府につくって……どこかで歴史が変わっちゃう気がするんですけど」

レイが笑いながら突っ込む。


「おかしいニャ、どれも親切な冒険者に教えてくれたニャ〜!」


「それ、絶対騙されてるか、遊ばれてるわよ!」

リリーがため息まじりに返したそのとき、窓の向こうに淡く朝日が差し込み、夜明けを告げていた。


レイたちは甲板へと出て、海の景色を見渡す。

嵐は完全に去り、海は再び静けさを取り戻していた。

水平線の先に広がるのは、光に包まれた広大な陸地だった。


「嵐が嘘だったみたいに、穏やかね」

リリーが静かに呟く。


「昨日の嵐が嘘みたいニャ!」

サラが尻尾を揺らしながら笑顔を浮かべた。


レイは、目の前に広がるその大地を見据えながら、静かに言った。


「ここが聖地、神聖都市アルディアのある大陸か……」


「そうだな。ようやく聖地が見えてきたな」

フィオナがレイの隣で頷いた。


「ここからが、いよいよ本番って感じね」

セリアも感慨深げに呟いた。


こうして一行は、聖地アルディアのある大陸に渡るのだった。

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