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第247話(ボルクルとの別れ)

レイたち一行は、王都に二日間だけ滞在した。


その間、レイは自分のルーツになるかもしれない家々を記憶と照らし合わせながら見比べていった。

しかし、その短い期間ではすべてを回り切れず、結局、王都を後にして公都へ向かうことになった。


五日後には神聖都市に向かう船が出る。間に合わせるために寄り道は一切なしの道程となった。

可哀想だったのはボルクルかもしれない。

王都と公都の中間にあるドワーフの里を素通りせざるを得なかったのだから。


ただし、ボルクルは公都でレイを見送ると、一応お役御免になる予定だった。


船が出る一日前に公都に到着したレイたちは、一晩を宿で過ごすことにした。

旅の疲れを癒しつつ、翌日の航海に備えるための時間だ。


「公都からドワーフの里までは歩いて二日じゃわい。それくらいは慣れているから心配いらんぞい」

ボルクルは笑顔で言った。


「何だか寂しくなっちゃいますね」

レイは少し名残惜しそうに呟く。


「ふむ、わしもじゃわい。このパーティとの旅はなかなか楽しかったぞい」

ボルクルも感慨深げに答えた。


「帰ったらドワーフの里に遊びに行くのもありだろう?」

フィオナが提案する。


「もし里に来るならば、『ドゥーリンの酒場』を訪ねれば良いわい。わしが連絡を取れるようにしておくぞい!

 エルフが来たら、皆びっくりしてたまげるじゃろうがな、ワッハッハ!」

ボルクルは豪快に笑った。


「私はハーフなんだが?」

フィオナが軽く反論すると、ボルクルはさらに大きく笑い声を上げた。


「ハーフでも驚くんじゃわい! わしの里ではエルフ系の者は滅多に見られんぞい、ワッハッハ!」


「分かりました。ドゥーリンの酒場ですね」

レイは頷き、ボルクルの笑いに引きずられて微笑んだ。


「さて、あそこが船着場ね。ちょっと手続きしてくるわ」

セリアが言い、船着場の方にある建物を指さした。


「はい、お願いします」


「私も行くニャ! すり身スティック買うニャ!」

サラがすかさず追いかけて行った。


この公都の正式名称はイシリオスというらしい。

しかし、王都の名前がイシリアスで一字違いなため、誰もが「公都おおやけと」と呼んでいる。


この街はイシリア王国最大の港湾都市で、ファルコナーへもここから船で二週間で到着するそうだ。

規模は王都に次ぐ大きさを誇り、上級貴族の邸宅が立ち並び、常に活気に溢れていた。


ここの領主、グラフィア・イシリアは現国王アルヴィオン・イシリアの叔父にあたり、この広大な港湾都市を治めている。


彼の統治下で交易や港湾管理は繁栄を極め、港にはファルコナーの倍近い船が停泊していた。

各国や様々な都市から商船が集まり、その数と種類は圧倒的だ。

どの船がどこに向かうのか、見ているだけで迷いそうなくらい活気に満ちている。


特に目を引いたのは、帆のない船が車輪のような外側の装置で動いている様子で、レイにとっては初めて見る光景だった。


レイがぼんやりと港に停泊する船を眺めていると、不意に誰かの視線を感じた。

視線の主を探すと、船の上からじっとこちらを見つめている人物が目に入る。

目が合った瞬間、その人物は慌てた様子で視線を逸らした。


「なんかさっきから、ジロジロ見られてる気がするんですけど……」

レイは訝しげに呟いた。


フィオナはちらっと周囲を見回し、


「それは、この馬車が珍しいからだろうな。スレイプニルが引く金属の馬車なんて、他ではまず見かけないだろうし。それに、レイがさっき外輪船をずっと見ていたのと同じだ。珍しいものはつい目で追ってしまうものだ」


と答えた。


「なるほど、確かにそうですよね」

レイは納得して頷いた。


セリアは港で、デルサイス大司教から渡された書状を手に管理局へ向かった。

手続きが進む中、レイと合流し、シルバーが引く馬車と共に船が見える場所に案内される。

レイはそこで足を止め、驚きのあまり口を開いた。


目の前に広がる船は、普通の帆船と比べ圧倒的に大きかった。

通常、港に停泊している帆船は三本のマストが特徴だが、この船はそれを遥かに超える

五本のマストを誇っている。


高々とそびえるマストが並び、空に向かって突き上げる姿は、まるで巨人のようだった。


普通の船が遠洋航海用の帆船で、頑丈な造りとはいえ、貿易や輸送に適している程度の大きさだとすれば、

この船はそれをさらに超えた巨大な甲板を持ち、まるで浮かぶ要塞のようだった。


船の横幅も広く、数十隻の巡礼者を余裕で乗せられるほどのキャパシティを誇っていた。


「今まで見た船でも十分大きいと思ってたけど……この船はまるで別物だ……」

レイは信じられない思いで見上げた。


さらに、その豪華さも目を引いた。

金色の縁取りが施された甲板の縁には細かい彫刻があり、帆には王族や貴族が乗る船にしか使われないような

布が使われているのが見て取れた。


「巡礼者用の船なのに、こんなに豪華でいいのか……?」

レイは再び驚愕の念を隠せなかった。


「驚きましたか? 聖者様」と船長が声をかけると、レイはコクコクと首を縦に振った。

セリアもリリーも同様に驚いていた。


「この船は何故こんなに大きくて、しかも豪華なんですか?」とレイは尋ねた。


船長は微笑みながら答えた。


「この船は『天翔ける聖翼』と呼ばれる巡礼者専用の船です。

 巡礼者を安全かつ快適に運ぶために、特別に大きく、そして豪華に造られています。

 各国の王族や貴族の方々も巡礼に参加されることが多いため、彼らのために豪華さも兼ね備えています。

 そして、航海中の嵐や魔物からも守るために、最新の魔法が船全体に施されているのです」

 誇らしげに言ったのは、船長のルークだった。


「なるほど…」とレイは感心しながら再び船を見上げた。


「そして大きさについては、遠い神聖都市アルディアまでの長い航海に耐えられるよう特別に設計されています。

 この船には百人以上の巡礼者が乗船でき、長い航海中も快適に過ごせるのです」


「それで、こんなに立派なんですね」とセリアが頷いた。


「その通りです。聖者様をお迎えする船ですから、最高の準備をしているのですよ」

ルーク船長は誇らしげに言った。


船に乗り込む直前、レイたちはボルクルと別れることになった。


「ここまで一緒に旅をしてくれて、ありがとうございます。ボルクルさん」


「ふむ、わしも楽しかったぞい。本当は護衛は王都までじゃったがのう、公都に来るのもドワーフの里に帰るのも変わらんわい!」


「寂しくなっちゃうね……でも、いつかドワーフの里に遊びに行くわよ!」

セリアが明るく言った。


「そうだな、いつかまた会おう。『ドゥーリンの酒場』を尋ねればわしに会えるようにしておくわい!」

ボルクルはにやりと笑った。


「また、帰ってきたら模擬戦をしよう」


フィオナが力強く手を差し出すと、ボルクルは力強く握手を返した。


「次はちゃんと勝つぞい! 斧も最高のやつを用意しとくわい!」


さらにリリーとサラに向かって、

「元気でな。わしもまたお前たちに会える日を楽しみにしておるぞい」

と目を細めた。


リリーは微笑みを返し、サラは嬉しそうに尻尾を揺らしていた。


「ありがとう、ボルクル。また会いましょう」とリリーが静かに言った。


「ニャ! ボルクル、今度会ったらまた楽しく飲むニャ!」とサラが笑顔で手を振った。


ボルクルは大きく頷き、

「わしは船を見送るのが苦手なんじゃ。これでお別れするけど、気をつけて行くんじゃぞい!」

と言い残し、ゆっくりと港を後にした。


レイはボルクルが見えなくなるまで目で追った。やがて船に目を向けた。


「神聖都市アルディアか……」


どんな場所なのだろうと考えつつ、彼はゆっくりと船に乗り込んだ。



第七章 完

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