第24話(場違いな所に)
ギルドマスター室から出ると、フィオナとサラに呼び止められた。
「レイ殿、命の恩人をただで返す訳には行かない」
とフィオナが真剣な顔で言った。
「そうだニャ、枝渡りのやり方も聞いておきたいニャ」
とサラも続ける。
レイは何かを話すとボロが出そうだと思い、できればここでお礼を辞退したいところだったが、サラに腕をしっかりと掴まれてしまった。
「逃げようとしたって無駄だニャ。今日はレイを確保したニャ!」
サラは笑顔を浮かべた。
「確保って…まるで獲物みたいじゃないですか!」
「心配しなくていいニャ。食べる訳じゃないから安心するニャ」
サラは冗談めかして言い、少し手を緩めた。
「分かりました、逃げませんから、何をすれば解放してくれますか?」
フィオナは少し笑みを浮かべて答えた。
「お礼を兼ねて夕食をご一緒したいのだが、この町は初めてでな。どこに良い店があるか分からんのだ。レイ殿、何かおすすめがあれば教えてくれないか?」
「食事ですね…」
レイは考え込み、前にセリアに教えてもらったレストランのことを思い出した。
「ギルドを出て、大広場の噴水まで進んで左に曲がると、突き当たりにレストランがあります。そこが美味しいと聞いたことがあります」
「大広場の噴水を左か。ドーム屋根の建物の近くだな?」
フィオナが確認する。
「はい、そのドーム屋根の建物は図書館です」
サラがすかさず言った。
「私達の宿はその大広場の近くニャ!」
「そうなんですか?あの宿にはレストランもあったと思いますが…」
「だが、せっかくの機会だ。別な店に行こうではないか。夕方の鐘が鳴る頃に、その店で待ち合わせということで良いか?」
フィオナが提案する。
レイは少し恐縮しつつも答えた。
「はい、それで大丈夫です。でも、怪我をしているのに無理はしないでください」
フィオナは毅然とした口調で答えた。
「むしろ栄養をつけねば治りが遅くなる。心配無用だ」
「分かりました。夕方の鐘の頃に向かいます」
とレイは言い、二人と別れた。
その後、宿に戻ったレイは急いで水浴びをした。着ていた革のジャケットの汚れを手で払い落とす。
(レイ、今日はいつもより念入りですね)
アルが不思議そうに声をかけた。
「町の西側は、なんとなく綺麗な服を着た人が多い気がしてさ」
(確かに西側は、白い壁に黒い瓦の高級そうな建物が多いですね)
「そうだよね、こっちの赤っぽい壁とは何が違うんだろう?」
(こっちの壁は、土と藁、牛糞でできていますね)
「えぇ!今まで普通に触ってたんだけど!」
(さぁ、そんなことより、そろそろ向かいましょう。夕方の鐘が鳴る前に到着しますよ)
「そうだな、行こう」
と言いながらレイは歩き出した。
大広場に差し掛かったあたりで、レイがふと尋ねた。
「アル、どうしてそんなに色々と詳しいんだ?」
(材質を調べているだけです。ナノボットに使える素材がどこにあるか、分からないですからね)
「もしかして牛糞とかも材料にしてるの?」
(……)
「ねぇ、してる?」
(……)
「してる?」
「おーい、答えてくれよ、気になるだろ!」
などと、たわいもない話をしているうちに、レストランに到着した。
ちょうどその時、夕方の鐘が鳴り響き、相変わらずアルの時間感覚が絶妙であることにレイは感心した。
程なくして、フィオナとサラも現れた。
フィオナは薄手のクリーム色のブラウスにシンプルな紺色のスカートを着こなし、
サラは淡いグレーの半袖シャツに黒っぽいリネンパンツを履いている。
「お二人とも、着替えたんですね。とても似合っています」
レイが感心しながら言うと、二人は満足そうに微笑んだ。
やはり旅慣れた冒険者は、街中で着てもおかしくない着替えをちゃんと用意してるんだなと感心した。
「うむ、そうか」
「ヨシヨシ、ちゃんと褒めるとは偉いニャ」
フィオナとサラは嬉しそうに応えた。
「とりあえず、中に入ってみましょう」
レイは少し緊張しながらも、三人でレストランの中へと足を踏み入れた。
そのレストランは木造の二階建てで、風情のあるテラスが客に開放されており、テラス席からは外の景色を楽しむことができた。屋内には柔らかな魔石ランタンの灯りが満ち、大きな布で装飾された壁が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
(アル、なんか緊張するよ…場違いな気がしてきた)
(堂々としていれば大丈夫です)
アルが冷静に返す。
入口で少し戸惑っていると、店員が近づいてきた。
「いらっしゃいませ。三名様でよろしいですか?予約はされていますか?」
「予約?い、いえ、していません」
レイが答えると、店員はにこやかに頷き、席へと案内した。
(予約ってなんだ?こういった店は予約が必須なのかな?)
(良い席を確保するための事前手続きが必要な店なのかもしれませんね)
とアルが答える。
(なるほど。高級なところってそういうシステムがあるんだな。確かにテラス席はもういっぱいになってる)
案内されたのは、壁に小さなガラス窓が嵌め込まれたボックス席だった。
(わっ、ガラス窓使ってるよ!)
(孤児院でもステンドグラスを使っていたじゃないですか?)
(あそこは元教会だったからだよ。個人の家でガラス窓を使ってるなんて、ものすごい贅沢なんだよ。ここ、かなり儲かってるんだろうな)
レイは窓の外を眺めながら、子供のように興奮していた。すると、店員がメニューを持ってきた。
レイがそのメニューを見て驚愕する。
前菜
•セリン農園野菜サラダ - 20,000ゴルド 銀貨二枚
•野生のキノコのスープ - 40,000ゴルド 銀貨四枚
•オークのジャーキー - 6,000ゴルド 銅貨六十枚
主菜
•牛のロースト - 50,000ゴルド 銀貨五枚
•ワイルドボアのステーキ - 40,000ゴルド 銀貨四枚
•野ウサギのシチュー - 20,000ゴルド 銀貨二枚
•オークの鉄板焼き - 30,000ゴルド 銀貨三枚
デザート
•林檎のタルト -3,000ゴルド 銅貨三十枚
•蜂蜜とナッツのパイ -3,000ゴルド 銅貨三十枚
•ベリーのアイス -2,000ゴルド 銅貨二十枚
ドリンク
•麦酒 一杯 -500ゴルド 銅貨五枚
•銀杏ワイン 一杯 -600ゴルド 銅貨六枚
•泉の湧き水 一杯 -200ゴルド 銅貨二枚
•銀杏ワイン デカンタ -2000ゴルド 銅貨二十枚
•野草のハーブティー -400ゴルド 銅貨四枚
「…ただの水が200ゴルドもするなんて……」
レイは驚きの表情を浮かべながらメニューを見つめていたが、次の瞬間、フィオナがそのメニューを
スッと取り上げた。そして、値段の書いていない別のメニューをレイに手渡す。
「今日は君がお客さんだ。金額など気にせず、好きなものを頼んでくれ」
レイは少し戸惑いながらも、メニューに目を通すが、結局何を頼むか決められなかった。
そんなレイの様子を見て、フィオナが優しく声をかける。
「同じもので良いか?」
「はい、それでお願いします」
レイはそれ以上の言葉を出すことができず、ただ返事をするしかなかった。
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