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第237話(称号要りません)

レイがゴールラインを駆け抜け、勝利の喜びを全身で爆発させると、セリアたちが勢いよく駆け寄ってきた。


「レイ君! おめでとう〜!」


セリアは声をかけながら、一瞬フェイントをかけるように横をすり抜けた。しかし次の瞬間、方向を変え、勢いよく飛びついて抱きついてきた。


「わっ! セリアさん、油断してました!」

レイが驚きながらも笑顔で応じると、セリアは得意げに胸を張った。


「ふふん、これが昨日の練習の成果よ!」

笑いながら応えるレイの背後に、今度はサラが身体能力強化を使い、目にも留まらぬ速さで駆け寄ってきた。


「ニャッハハ! 少年、やったニャ!」

レイの視界から一瞬で姿を消したサラは、背後から軽く肩を「コンッ」と叩いた。


「わっ、今度はサラさんか!」

振り返ると、サラはニヤリと笑いながら言った。


「こっちも少年の身体能力強化に驚いたニャ!」


続いてフィオナ、リリー、ボルグルも駆け寄る。フィオナは勢いよくレイの腕を掴むと、セリアから強引に引き剥がしながら叫んだ。


「凄かったぞ、レイ!」

フィオナはそのまま抱きついてきた。リリーも笑顔で近づき、優しく声をかける。


「本当にお疲れさま! 車輪が取れた時はもうダメかと思ったけど、その後が凄かったわね!」


最後にボルグルが満足げに頷き、重みのある声で背中を叩いた。


「やるのう、レイ。おぬしの馬鹿げた力には恐れ入ったわい!」


皆の言葉に、レイは照れながらも嬉しそうに笑い、素直に応えた。


「ありがとう、みんな!」


周囲の観客からも拍手と歓声が渦巻く。


「レイ! レイ!」

「すごかったぞー!」

「痺れたぞーっ!」


セリア、サラ、フィオナ、リリー、ボルグルに囲まれる光景を、遠巻きに見つめる者たちがいた。豹の獣人ケンザとバルクだ。二人の顔には明らかな不満が浮かんでいる。


「チッ、あの人間、思ったよりやるじゃねえか…」

ケンザが舌打ちすると、バルクも低く唸った。


「だが、これで終わりじゃねえ。次は必ず…」

不穏な言葉を残し、二人は視線を逸らした。


レイは仲間に促され、表彰台へと向かう。村の長老である村長がすでに待ち、観客の視線が一斉にレイに注がれた。


「さあ、皆の衆! 今回の優勝者、レイ殿に盛大な拍手を!」


村長の宣言とともに、会場から再び大きな拍手が巻き起こる。歓声が空気を震わせる。


「レイ! おめでとう!」

「最高だぞ!」


レイは少し照れながら頭を下げ、村長の前に立った。村長が賞品を取り出し、高々と掲げる。


「これが優勝者の証だ!」

手渡されたのは、初物のマロンと梨。村の特産品であり、勝者に贈られる特別な品だ。


「えっ、これが賞品ですか?」

レイは驚きつつ、丁寧に果物を受け取った。


「そうじゃ。ここの特産品のビッグマロンとトクニ梨。これが我が村の誇りじゃ。トロフィーやメダルなんてものは無いが、この村ではこれが最高の栄誉じゃよ」


村長は満足げに笑う。レイが果物を手に微笑むと、村長は急に真剣な表情になり、観客に向かって提案した。


「しかしのう、これだけの強烈なインパクトを残した者には、何かもっと特別なものが必要じゃな。そうじゃ、称号じゃ! 皆の衆、レイ殿に相応しい二つ名を考えようではないか!」


観客は一斉にざわめき、意見を交わし始める。


「どうだ? 物凄い勢いで荷車引いていたから『怒涛のレイ』なんてどうだ?」

「いやいや、あそこからひっくり返す力を表すべきだろう。『百折不撓』が良いんじゃないか?」

「もっと豪快なのがいい! 『豪胆のレイ』ってのはどうだ?」


次々と候補が飛び出し、レイの困惑は深まる。


「えっと…これ以上、他の言い方されても困っちゃうんですけど…」


そのとき、遠くから声が響いた。


「せ、聖者様!?」

村人たちが一斉にその方向を向く。神殿の司祭が馬車から降りてきたのだ。目を見開き、驚愕の表情を浮かべる。


細長村の村長に頼まれ、優勝者の祝福に駆けつけた司祭は、まさかその優勝者がレイだとは夢にも思っていなかった。


「あなた様が、まさかこのレースに出場されていたとは…それに優勝までも…!」


レイは照れ笑いを浮かべて応じる。

「いや、こんな場所でお会いするとは思いませんでした。試練を終えたばかりなのに…」


司祭は姿勢を正し、改めて言葉を述べた。

「聖者様、優勝を心からお祝い申し上げます」


その言葉に、村人たちはざわざわと動揺し、村長は完全にパニックになった。


「聖者様ァ?!」


叫ぶや否や、表彰台から勢いよくジャンピング土下座をした。そしてそのまま拝み始める。村人たちも続き、一斉に頭を下げ、地面に額をつけた。


「ちょ、ちょっと待ってください! そんなつもりじゃないんです!」


レイは慌てて手を振る。だが司祭は冷静に一歩前に出て、落ち着いた声で告げる。


「皆の者、聖者様に過度な礼をする必要はございません。聖者様はこの村のレースに出場し、力を尽くして優勝されたのです。それを純粋にお祝いすべきでしょう」


レイもほっとしたように笑い、口を開く。

「そうです、レースに出ただけですから。皆さんが楽しんでいただければそれで…」


場の緊張はようやく緩み、村人たちは再び和やかな空気に戻った。表彰式が再開される。


「では、聖者様…いや、レイ殿、改めて優勝おめでとうございます!」


村長が再度宣言し、ビッグマロンとトクニ梨の詰め合わせをレイに手渡す。会場から再び拍手と歓声が湧き上がった。


「こんな形で終わるとは思ってなかったけど…まあ、いっか」


ぽつりと呟いたレイは、壇上から広がる村人たちの賑わいを見下ろし、称号の話が有耶無耶になって少しだけほっとした表情を浮かべたのだった。


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