第235話(強者たちの最終戦)
準決勝第二試合は、豹の獣人ケンザと、紅一点の港湾施設で働くソレンのレースとなった。
鋭い号砲が鳴り響くと同時に、両者は勢いよくスタートダッシュを決めた。
ケンザの俊敏さにソレンも負けじと食らいつき、互いに一歩も引かない熾烈な競り合いが繰り広げられていた。
しかし、ケンザは徐々にソレンに対して進路を微妙に塞ぐように、わざと荷車を左右に振り、ソレンの走行を妨害しようとする。ケンザの行為はレースのルールの境界線を巧みに突いていた。
ソレンはそれでも必死に前を追い続けるが、ケンザが再び進路を大きく塞ぐような動きを見せると、
バランスを崩しかけ、一瞬の遅れを取ってしまった。
観客席からはざわつきと小さなブーイングが聞こえ始める。
ソレンが遅れを取ったその一瞬を見逃さず、ケンザは奥の手を使った。
彼の筋肉が一瞬不自然に盛り上がったように見えたかと思うと、次の瞬間には驚異的なスパートをかけ、一気に差が広がった。観客はその変化に気づきざわめき始める。
サラはそれを見て「身体能力強化ニャ!」と声を上げた。
ケンザはそのままスピードを緩めることなく、圧倒的な勢いでゴールラインを駆け抜けた。
結果、決勝進出を果たし、ソレンは悔しそうな表情を浮かべながらレースを終えた。
三位決定戦は行われないため、ソレンとバルクはそのまま第三位という形になるらしい。
決勝戦は両者の息が整うまで少しの休憩が取られた。レイがスタート地点で待っていると、サラがやってきた。
「サラさん、どうしたんですか?」
「少年!見たかニャ、ケンザの動き」
「あの、途中から急にスピードアップしたあの動きですよね。あれなら、最初から堂々と競えばいいのにって思ってました」
「ニャ、その通りだニャ。あれは私と同じ力を使ってるニャ」
「やっぱり、サラさんもそう思ったんですね」
「そうニャ。ただ、ここまで使って来なかったのは、あの力を使える時間が限られているからだと思うニャ」
「なるほど…じゃあ、決勝では本気で使ってくるってことですね」
「そうニャ、だから少年も全力を出すニャ」
「了解です。ギャフンと言わせてやりますよ」
レイは気合を入れて、サラと軽く拳を突き合わせた。
決勝の時間が近づいてくると、係員がレイを呼びに来た。
「そろそろ決勝戦を行いますので、スタートラインについてください」
「分かりました」
レイは返事をし、スタートラインへ向かった。到着すると、ケンザが何やら係員と揉めている様子だった。
「だから、オレが左の枠でいいだろ?スタート位置なんて関係ないじゃないか!」
声を荒げているケンザ。係員は困惑した表情で対応していた。
「何か問題があるんですか?」
とレイが尋ねると、係員は申し訳なさそうに説明した。
「ゼッケンの若い方が左側というルールがあるんですが、ケンザ選手が変更を求めているんです…特に問題はないのですが、相手の選手が了承すればの話でして」
「ふーん、オレは構いませんよ」
レイは少し考えてから、あっさり答えた。
その言葉を聞いたケンザはニヤリと笑い、自分の荷車を左の枠に移動させた。
「変なヤツだな」
レイは右側のレーンに立って横目でケンザを見た。
(レイ、何か仕掛けてくると思います)
(多分ね、でもそれを含めて全部ひっくり返してやろうと思ってさ)
(分かりました、作戦は?)
(向こうが身体能力強化で勝負を仕掛けてきたら、こっちもその力を使うつもりだよ)
(分かりました。レイ、前回のようにいきなり押し出すように魔力を使わずに、ほどほどでお願いします)
アルは少し心配そうに言ったが、レイは自信に満ちた表情で準備を整えたのだった。
係員がレイの荷車をスタートラインに移動させようとして、不審に思った。
「なんか変だぞ、この荷車、異様に重いんだが」
「こっちに運んできた奴も同じこと言ってたよ」
もう一人の係員も首をかしげながら話し出す。
その様子を見て、ケンザは焦りの色を隠しきれず、すかさず声を張り上げた。
「おい、早くしろよ!もうこっちはスタートラインに立ってるんだぞ!俺の集中を切らせるんじゃねぇ!」
ケンザの苛立ちに、係員たちは少し戸惑いながらも、レイの荷車をそのままスタート位置にセットした。
「どうですか、レイ選手?何か違和感があれば言ってください」
「全く問題ありませんよ、さぁやりましょう」
レイは冷静に答え、スタートの準備を進めた。
(レイ、挑発してますね)
(相手の企みを含めて、全部ぶっ潰すって今回決めたからね)
レイの「問題ありません」の発言に、ケンザは一瞬反応したものの、すぐにニヤリと笑い、挑発的な目でレイを見た。
「フン、強がっていられるのも今のうちだ」
ケンザは自信たっぷりに言い放った。
レイは冷静にケンザを一瞥し、余計な反応はせずスタートの合図を待った。
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