表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

242/339

第232話(ストロングキャリッジレース)

九月十五日、この日は細長村のストロングキャリッジレースの日だ。


三月、六月、九月、十二月の各十五日に行われるこのレースは、村に初物が出回る時期に合わせて

開催されている。


春は山菜、夏は夏野菜、秋は果物、冬は冬野菜──。


その初物をいち早く手に入れようと、村人たちが荷車を引いて競ったことがレースの起源だと、

看板には書かれていた。


予選は村の入り口の向こう、荒野に設けられた特設会場で行われる。

広大な荒野にわざわざ上り坂と下り坂を設け、参加者たちは錘を積んだ荷車を引いて走る。


百名近い参加者のうち、三十二名のみが決勝に進める。


村長の長い挨拶が始まった。


「本日は天候にも恵まれ、秋晴れの中、こうして皆さんと……」

「……二十年の歴史を持つ……あれは三年前……皆さんの健闘虚しく……」

「……それでは、まだまだ暑い日は続きますが、熱中症にはくれぐれも気をつけて、楽しんでください!」


ようやく終わったが、挨拶の最中に何人かが熱中症で倒れていた。


その後、来賓席にいたサラが壇上に上がる。殿堂入りの経歴から、挨拶を頼まれていたようだ。


「こんニャちは。みんな頑張ってニャ!」


それだけ言って、サラはさっさと壇上を降りた。


「さすが殿堂入り、最速の挨拶でした!」


アナウンスがそう言うと、会場に笑いが広がった。やはり、挨拶は短いに限る。


予選が始まり、レイは最初のレースで早々に勝ち抜けを決めた。

特別な戦略を使ったわけではない。上り坂で参加者のペースが落ちる中、レイは脚力強化を使って

そのまま突き進んだのだ。


上りだけアルに強化を頼み、あとは自力で走り抜けただけで、他の参加者を圧倒した。


あの獣人二人も、後のレースで予選突破してきた。実力はある。

だが、負けた相手を嘲るような態度は、どうしても気になった。


「レイ、お疲れ様。最初、出遅れたのかと思ってヒヤヒヤしたぞ」


フィオナが微笑んで声をかける。


「いや、スタートから飛ばすのはやめようと思ってただけです」


レイは肩をすくめた。


「レイ君、お疲れ。これで決勝に進めるんでしょ?」


セリアが確認する。


「はい。決勝トーナメントの一番の枠らしいです」


「ニャ、少年、ご苦労だったニャ」


サラがにやりと笑う。


「昨日の練習の方がキツかったですよ、サラさん」


「アレは本番用ニャ!」


サラが得意げに言い返す。


「いやいや、オレ初出場ですからね? ハンデ無しですよ?」


レイが苦笑しながら言うと──


「ニャんだとッ!」


サラが驚愕の声を上げた。


そんなやり取りの最中、遠くから彼らをじっと見ている者がいた。

あの獣人二人、豹の獣人と犬の獣人である。


「アイツの枠は一番だったよな?」


豹の獣人が確認する。


「ああ、間違いない。荷車もすでにスタート位置に置かれてるはずだ」


犬の獣人が答える。


「そりゃいい。今がチャンスだな」


二人はニヤリと笑い合い、周囲を伺いながら静かに動き出した。


予選が終わり、決勝トーナメントの三十二名が発表される。


「一回戦第一試合は、ゼッケン一番レイ選手と、ゼッケン十六番ベン選手です!」


アナウンスが響き、レイはスタートラインへと向かう。

隣には、大柄な男ベンが荷車の前に立っていた。


「頑張ろうぜ」


ベンがにこやかに声をかける。


「ええ、全力でいきます」


レイも笑顔で応え、荷車の取っ手を握る。

スタートの合図と同時に、二人は走り出した──

が、一メル進んだところでレイの荷車がガクンと止まる。


「……何だ?」


荷車に目をやると、車輪に結びつけられた金属片が見えた。


「これか……」


レイは素早く紐を解き、再スタートを切る。だが、すでにベンは三十メル先にいた。


「こりゃ、最初から飛ばすしかないか……」


「アル、脚力強化お願い!」


(了解です、レイ。三割アップで良い勝負になるでしょう)


「じゃあ、行くよ!」


レイは荷車を引いて全速力で駆け出した。風が顔を打ち、地面を蹴るたびにベンとの距離が縮まっていく。

残り五十メルで並び、ラストスパートで一気に追い抜いた。


ゴールの瞬間、観客から歓声が上がる。


振り返ると、ベンもすぐにゴールしていた。彼は笑ってレイに手を振る。

だが──視線を横に向けたレイの目に、睨みつける獣人二人の姿が映った。


「やっぱり、あいつらか……」


荷車を係員に預け、応援席に戻る。


「何があったの?」セリアが不安げに聞く。


「最初のアレは何だったんだ?」フィオナも首を傾げる。


「これが車輪に付いてたんですよ」


レイは、紐に結ばれた金属片を見せた。


「何よこれ、明らかに妨害行為じゃない!」

リリーが怒りをあらわにする。


「アイツらかニャ?」


サラが睨むようにつぶやく。


「どうするんだぞい?」

ボルグルも眉をひそめる。


レイは静かに笑った。


「妨害されたって、負けませんよ。こっちだって奥の手があるし──逆にギャフンと言わせてやりますよ!」



いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ