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第231話(レース前日)

レイとリリーは宿に戻ってきた。

レイは今、アルに傷を治療してもらいながら、魔力を意識して流す練習をしている。


(これで、どうだろう。力を入れて押し出す感覚じゃなくて、スムーズに流す感覚なんだけど)


(そうですね。無理に押し出そうとせず、常に一定量を回し続ける方が、訓練としては

 より効果的かもしれません。推測ですが、土魔法の高さが安定しないのも、それが原因かもしれませんね)


そこにセリアが帰ってきて、レイの傷を見つけるとすぐに声をかけた。


「どうしたの?怪我してるじゃない」


「サラさんの身体能力強化と同じ魔力経路をアルが繋げてくれたんですけど、制御に失敗しちゃって…」

と、レイは苦笑しながら答えた。


それを聞いたセリアは少し考え込んでから言った。


「それ、私にもできないかな?」


「いや、この魔法ってアル曰く、放出と循環で切り替えが効かないみたいなんです。

 なので今はどちらか片方しか選べないんです」


セリアは少し不安げな表情を浮かべた。


「だって、私は神殿に行ったけど魔法を授からなかったのよ。私一人だけ取り残されてる気がして嫌なの。

 何とかならないかな?」


(アル、どうしよう?)

とレイは心の中で問いかけた。


(この先、別の神殿に行くことがあれば、その時に魔力を放出できるようにすれば問題ないと思います)

アルが落ち着いた声で答える。


「アル、じゃあ、お願いするよ」

レイはセリアに向かって言い、彼女の手を取った。


セリアは少しはにかんだ表情を浮かべながら、

「ありがとう」と小さくつぶやいて、そっと手を握り返してきた。


魔力経路を循環するように作り変えたセリアは、魔力の流れをコントロールすることから訓練を始めた。

最初はアルの魔力可視化による補助を受けながら、少しずつ流し方をマスターしていった。


その日の終わりまでには、自分一人で魔力を循環させることができるようになっていた。

まだ流れにムラがあるものの、魔法を覚えたての段階としては十分に誇れる速さだった。


そして次の日、レイはサラと共に村を散策していた。

ボルグルとセリアは林間の空き地で稽古に励み、フィオナとリリーは魔法の練習のため村の外れへ出かけていた。

一方、レイとサラはレース会場となる村の下見と練習を兼ねて歩き回っていた。


レースを翌日に控え、村はこれまでで一番の賑わいを見せていた。

露店や屋台が並び、道はまるでお祭りのような雰囲気で、村人たちは特産品を並べて

来客を楽しませようと笑顔で迎えている。

子供たちははしゃぎ、街頭ではアクロバットの演技が披露され、村全体が楽しさに包まれていた。


しかし、その和やかな空気を突き破るように、あの二人の獣人が現れた。

彼らはレース前の荷車を眺め、嫌な感じの笑みを浮かべながら、屋台の近くをうろついていた。


豹の獣人が、荷車を準備していた村の若者に近づき、わざとぶつかり肩を揺さぶるように押しのけた。


「あれ?すまねぇな、見えなかったぜ」


とわざとらしく言い、悪意ある視線を送る。


若者は困惑しながら「気にしないでください…」と答えたが、獣人はさらに絡んできた。


「明日、荷車を引くのか?お前みたいな弱っちい奴が出るんじゃ、レースも大したことなさそうだな。

楽しみだぜ、見物するのがよ!」


豹の獣人が嫌味を言いながら、荷車の木製のハンドルをぐっと掴み、

わざと壊れそうに曲げるような仕草を見せた。


一方、犬の獣人は、近くの屋台で売られていた軽食を勝手に手に取り、売り子にニヤリと笑いかけた。


「俺たちが勝ったら、これもタダになるんだろう?」

と、まるで自分たちの勝利を確信したかのように挑発する。


売り子は困惑しながら「そんなことはありません」と答えたが、

犬の獣人はあからさまに嘲笑し、そのまま食べ物を持ち去ろうとする。


豹の獣人は、ふと村の広場の外れに立つレイとサラを見つけ、また不敵な笑みを浮かべた。


「おい、猫人!準備は万全か?明日は逃げられないぞ!」


大声で叫び、さらに周囲の注目を集めようとした。


サラは冷静にその言葉を受け流し、レイも獣人たちの挑発に乗らないよう拳を握りしめていたが、

不快感は顔に滲み出ていた。


「少年、明日は絶対勝つニャ!目にモノを入れてやるニャ!」


「サラさん、それだと失明しちゃいますよ。目に物を見せるか言わせるかです。

 まあ、負ける気はありませんけどね」


「よく言ったニャ! じゃあ、練習だニャ!」


猫族のコーチが元気よく叫んだ。


「ここに、二回目に優勝した時と同じ重さの荷車があるニャ。これを引いて、神殿まで行くニャ!」


「うわ、何ですかこれ……荷車の中、砂でいっぱいじゃないですか!」


レイが荷車を覗き込んで、驚きの声を上げる。


「最初は普通の荷物だったニャ。でも、ハンデでこうなったニャ!」


「まあ、これだけの重さだと、そうなりますよね……」


レイは荷車の取っ手を握ると、少し力を込めて引っ張り――何事もないかのように走り出した。


その様子を見たサラが、驚き混じりに声を上げる。


「さすが少年! 普通の人だと、これは一人じゃなかなか動かせニャい!」


遠くの陰で、二人の獣人がその様子をじっと見つめていた。

豹の獣人が不機嫌そうに舌打ちをして呟いた。


「チッ…あの人間、猫人の弟子っていうだけあって少しはやりそうだな…」


犬の獣人も不満げに頷いた。


「これだといい勝負になっちまうかもな…何か策を考えねぇと…」


豹の獣人が悪意に満ちた笑みを浮かべながら低く囁いた。


「なら、奴の荷車にちょっとした細工をしてやろうぜ。明日には走れなくしてやるさ…」


二人は密かに企みを練りながら、レイの様子を伺い続けていた。


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