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第230話(魔法訓練と暴走)

「土よ、静まれ。セトル! 土よ、静まれ。セトル! 土よ、静まれ。セトル!」


レイは焦った様子で呪文を繰り返していた。


今、彼は初歩魔法の特訓中だ。初歩魔法を卒業したいという一心で

必死に次の魔法に挑戦していたが、なかなか成果が出ない。

呪文を唱えると、確かに魔力が引き出される感覚はある。しかし、その結果が思うように出てこないのだ。


ライズで盛り上げた土を、元の平らな状態に戻すのがセトルの魔法。

その効果は安定せず、まったく戻らなかったり、半分だけ戻ったり、せいぜいくるぶしの高さまでしか

下がらないことも多かった。


「ふむ、地面が凸凹してるわね」


リリーが様子を見に近づいてくる。


「あ、リリーさん。土を盛り上げるのはできるんですけど……

 まあ、高さが綺麗に揃ってるわけじゃないです。それに、元に戻す方はもっと上手くいかなくて……」


レイは困ったように顔をしかめた。


「それも練習あるのみよね」


リリーが優しく微笑む。


「そうなんですけど……早く攻撃魔法も覚えたいかなって」


焦りをにじませるレイに、リリーは穏やかに諭す。


「焦らずやるしかないわよ。だって、昨日発現したばかりなんだし。少しずつ成長していくものよ」


「確かに……」


レイは小さく頷き、再びセトルの詠唱に集中し始めた。


近くではリリーが、何度も「水よ、集まれ。アクア!」と唱えている。

そして、ついに。


「わ、出た!」


指先からポタポタと水が滴った。その水を見つめながら、リリーは小さく唇を尖らせる。


「あれ? もっと出ると思ったんだけど……」


とはいえ、彼女とセリアは、アルによる魔力経路の“バイパス施術”によって、魔力の放出自体は

可能になっていた。ただし、レイのように“コインを弾くような勢いのある制御”はできない。


「どうやったらそんなふうにできるの?」


リリーの問いに、レイは首を傾げるしかなかった。


自分でも分からなかったため、アルに調べてもらった。すると、アルの分析結果が返ってくる。


(レイの魔力は勢いよく、瞬発的に流れます。

 一方、リリーさんとセリアさんの魔力は、優しく、ゆっくりと流れています)


「ま、でも魔力が出てるだけ良いじゃないですか」


レイはそう言って励まし、二人を神殿へと案内した。


神殿では、エーテルクォーツに触れることで正式に魔力の有無を確認できた。


「これも大聖者様のお力なのですか?」


サイラス神殿長は何度もそう尋ねたが、レイは首を振るばかりだった。


「私にも分かりません」


二人にとって初めての聖域体験は、特別なものとなった。


リリーは水の精霊の声を確かに感じ取ったらしく、その瞬間を感動とともに受け止めた。


「私、精霊の声が聞こえたわ!」


一方、セリアは精霊の声こそ聞こえなかったものの、落ち込むことなく聖域での経験を楽しんでいた。


場面は再び、細長村の裏の森へと戻る。


ここは林間の空き地で、土や水の初歩魔法の訓練にはうってつけだった。


フィオナとサラは、魔力経路を最適化して体に馴染ませるための訓練に励んでいる。

一方、ボルグルはリリーと交代で護衛任務についていたようで、今日は村を散策中だ。


「そういえば、村の周りに屋台みたいなのが出てるところがありましたね」


レイがふと思い出すと、リリーが頷いた。


「ストロングキャリッジレースの準備みたいね。参加者っぽい人も結構いたわよ」


「俺も、成り行きで出場することになっちゃいましたし……」


肩をすくめるレイに、リリーが笑いかける。


「応援してるわ。ところで、そっちの練習はいいの?」


「そうですね、一応やっておこうかな」


そう答えたところで、頭の中にアルの声が響く。


(レイ、その件で話があります)


「何だい、アル?」


(サラさんの魔力経路を模倣して、レイの魔力経路も身体能力強化ができるように修正中ですが……)


「何っ!?」


思わず声を張り上げたレイに、リリーが怪訝そうな顔を向けた。


「レイ君、どうしたの? 急に大声出して」


「アルが、サラさんの魔力経路を真似て、俺の体も身体能力強化ができるようにしたって……」


説明を聞いて、リリーは目を輝かせた。


「何それ、すごーい!」


「どうなんでしょうね?」


レイはまだ半信半疑だった。


「なんか、自分がどんどん自分じゃなくなっていくような……」


クスリと笑って、リリーが返す。


「そう? やれることは増えてるみたいだけど、性格は優柔不断のまま全く変わってないわよ」


「そんな〜……」


レイが困ったように苦笑する中、アルの声が再び響く。


(レイ、魔力経路の作業ですが、今は“循環する部分”の接続を完了する一歩手前まで進んでいます。

 ただし、問題があって作業を中断しています)


「問題って、何のこと?」


(魔力の放出と循環は、経路が完全に繋がることで可能になります。

 しかし今は、レイがそれを“自力で切り替えられるか”が不明です。

 放出しようとすると、皮膚の表面に流れ出してしまう恐れがあります)


レイは難しそうな顔で聞き入っていた。


(要するに、“弁”のような切り替え機構が体に存在しない可能性があります。

 レイが意識して制御しようとしても、それを遮断・選択する物理的仕組みがなければ、流れは止められません)


「つまり、オレの力だけじゃ無理かもしれないってこと?」


(はい。現状ではナノボットによる切り替えで対応できますが、もし両方を自在に使える魔法使いがいれば、

 その身体構造を調べて参考にしたいところです)


「じゃあ、切り替えはアルに任せるとして……身体能力強化って、どうやるの?」


(これまで何度もやってきた魔力放出の応用です。

 今回は、ナノボットが放出側の経路に魔力が行かないよう遮断しているので、“流すこと”だけを

 意識してください)


レイは魔力の流れを意識し、体全体へと巡らせる。


「こうか? でも、流れを意識しなくても、今までみたいに押し出す感じで……」


(レイ、魔力の流量がサラさんの倍以上です! これでは身体をコントロールできません。

 もっと抑えましょう!)


だが、アルの忠告を聞く前に、レイは走り出してしまった。


アルは衝突を予測し、体の前方を硬化させる。

森を駆け抜け、木々をなぎ倒しながら突進していく。


「うわっ、止まれない!」


レイは叫びながらブレーキをかけようとするが、勢いが止まらない。


(レイ! 魔力をもっと抑えて! さもないと森が……!)


「どうやって抑えるんだよ! 止まれー!」


木々をなぎ倒しながら進み続け、ようやく大木に抱きつくようにして停止した。

レイは木に抱きついたまま地面に倒れ込んだ。


「痛たたっ……うわぁ……森の中に獣道ができちゃったよ……」


騒ぎを聞きつけて駆け寄ってきたリリーが、目を丸くする。


「レイ君、大丈夫?」


「もう……抑え方、全然わかんない……」


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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