第228話(本当の魔法使い)
レイが嬉しそうに出てくる姿を見たメンバーは、安堵の笑みを浮かべた。
「なんて分かりやすいんだろう」
セリアとフィオナが近づき、それぞれレイの両耳に声をかける。
「レイ、そんなにはしゃいでるってことは、何か魔法を授かったのか?」
「レイ君、無事に出てきて良かったけど、分かり易すぎよ!」
別々のことを言われたが、意味は通じたらしく、レイは慌てて背筋を伸ばし、姿勢を正した。
そこへ神殿長が近づき、静かに告げる。
「精霊の試練は特に無かったようで安心しました」
レイは少し考えた後、神殿長に話しかける。
「はい、特に魔法で悪戯とかはありませんでした。
それで神殿長、どこか人目につかない場所で話がしたいんですが…」
神殿長は重要な話があると察し、問いかけた。
「私の執務室でよろしいですか?」
レイは頷いて了承する。
「お連れの方もご一緒ですか?」と神殿長が聞いてきた。
レイは後ろを振り返り仲間を見ると、フィオナとセリアの圧に押されて少し困惑しつつも答えた。
「この二人を同席させてもらいたいです」
そしてレイはリリー、サラ、ボルグルに声をかける。
「リリーさん、サラさん、ボルグルさん。神殿長と話があるので待っててもらえますか」
神殿長とともに聖域を後にし、フィオナとセリアを伴って神殿長の執務室へ向かった。
執務室に入り、ソファに案内されると、レイは対面に座り、すぐに切り出した。
「実は、聖域で新たに魔法を授かったようなのです」
神殿長は驚き言葉を失い、沈黙の後、慎重に尋ねた。
「大聖者様は、すでに火魔法と治癒魔法を使えると聞いておりますが、
今回授かられたのは、土ということですか?」
レイは戸惑いながら答える。
「えっと、実は精霊様の声が二つ聞こえてきたんです。それで、土と水なのかなって思ったんですが、
間違っていたらすみません…」
「二つの声が…?」と神殿長。
「はい。土と水の精霊様の声が二つ、同時に聞こえたんです」
神殿長は衝撃を受け、言葉を失った。
フィオナとセリアも驚愕の表情を浮かべている。
しばらくして神殿長は気を取り直し、深く息をついて言った。
「やはり、大聖者様で間違いありませんな。
精霊の声が二つ同時に聞こえるなど、これまでに聞いたことがありません。
精霊様が特別な力を授けられた証拠です」
神殿長はさらに付け加えた。
「しかし、二つの精霊の声が同時に届くとは…非常に稀なことです。
大聖者様に授けられた力を確認するため、過去の記録や書物を調べる必要がありそうですね」
フィオナが尋ねる。
「その記録や書物は、どこにあるのですか?」
神殿長は答え、ゆっくり立ち上がった。
「昨日、署名をしていただいた部屋に、魔法や精霊に関して記された書があります。
それを確認し、精霊様が何をお伝えになったのか、一緒に調べてみましょう」
レイたちは執務室を出ると神殿長に案内された。昨日サインを行ったところだが
書面台などは片付けられていた。私して書庫に入ったレイたちは神殿長から質問を受ける。
レイは精霊から聞いた言葉を思い出し伝えた。
「二柱の精霊様が『聞いている』『火が言っていた』とおっしゃったのですね。」
「そうです。それで『力はそこにある。大地はいつも下にいる』と
『水は流れる、其方も流れに乗れ』と言われました」
神殿長は過去の記録を調べ、静かに書をめくる。
やがて口を開いた。
「大聖者様、『聞いている』『火が言っていた』の二つはこれまでに記録された言葉の中もありませんでした。
しかし、『大地はいつも下にいる』と『水は流れる』については、かつて何名かの者が、同じように精霊から
その言葉を告げられております。間違いありません。これは精霊様が力を授けられた証拠です」
神殿長は棚から一冊の本を取り出し、レイに手渡した。
「これは初歩魔法の教本です。精霊の義を受けて力を授かった者に渡されるもので、
通常は五歳の子供に与えられます。大聖者様にとっても基本的な呪文を学ぶ手がかりとなるでしょう」
レイは本を受け取り、表紙をじっと見つめて頷いた。
「なるほど、これは初歩からのものなんですね。まずはこの内容を使って試してみます」
フィオナとセリアも本に目をやり、興味津々で準備を進めた。
サイラス神殿長が呪文を示す。
「こちらが初歩の水魔法と土魔法です。まず、水魔法の呪文は『水よ、集まれ。アクア』と唱えることで、
指先から水が流れるように出ます。そして、土魔法は『土よ、盛り上がれ。ライズ』と唱えることで、
土が少し盛り上がるはずです」
レイは呪文を口にし、水魔法を試す。
「水よ、集まれ。アクア!」
指先からチョロチョロと水が流れ出た。
神殿長が感嘆する。
「おお、まさに初歩の水魔法です。しかも一度で成功させるとは、さすが大聖者様です」
セリアもフィオナも笑顔で祝福した。
「レイ君、すごいわね!おめでとう」
「レイ、おめでとう」
(レイ、今日からあなたは本当の魔法使いですね。おめでとうございます)とアルも祝福した。
続いてレイは土の魔法を試す為、書庫を出て神殿の端の方で土のあるところを選び準備を整えた。
「土よ、盛り上がれ。ライズ!」
足元の土がボコボコと激しく盛り上がり、あっという間にレイの腰の高さまで積み上がった。
その光景に場の全員が息を呑んだ。
神殿長は信じられない表情でしばらく沈黙し、土の盛り上がりを見つめていた。
レイも驚き、「こんなに盛り上がるんですか?」と尋ねた。
ようやく口を開き、驚愕を隠せなかった。
「これは――土属性の親和性が極めて高い、ということでしょうね。
しかし、ここまで初歩魔法で土を盛り上げた者を、私は知りません」
その声には、驚きと、少しの畏怖すら滲んでいた。
さらに、神殿長は言葉を重ねた。
「しかも土の他に――火、水という三属性に加えて、治癒魔法まで使えるとは……。
まさに、前代未聞です!」
セリアとフィオナも言葉を失い、立ち尽くしたままだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。
⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。