第223話(繋がったものは…)
魔力可視化プロトコルを発動すると、メンバーたちはそれぞれ異なる反応を見せた。
フィオナは目を細め、ゆっくりと頷いた。
「この感触、魔法を使っているときと似ているな……」
リリーとセリアは、驚きの表情を浮かべながらも、どこかくすぐったそうに笑った。
「なにこれ、ちょっと変な感じ~」とリリー。
「でも、面白いかも……」とセリアが続けた。
一方、サラは眉一つ動かさず、まるで全てが腑に落ちたかのように深く頷いた。
「サラさん、何か分かったんですか?」
レイが問いかけると、サラは自信たっぷりに答えた。
「これは、早く走ったり戦ったりするときに使うものニャ!」
アルがすぐさま確認するように質問する。
「どのように使うのですか?」
「手、離してもいいかニャ?」
サラが尋ねると、アルはナノボットの解析準備を整えたうえで頷いた。
「離しても大丈夫です」
その瞬間、サラは地を蹴って駆け出し、軽やかな身のこなしでその場を何度か往復した。
そして足を止めて振り返る。
「分かったかニャ?」
「いえ、もう一度レイに触れてもらわないと分かりません」
アルの冷静な返答に、サラは素直に頷き、再びレイの手首を掴む。しばらくして、アルが小さく声を漏らした。
「なるほど……」
何かを掴んだ様子で、アルが続ける。
「この魔力……いえ、この力の使い方は、何と呼ばれているのですか?」
「ニャ? ただ気合を入れてるだけニャ!」
サラのあっけらかんとした返答に、アルは短く沈黙したのち、冷静に結論を述べた。
「これは身体強化魔法と呼んでも差し支えないでしょう。
サラさんは無意識のうちに、魔力を循環させて身体能力を強化していたようです」
サラは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに胸を張った。
「まあ、そういうことニャ!」
そして少し真面目な顔つきで問いかける。
「これは、魔法なのかニャ?」
「厳密には魔法の一種と言えます。サラさんの場合、無意識に魔力を使って身体能力を高めていた。
この循環を意識的にコントロールできるようになれば、さらに強力な力を引き出せるでしょう」
「ニャルほど……じゃあ、今までの私は気合だけでやってたってことニャ?」
苦笑しながらサラが呟き、そして、ふと表情を引き締めて言った。
「じゃあ、獣人は魔法が使えニャいっていうのは……嘘になるニャ?」
アルは慎重に言葉を選びながら応じる。
「獣人が魔法を使えないとされているのは、彼らの魔力経路の構造が人間とは異なるためでしょう。
しかし、サラさんのように例外的な個体がいるのなら、その常識は見直されるべきかもしれません」
サラは目を見開き、小さく呟いた。
「ニャるほど……私みたいなのが、他にもいるかもしれないニャ……」
そのときだった。
「誰かが近づいてきていますね。この話は後にしましょう」
アルが鋭く告げ、場が引き締まる。
「やっと見つけたぞい!」
満面の笑みを浮かべて現れたのはボルグルだった。
「ちょっと像を直したから見てみるんじゃわい!」
その言葉に、レイはハッとした表情を浮かべ、即座に声を上げた。
「行きます!」
他のメンバーも興味津々といった様子で、像のある場所へと足を向けた。
そこには、引き締まった足で荷車を引くサラの姿が見事に彫り直されていた。
「こりゃすごい!」
レイが感嘆の声を上げると、セリアが笑いながら肩を叩いた。
「見違えたんじゃない?」
「これなら、誰が見てもサラさんって分かるね――」
そう言いかけた瞬間、旅人たちがざわざわと騒ぎ始め、像と本人を交互に見比べ始めた。
レイはすぐに危険を察知する。
――これはまずい。間違いなく囲まれる。
「サラさん、急ぎましょう!」
「ニャ?」
サラが問い返すより早く、レイは走り出していた。他のメンバーも即座に状況を理解し、後に続いた。
やがて一行は近くの飲食店へと逃げ込み、野次馬の目から姿を隠した。
「どうしたニャ、少年?」
「いや、なんか雰囲気的に、あのままいたら取り囲まれる気がしたんです……」
「確かに、サラさんの像を見て、みんな気づき始めてた感じだったね」
セリアも頷いた。
サラは照れくさそうに笑いながら、そっと窓の外を覗いた。
「目立つつもりはなかったんだけどニャ……」
その様子を見ていたボルグルが、豪快に笑いながら言った。
「とりあえず、像は直したわい! ……でも、直し過ぎた気がするぞい!」
「一目でサラさんと分かるくらい精巧な像になってましたからね」
レイの言葉に、皆が笑顔を浮かべた。
一同は、ようやく騒ぎから解放された空気を感じ、束の間の静けさにほっと息をつく。
そして、一息ついたところで、レイが改まって言った。
「それで、今後の予定なんですけど――」
みんなが視線を向ける。
「成り行きでストロングキャリッジレースに出ることになりまして。
その間、この村に滞在したいと思ってます。
それと、神殿にも行ってみようかと思いますが、どうでしょう?」
数秒の沈黙のあと、メンバーたちは次々に頷いた。
「いいわね」とリリー。
「賛成」とセリア。
「私がけしかけたからニャ、付き合うニャ」とサラ。
「私も賛成だ」とフィオナが力強く言い、
ボルグルが大笑いしながらまとめた。
「決まりじゃな!」
こうして、レイたちは満場一致で次の行動を決めたのだった。
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