第222話(経路の謎)
「皆さんは全員、魔力をお持ちですが、魔力経路が繋がっていません」
アルの言葉に、メンバーの反応はバラバラだった。
フィオナは眉をひそめて口を開く。
「いや、私はすでに魔法を使えてるし、この間、アルに最適化してもらってから、
魔法の力も強くなったのだがが?」
彼女は少し頭を捻りながら、自分に何を言われているのかを探るような表情をしていた。
一方、サラ、セリア、リリーは、突然「魔力がある」と告げられて、驚きを隠せないでいた。
「いやいや、私は子供の頃に『マギの祝福』を受けたけど、魔力無しって判断されたわよ?」
リリーが目を丸くして言えば、
「私もリリ姉と一緒よ。『マギの祝福』のとき、水晶が全然光らなかったもの」
と、セリアも同意を示した。
そして、サラは強い口調で反論した。
「そもそも、獣人は魔法を使えないニャ!」
彼女の瞳は、驚きと困惑で揺れていた。
まるで自分の存在の根底が揺らぐような、不安と混乱の色を帯びていた。
メンバーたちそれぞれが、自分の「常識」と向き合い始めたそのとき――
アルが落ち着いた声で補足を加えた。
「言葉が不足していました。申し訳ありません。皆さんの身体を最適化した際、
それぞれの方の魔力経路に違いがあることが分かりました。順を追って説明します」
アルは一人ずつ名前を挙げながら、丁寧に語り始める。
「まず、サラさん。彼女の身体にはくまなく魔力経路が通っていますが、その経路は外部には繋がっていません。
通常、魔力経路は皮膚を通じて外部に向かって開放され、魔法を発動する際に魔力が放出されます。
しかしサラさんの場合、魔力は体内で循環しており、外部に向かって放出されていないようです」
サラは息を呑み、その場に立ち尽くしていた。
「次に、レイ。彼は私が経路の修復を行い、左右のバランスを整えました。
そのため、魔力経路は正常に繋がっていますが、経路の数はサラさんの半分ほどです」
「そして、フィオナさん。上半身には魔力経路がしっかり通っていますが、下半身……特に
膝から先が繋がっていません」
アルが話し終えると、全員がそれぞれ自分の身体の状態について、言葉もなく思いを巡らせていた。
その静寂を破ったのは、サラだった。
「ちょっと待つニャ!」
彼女の声には、焦りと混乱が入り混じっていた。
「さっき言ったニャ、獣人は魔法を使えニャいって! でも今の話だと、私の身体に魔力経路があるってことニャ?
それってどういうことニャ?」
サラの視線は真っすぐで、真剣そのものだった。
その表情に、他のメンバーも息をのんだ。
アルは一瞬の間を置いて、正直に答えた。
「……それは、私にも不明なことです」
その声には、いつもとは違う、微かに困惑した響きがあった。
「私はこの世界の魔力について、まだすべてを理解しているわけではありません。
この世界で経験したことを基に情報を構築していますが、獣人が魔法を使えないとされている理由や、
サラさんの魔力経路がなぜ存在しているのかは、私の知識の範囲を超えています」
静寂が場を支配した。
誰もが言葉を失い、ただサラの反応を見守っていた。
そんな中で、アルが続ける。
「ただし、サラさんの身体に魔力経路が通っていることは、確かに確認済みです。
これが何を意味するのかは、今後さらに探る必要があるかもしれません」
その言葉を聞いて、レイはふと、ある訓練を思い出した。
――アルとの訓練の中で、魔力の可視化を体験した時のこと。
魔力が自分の中を流れている感覚が、視覚と触覚の両方で伝わってきたあの瞬間を。
「魔力可視化プロなんとかだ、アル!」
レイが思い出しながら口にする。
アルはすぐに理解し、言葉を補った。
「魔力可視化プロトコルですね、レイ。
そして、それをサラさんに適用して、彼女にも魔力を感じてもらおうというわけですね」
レイは大きく頷く。
「そうすればサラさんも、他のみんなも、自分たちの魔力がどう流れてるか分かるかもしれないだろ!」
「分かりました。それでは、レイに触れてもらえますか?」
アルの言葉に、メンバーはすぐに理解を示した。
すでに何度か経験しているため、誰も戸惑うことはなかった。
セリアが最初に、レイの袖をめくって腕に手を添える。
フィオナは反対の腕に触れ、リリーとサラはそれぞれの手首を握った。
ナノボットが体内に流れ込む感覚に、皆が慣れていた。
「ナノボットマッサージでも良いわよ」
と、リリーが冗談を言い、サラはやや不機嫌そうに言う。
「早くやるニャ」
外から見れば、レイが紙を両手で持ち、その腕と手首に仲間たちが手を添えているという、
何とも不思議な光景だった。
少し照れたような表情を浮かべながら、レイは声をかける。
「準備できてるよ、アル」
「では、始めます」
アルの静かな声と共に、「魔力可視化プロトコル」が起動された――。
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