第219話 第七章(神殿前の細長い村)
ミストリアとエルトニアを繋ぐ街道を、レイたちは進んでいた。
右手には広大な湖が広がり、その奥には深い森が見える。あの森の中にはエルフの里があるという。
左手には川が見えていたが、今は林に遮られ、風景は静かに変わっていった。
レイたちは、シルバーが引く馬車に乗り、ミストリアとエルトニアの中間に位置する
北部神殿の入り口にある村へ向かっていた。
「神殿に訪れる人のほとんどが、その村に立ち寄るのだ」
フィオナの言葉から、その村が重要な場所であることが伝わってきた。
「こりゃ速いわい!」
馬車の屋根の上で、ボルグルがシルバーの速さに驚きの声をあげた。目を輝かせ、風を受けて笑っている。
「ボルグルさん、あんまり乗り出さないでくださいね。落ちたら怪我しますから」
レイが御者席から後ろを振り返り、心配そうに注意する。女性陣は馬車の中でその様子をちらりと見守っていた。
「大丈夫じゃわい!ちゃんと捕まっとるぞい!」
ボルグルは自信満々に笑みを浮かべた。
「ボルグルさんはどうしてこの護衛任務を引き受けたんですか?」
「里に帰るのにちょうど良かっただけじゃわい。でも、今はこの仕事受けて正解だったと思ってるぞい」
「そうなんですか?」
「黒い剣にスレイプニル、それに金属の馬車、こんな面白いものに出会えるなんて思わんかったわい!
興奮するわい!」
ボルグルは大声で笑い、目を輝かせていた。
「人をびっくり箱みたいに言わないでくださいよ」
「わしを驚かせる者なんぞ早々いないわい。自慢していいぞい!」
ボルグルは胸を張った。
「ところでボルグルさんはソロなんですか?」
レイが話題を変えて尋ねると、ボルグルは少し意外そうに顔を上げた。
「いや、わしはドワーフ四人でパーティ組んどるわい」
「じゃあ、たまたま一人だったんですか?」
「そうじゃわい、もう一つの仕事で注文が入ったんだわい。だからグリムホルトに行ってたんだぞい」
「へぇ、どんなお仕事なんですか?」
「わしは、冒険者の他に機械技師もやっとるぞい」
「機械技師って何ですか?」
「グリムホルトの鐘は知っとるかい?」
「機械仕掛けで鳴るってヤツですよね」
レイは少し驚きながら答えた。
「アレが壊れたってことで直しにいってたんだぞい。帰りに橋が落ちてたからミストリアに向かったんじゃわい」
「そうなんですね。ところで、あれってどうやって鳴らしてるんですか?」
レイは首をかしげて尋ね、二人はたわいもない会話を続けた。
その様子を聞いていたフィオナが、御者席の後ろにある窓から前方を指さした。
「何だか話が弾んでそうだな、レイ。そろそろ神殿前の村が見える頃だ。
まあ、あそこを村と言って良いのかはわからんのだがな」と少し意味ありげに言った。
「分かりました。変わった村なんですか?」
「見てのお楽しみニャ」
左手に並行して続く川沿いの林は次第に深くなり、いつしか森と呼べるほどに変わっていく。
街道はその森を避けるように大きく膨らみ、右手には荒野と呼べる平地が広がる。
その先には小国家連合との国境を形成する山々が連なっていた。
やがて左側の森の影から、建物らしきものが見えてきた。
その村は森に入る道の両脇に長く伸び、両側に並ぶ建物は食堂や宿屋、土産物屋まで揃っている。
村は街道の両側だけに建物が連なり、その後ろは広い森が広がっている
レイはフィオナに振り向いて質問した。
「これ、村なんですか?」
「最初は神殿に訪れる巡礼者のための宿屋と食堂がポツンとあるだけの場所だったらしい。
それが道沿いに家が増え、今では道の両側に家が並ぶ細長い村として知られているんだ。
道のすぐ後ろは森で、まるで道だけが村みたいな感じだな」
フィオナは微笑みながら答えた。
「ここって魔物とかに襲われないんですか?」
レイが心配そうに尋ねる。
「この道の奥に神殿があるんだが、そのおかげかもしれないが、悪い気が溜まらないそうなんだ。
だからこの森には魔物が近寄らないらしい。だから旅人も安心して泊まれるようになっているんだ」
「それにだニャ、この村のイベントが面白いのニャ。あの看板を見るニャ!」
サラが指さした方向に、大きな看板が立っていた。
看板には村の名物イベントが記されている。村の入口から神殿へと続く道を走る荷車引きレースだ。
元々、村の一番奥にある店に荷物を運ぶ荷車が二台で競争したことがきっかけで始まったこのレースは、
今では村の名物となり、年に四回開催されている。
参加者は村の細長い村の一本道を荷車を引いて競争する。
ユニークなルールとして、優勝者は次回の参戦時に荷車に乗せる荷物が重くなる仕組みだ。
家族連れや観光客も参加でき、村全体がこのイベントで盛り上がる。
「実は、この村の優勝者リストに、サラの名前が四つも記されているんだ。
それに『疾風迅雷』の二つ名はここで付けられたんだ!」
フィオナはまるで伝説の証言者のように語った。
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