第218話(試験結果と護衛選定)
B級冒険者試験が終わると、ギルドマスターとカリオン司祭が現れた。
レイは、なぜこの二人が揃っているのか疑問に思ったが、すぐにギルドマスターが口を開いた。
「すまない、皆。今回のB級冒険者試験と言いながら、実は護衛メンバーも同時に探していたんだ。
君たちに黙っていたこと、本当に申し訳ない」
ギルドマスターはまず謝罪した。
フィオナやセリア、サラ、リリーは一瞬驚いた表情を見せたが、ギルドマスターは続けた。
「ただ、君たちの実力を疑ったわけではない。試験の評価はしっかり行った。
そして、その結果、全員合格だ。君たちはそれぞれ素晴らしい実力を持っていることを証明してくれた」
謝罪を受けたフィオナたちは、少し驚きつつも言葉に耳を傾けた。
「教会の意向もあって、伯爵からの依頼とは別に、王都までの護衛を増やせないかという話があった。
そこで、既存のパーティに新たなメンバーを追加する案が出た。
ただし、リスクやバランスを考えて、今回の試験で護衛メンバーも選定した」
レイは納得しながら聞いていたが、護衛候補が試験官として選ばれていたことには驚きを隠せなかった。
「セリアは斥候で構成された試験官を誰にも気付かせず情報を持ち帰り、サラとリリーは試験官たちを圧倒した。そしてフィオナは、Aランク冒険者と互角に戦ってみせた。正直、護衛として集めた試験官が君たちに太刀打ちできるか疑問に思う結果だった」
ギルドマスターは苦笑しながら続けた。
「唯一引き分けになったのが絶壁のボルグルだ。彼の防御力が高かったからと言うのもあるが、結果は相打ちだ。まあ、ボルグルの斧は刃が欠けたが、それでも他の試験官は全員圧倒された」
その言葉に、レイは驚きを隠せなかった。
仲間たちの強さを改めて実感する中、特にフィオナがAランク冒険者と引き分けたことに感嘆した。
カリオン司祭も感心して口を開いた。
「ボルグルとの引き分けは見事だ。彼は守りに入ると崩せないという評判だからな。君たちがここまでの力を
持っているとは、正直驚いた!」
レイは呆然としながら、ぽつりと尋ねた。
「絶壁のボルグルって…そんなにすごい人なんですか?」
フィオナが前に進み出て、照れくさそうに笑った。
「彼はまさに『動かざる岩』。普通の戦い方では崩せないんだ。でも、私は何とか戦い抜いたかな」
レイはさらに驚きの声をあげた。
「そんなすごい人と戦ってたんですか?しかも引き分けるなんて!」
フィオナは謙虚に肩をすくめた。
「まぁ、何とかな。でも、最後は戦いというより短剣の方が気になりすぎて、相手が模擬戦をやめてしまっただけなんだが」
軽く笑う彼女に、レイは頷いた。
そしてふと思い出したように言った。
「でも、オレたち、スレイプニルの馬車で移動するんですよ。早馬並みのスピードで、
どうやって護衛するんですか?」
「その馬車は何人乗せられるんだ?」とギルドマスターが尋ねると、女性陣は一斉に不満げな表情を浮かべ、軽くため息をついた。
馬車は普通のサイズで、四人から詰めて六人といったところだ。乗れないことはないが、女性陣の険しい顔を見て、レイは答えをためらった。
「えっと…ちょっと狭いかも…」
視線をそらしながら呟く。
「ちなみにそのスレイプニルの馬車って、どれくらい早いんだ?」とギルドマスターが再び訊ねた。
レイは少し自信を持って答えた。
「普通の馬車の二倍から三倍です」
「なっ!」ギルドマスターは驚愕の表情を浮かべた。
「それじゃ、別のパーティを護衛に付けたら、そのパーティの速さに合わせることになるのか?」
ギルドマスターは腕を組み、考え込んだ。
レイは頷き返した。
「そうなりますね。馬車が速くても、護衛が追いつけなければ意味がないですから」
その時、カリオン司祭が口を開いた。
「聖者様、一人だけでも護衛として連れて行ってはもらえないだろうか?」
ギルドマスターは驚いて司祭を見返した。
「護衛パーティを付けなくて良いのですか?」
司祭は真剣に答えた。
「護衛パーティを付けて聖者様の足を遅くし、後ろから狙われましたでは話にならない。ならば聖者様の速さを活かした護衛の方がマシだろうと思ったのだが…」
ギルドマスターは納得したように頷いた。
「なるほど…それならば、護衛依頼はボルグルにしたい。このパーティに盾役がいないのが気掛かりだったが、一人ならば馬車も何とかならないか?」
その時、ボルグルが豪快に笑いながら言った。
「ワシは屋根でも良いぞい!」
こうして、王都までの護衛はボルグルが引き受けることになった。
出発の日、カリオン司祭様、助祭司様、別院のシスター、冒険者ギルドマスター、そしてエレナが見送りに来てくれた。
ボルグルは目の前にある金属製の馬車を見て大はしゃぎしていた。「このフレーム、マドウ鋼じゃぞい!しかも湾曲させて強度を出しとるし、車軸も六輪のダブルとは驚きじゃわい!まぁ、この模様がもう少し直線的ならば完璧だったがのう!」と興奮気味に言いながら、馬車に梯子をかけて屋根に登っていった。
盾を背中に背負って梯子を登るその後ろ姿は、まるで大きな亀のようで、周りの者たちは思わず笑みをこぼした。
レイは苦笑しながら、「馬車、早いですからね、落ちないでくださいね」とボルグルに注意を促した。
フィオナはエレナと別れの挨拶をしていた。
「母上、ちょっと王都まで行ってくる。お土産でも買ってくるから楽しみにしていてくれ!」
エレナも笑顔で「じゃあ、何か美味しいものお願いね!」と返す。
そのやり取りを見ていた周りの人たちは、心の中で「おいおい、旅に出るんだぞ、そんな軽い感じで大丈夫か?」と少し呆れながら思っていた。
「いろいろお世話になりました。ありがとうございました」とレイは頭を下げた。
エレナは優しい笑顔で「気をつけてね、レイさん」と送り出す。
最後に皆が馬車を見送りながら、シルバーが引く馬車はあっという間にその場を駆け出し、瞬く間に視界から消えていった。
「本当に早いな…」とギルドマスターがつぶやくのを、他の者たちも静かに見送っていた。
そこに「すみません」と、シスターの一人がエレナに声をかけた。
「お母さんのお悔やみを申し上げます」と言うシスターに、エレナは一瞬きょとんとした表情を浮かべた。
「何を言われているのかしら…?」と戸惑うエレナを見たシスターは、少し困惑しながら確認を取るように尋ねた。
「フィオナさんのご身内の方ではないのですか?」
「ええ、母です」とエレナは淡々と答えた。
「えっ?」シスターは固まった。
このシスターは、別院に入院していたエレナが不治の病で亡くなったものと思い込んでいた。
そして、エレナをフィオナの身内と思い、見送りに来たのだろうと考えていたのだ。
だが、エレナ本人が目の前にいることに気づいていない。
それもそのはず、エレナはアルのナノボット治療により二十歳近く若返っていた。かつて入院していたエレナとは、まるで別人のように見えたのだ。
シスターは改めて驚きながら、「失礼ですが…お年を聞いても?」と慎重に尋ねた。
「四十八歳です」とエレナが答えた瞬間、シスターは驚愕の表情を浮かべた。
「では、本当に…ご母堂様…? 生きておられる…そして、こんなにも若々しく…!」
第六章 完
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。
⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。