表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

224/334

第214話(テントの修理と変な商人)

その後、サバイバル試験は順調に進んだ。


仲間たちは“普通に”鍵を拾い、ゲートキーパーと戦うこともなく“普通に”扉を抜け、

“普通に”ダンジョンの奥へと進んでいった。


アルのマップを頼りに、「千柱の遺跡」までの最短ルートを辿る。

途中、ディスカバリーランドで足止めされたが、それでもほぼ一日で抜けきった。


遺跡の入り口にはギルド職員が待っていた。


「タイムは……まあ、普通ですね」


淡々とした評価に、四人は顔を見合わせた。

誰も言葉にはしなかったが、どこかで同じ思いが浮かんでいた。


――普通が一番。


職員は続ける。


「二日後に模擬戦があるので、それまで体を休めて、ギルドに来てください」


四人は軽く頷き、遺跡を後にした。



教会の別院に戻った彼らは、すぐに情報の取捨について話し合った。


「……ディスカバリーランドのことを、ギルドに話しますか?」


「うーん、言わないほうがいいかもね。あれって説明できないでしょ」


「ゲートキーパーの音も、アルだから解読出来たメッセージだよね」


セリアの言葉に、全員が静かに頷く。


プログラムされた音とその解読。

転移された先の謎の場所。

入り口が消えてしまう立方館。

オートマッピングがあったから抜けられた迷路。


どれも、説明に困るものばかりだった。


「下手に話して、調査対象にされたら、私達、何日拘束されるのかしら…」

「戻って来れたからいいようなものの……あれ、下手したら、帰れなかったかもよ?」


セリアとリリーの言葉に、誰も返せなかった。


転移された場所がどこだったのか、今でも分からない。

もし帰って来られなかったら――そう考えると、今さらながら背筋が冷えた。


結論はすぐに出た。

あの一件は、ギルドには報告しない事にした。


***


話し合いが終わると、フィオナが荷物をまとめ始めた。


「少しの間、実家に帰ってくる。王都に行く前に、家族と過ごしておきたいからな」


誰も反対はしなかった。

それぞれ、しばしの休息の時間へ向かっていった。


***


レイがテントの骨組みを眺めて悩んでいると、セリアが声をかけてきた。


「それ、ダンジョンから持ち帰ったやつよね。どうするの?」


骨組みがテントのものであることは分かっていたが、修理のあてがなく、レイは困っていた。


「それなら商業ギルドに聞いてみれば? 布を扱ってるとこ、紹介してもらえると思うわよ」


「なるほど、明日行ってみます」


レイは素直に納得し、翌日の予定を決めた。


するとセリアが続ける。


「他にも、ボトルとか、磨りガラスのランタンのボールとかあったけど……

 どうするの? 個人に分けるの、難しくない?」


レイは少し考えたあと、はっきりと答えた。


「いえ、全部パーティ共有にしたいと思ったんですけど、どうでしょう?」


「リーダーがそういうなら、いいんじゃない?」


セリアはあっさり賛成した。


「良いニャ」


いつの間にか近くにいたサラが、ぴょこっと顔を出す。


「良いと思うわよ!」


リリーも歩いてきて、加わった。


そして、ふと何かを思い出したように言った。


「そういえば、ちょっと気になってたんだけど――このボトルね……」


そう言いながら、宝箱から出て来たボトルを持ってくる。


「実は、さっきから中の水を捨てても、時間が経つとまた水が溜まってるのよ。

 どういう仕組みか、アルに聞ける?」


「へぇ、そうなんですか?」


レイは興味深そうにボトルを手に取り、首をかしげた。


(レイ。多分、結露の水ですね。このボトルですが、複数の層で構成されているようです。

 外部の湿気を集めて表面を冷やし、結露によって内部に水をためる仕組みです。かなり高性能ですね)


アルの声が頭に響く。


レイはその説明をそのまま仲間たちに伝えた。


「なるほど、つまりこれを使えば水を集められるのね」


「古代の技術ってすごいわね、驚きだわ」


「これがあれば、水が飲み放題だニャ!」


「ちゃんと煮沸しないと、お腹壊すわよ」


そのリリーの一言で、


「ガーン!」


とサラは項垂れた。



翌日。レイはテントの骨組みを抱えて、ミストリアの商業ギルドを訪れた。

受付で事情を話し、修理してくれる職人がいないか探してもらうことにする。


カウンターで待っていると、周囲が妙にざわついてきた。

視線を感じて周囲を見ると、商人風の男がゆっくりと、だが堂々とした足取りで近づいてくる。


「やあやあ、失礼しますね!」


男は満面の笑みを浮かべて、名乗った。


「私の名はカルゾ。ミストリアとグリムホルトで商売をしております。

 私の店はこの街でも一番の大店でして、何でも揃うと評判なんですよ!」


いかにも自慢げな口調で、自身の成功を語る。

レイは特に反応せず、軽く頷くだけで聞いていたが、カルゾの視線はすでにレイの手元に注がれていた。


「それで、あなたは何をお探しで?」


話を引き出すように尋ねるカルゾに、レイは警戒を解きつつ答える。


「このテントの骨組みなんですが、いまは畳まれてる状態で……こうして床に落とすと、広がります」


レイが軽く床に投げると、

カシャカシャッという音を立てて、骨組みは見事に展開し、枠を形成した。


その様子を見て、カルゾの目がキラリと光る。


「おお、これは素晴らしい! 間違いありません、古代の遺物でしょう! 

 修理には特別な技術が必要ですな。しかも、非常に限られた技術者しか扱えません」


レイは、その言いぶりに半信半疑ながら耳を傾けた。


「ですが、私なら――その技術を持つ人物を紹介できますよ」


カルゾはそう言って、さらに自信を深めるように付け加える。


「その人物なら、このテントも完全に修復できるでしょう。ただし非常に多忙でして、

 町を出るのも時間の問題かもしれません。依頼も殺到していて……費用も、それなりの

 値段になりますが、私が仲介すれば勉強して貰えるでしょう」


レイは慎重に言葉を選びながら尋ねた。


「その人って、どんな人なんですか? このテント、ぜひ直したいんですよね」


カルゾは辺りを見回し、にやりと笑って声をひそめる。


「これは内緒ですが――実はこの町には“聖者”がいらっしゃるんです。

 ええ、聖者殿ですよ。神の力を使える、特別な方です。テントの修理も、その力があれば造作もないこと」


彼は誇らしげに胸を張った。


「もちろん、紹介できるのは私だけ。どうです? この機会を逃すのは、もったいないと思いませんか?」


「えっ、どういうこと……?」


レイは戸惑いを隠せなかった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ