第211話(立方館の秘密)
レイはセリアの肩に手を当て、ナノボットを送り込んでいた。
手を握ろうとしたところ、セリアにからかうような目で見られた。
「フィオナの時は太ももに手を当てて治療したのに、私の時は違うんだ? ふーん……」
そのひと言で、レイは無言のまま肩に手を置く。セリアは満足そうに小さく笑った。
やがて夜の闇が深まり、辺りの音も静かになっていった。
火を囲み、仲間たちは取ってきた果物やパン、干し肉を口にしながら、ゆったりとした時間を過ごす。
空を見上げると、満天の星が広がっていた。
「すごい……こんなに星が見えるなんて」
セリアの声には、素直な感嘆がにじんでいた。
「この場所、本当に別世界なんだな」
フィオナも同じように空を見上げて微笑む。
レイは火を見つめながら呟いた。
「こうしてみんなで過ごすのも、悪くないですね。少し安心できます」
「でも、油断は禁物よ。何が出てくるかわからないもの」
リリーが周囲に目を配りながら言った。
そのとき――
「あれを見るニャ!」
サラが突然立ち上がり、指さした先には、四角い建物の一部がぼんやりと光っていた。
まるで石と石の隙間に扉の輪郭が浮かび上がっているようだった。
「一箇所だけじゃないわ」
リリーが言い、位置を変えると、側面にも同じような光が見えた。
「行ってみよう」
フィオナの声に、全員が立ち上がる。
建物に近づくと、レイがその光の縁に触れてみた。
すると、ほんのりとした温かさが指先に伝わってくる。
「温かい……!」
レイが驚いて手を引こうとした瞬間、石がぬるりと動き、少し浮き上がった。
「うわっ、な、なんだこれ!? 手にくっついてくる……」
そのまま引き出すと、石は一定のところで止まり、すぐにスッと元の位置へと戻ってしまった。
「戻った?」
セリアが身を乗り出す。
「もう一回やってみます」
レイは慎重に指先で石に触れ、今度は別の方向へ押してみる。だが手応えはなく、また元に戻る。
「上でもない、じゃあ横……」
三度目の挑戦で、今度は石がカチリと音を立ててスライドした。奥から、細い取っ手のような突起が顔を出す。
「おお……でも、なんだろう、これだけじゃ終わりじゃなさそうだな」
そう言って、レイは手を止める。取っ手には触れず、石の周囲を見回した。
「他にも動かせる石があるんじゃない?」とセリア。
リリーも頷きながら、すぐ横の石を試しに押してみるが、まったく動く気配がない。
「触れて温かかったの、あの石だけだよね?」
「うん。たぶん反応するのは特定の石だけだ。しかも、順番とかあるかも」
「まるでパズルだな」
フィオナがぼそっと呟くと、仲間たちは黙って周囲の石を観察し始めた。
レイはもう一度、最初の石に戻って、今度はスライドさせた取っ手をそっと引いてみる。
「開けてみますね」
「いいわよ」
セリアが短剣を構え、他の仲間たちも警戒態勢をとる。
アルに強化を依頼し、レイが取っ手を引っ張った。
……が、動かない。
「……って、何も起きないじゃん!」
(レイ、回してみてください)
アルの静かなアドバイスに従い、レイが取っ手を捻ると――プシュッと空気が抜ける音がして、扉が奥へスライドした。
「やった、開いた!中はどうなってるんだろう?」
中は静かで、特に変化はない。
「通路……みたいですね」
レイがそっと覗き込みながら言った。
「他の光ってるところも見てみます?」
レイの問いに、フィオナが頷く。
「そうだな。中が違う可能性もある」
「確認しておきたいわね」
リリーも同意する。
「じゃあ、何ヶ所あるか調べてくるニャ!」
サラが軽やかに駆けていき、
「私は反対側から回るわ」
セリアも続いた。
残ったメンバーは、先ほどの扉の向かい側に回り、同様に操作してみた。
結果は同じ。通路が一本伸びているだけだった。
「……どこも似たような構造ね」
リリーがぽつりと言うと、フィオナも頷いた。
「しかも、見分けがつかないのが厄介だな」
そこへ、セリアとサラが戻ってきた。
「他の面にも同じような扉があったわ。開けてみたけど、やっぱり同じ通路だった」
「危ないわよ、何かあったらどうするの」
リリーが少し呆れたように言う。
「だって、サラが開けちゃうから……」
「ふふん、スピード勝負では負けニャい!」
「誰も競争してないってば!」
レイが苦笑しながら言うと、場の空気が少し和らいだ。
「でも、全部同じなら……ひとまずここから入ってみるか?」
フィオナの提案に、リリーが頷く。
「準備を整えてからね」
仲間たちは「おーっ」と声を揃え、焚き火を片付け、荷物をまとめ始めた。
バックパックを背負い、シルバーの鼻息を背に受けながら、彼らは慎重に“立方館”の通路へと足を踏み入れた。
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