表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/337

第21話(ジェネラル怖い)

レイはオークの集落がある辺りを視覚強化された目で見回してみた。吹き飛んだ小屋の近くにも、

倒されたオークの中にもオークジェネラルの巨体は無かった。


討伐組の方でも異変に気づいたようだった。オークと戦いながら、仲間同士で声を張り上げている。


「おい、ジェネラルが見当たらねぇぞ!」


「そっちもか!?こっちにも姿がない!」


レイはすぐさまアルに問いかけた。


「アル、これってヤバくないか?」


(不味いですね)とアルも短く応じる。


オークジェネラルと、ただのオークを見間違えるはずがない。体長三メルもの巨体がいなければ、すぐにわかる。

だが、その姿がどこにも見えないのだ。


「ジェネラルを探そう」レイはそう言って草原の先を見渡すが、動いているのは小動物ばかりである。


では、森の中かと耳を澄ませて音を聞いてみると、森の奥で葉を揺らし枝を折る音と、獣が走る音が

聞こえてきた。その数はかなりのものだ。


「アル、森の奥で魔物が暴れてるみたいだ!」


(レイ、私も感じました。後方で待機している冒険者が危ないかもしれません。後ろの部隊のところまで

戻りましょう)とアルが言った。


「アル、肉体強化だっけ?それを頼む!」


(了解です)

アルからすぐ返事が返ってきた。


レイは木の枝から枝へジャンプした。これなら森を迂回せず、一直線で後方部隊と合流できる。


その頃、後方で待機していた星の守り手とシャドウナイツの陣にも、異変が襲いかかっていた。

森の奥から、突然ワイルドボアやシルバーフォックスが飛び出してきたのだ。鼻息荒く駆けてくる魔物たちに、

シャドウナイツの若手が叫ぶ。


「うわっ、魔物だ!」


「騒ぐな、落ち着け!」


バランが一喝し、すぐに円陣を組むよう命じた。星の守り手のハバートとライスは迅速に動き、

シャドウナイツのメンバーを手助けして、円陣を形成させた。

一方、ケントとホワイトはワイルドボアと対峙し、それぞれの武器を構えて応戦の準備を整えた。


バランは冷静に状況を見極めながら、予備の武器として持ってきたバトルアックスを引き抜き、力強く構えた。

その目は鋭く、次の瞬間に起こりうる戦闘に備えていた。さすが元Bランク冒険者、緊張感の中でも余裕すら感じさせるその姿には、ただ者ではない風格が漂っていた。


討伐隊の中で、ジェネラルが見当たらないと騒ぎ始めた頃、猫の獣人であるサラはいち早く森の端に戻り、

オークを探し始めた。ハーフエルフのフィオナとは少し離れた位置にいた。


その時、頭上からガサッという音が響いた。音の方向に視線を向けると、何かが森の木の上を飛び去っていくのが見えた。最初は魔物かと思ったが、背中に背負った剣と革の装備を見て、それが冒険者であることに気づいた。


「ものすごいジャンプ力だニャ。それに猿みたいな運動神経だニャ!」


サラは感心しつつ、森の中を進んだ。


奥から走ってくるオーク四体とワイルドボアを見つけたサラは、即座に指笛を吹き、フィオナに「オーク発見!」の合図を送った。その後、双剣を両手に素早く構え、オークに向かって突撃した。


フィオナは指笛の音を聞き、森の中に向かった。そこで、ワイルドボアとオークが駆けてくるのが見えた。

素早く弓を構えると、ワイルドボアとオークに向かって矢を放ち倒した。

しかし、さらに奥にオークが走っているのを見つけた。どうやら後方で待機している冒険者に気づいたようだ。


フィオナは矢をつがえ、放とうとした瞬間、背後から枝が折れる「バキッ」という音を聞いた。反射的に横っ飛びで避けたが、次の瞬間、左足に激しい衝撃が走った。


ザシュッ――


「しまっ!」


叫ぶと同時に、鋭い激痛が左太腿に襲いかかる。太腿を手で押さえると、指先に生暖かい感触が広がった。

振り返ると、大きな斧が地面に深く刺さっていた。どうやら森の中から投げられたものらしい。


森の中を見ると、一回り大きなオークが姿を現した。


「ブモオオオッ!」


唸るような低い鳴き声が森に響き渡った。


「ジェネラルよ!」


とフィオナは痛みに耐えながら、大声で仲間に警告を発する。

だが、左足の痛みで立てない状態のフィオナは、その場から逃げることも、距離を取ることもできず、地面に片膝をついたまま、必死に手で体を引きずり後退しようとした。


オークジェネラルは、獲物を見つけた時の獰猛な顔を浮かべながら、ゆっくりとフィオナに近づいていく。

横に飛んだ際に弓を手放してしまったフィオナは、短剣を抜いて構えた。その短剣に風の魔力を込め始めた。射程は短いが、一撃で仕留める覚悟を決め、フィオナは目の前の敵に集中した。


***


レイが木を伝って進んでいると、指笛が聞こえた。聴覚を研ぎ澄ますと、森の奥で何かが戦っている音がする。

レイは反転してその音に向かった。


(レイ、後ろの部隊と合流しなくて良いのですか?)とアルが尋ねた。


「ジェネラルがいるか確認するだけ!」


レイは答え、再び森の奥へと向かった。すると、


「ジェネラルよ!」


という声が聞こえてきた。

レイはその声の方を振り向いた瞬間、木の枝を踏み外して落ちてしまった。


「うわッ!」


アルがとっさにレイの身体の制御を奪い、一瞬でバランスを整えた。レイは、自分の意志とは無関係に、柔らかく体をひねり、見事な形で地面に着地した。


レイが木の枝から枝へジャンプしている間、アルは落下時に備えナノボットを待機させ、着地を無事にサポートする準備を整えていた。もし配置がうまくいっていなければ、同じように助けるのは難しかっただろう。


「危なかった〜、アル。助かったよ!」


レイが息をつくと、アルは呆れたように答えた。


(あのまま落ちていたら、首の骨が折れていましたね)


(それって、死んじゃうんじゃ…)


と、ふと思ったレイに、アルはすかさず返した。


(治療に無駄な時間がかかるだけです。それに、今は急ぐべきです)


「そうだよな!」


レイは思い直し、声がした方に向かった。そこで、オークジェネラルがハーフエルフの冒険者に襲い掛かろうと

しているのを目撃した。


レイは咄嗟に走り出し、ジェネラルの側頭部に膝を叩き込んだ。

鈍い「バキャッ」という音が響く。無我夢中の行動だった。


膝蹴りをまともに受けたオークジェネラルは、苦しげに「ブモォッ!」と叫び声をあげ、横へ吹っ飛んで

地面に倒れ込んだ。


レイは間一髪でハーフエルフの冒険者を救ったが、その後の動きは続かなかった。


オークジェネラルは頭を押さえながら、ふらつきつつ起き上がろうとしている。視線は定まらず、

足元もおぼつかない。頭が混乱しているのか、動きは鈍い。


それでも、レイはその場に立ち尽くしていた。


もし周りに他の冒険者がいたなら、彼はジェネラルを迎え討つ勇ましい冒険者に見えただろう。

しかし、実際のところは、次の行動が思いつかず戸惑う初心者そのものだった。


(レイ、大丈夫ですか?)とアルが心配そうに声をかけてくる。


やっと現実に引き戻されたレイは、小さく呟いた。


「この後、どうしよう……」


(オークジェネラルを倒しますか?それとも後ろの冒険者を抱えて逃げますか?)

アルが二択を示す。


振り返ると、ぐったりしたハーフエルフの冒険者がそこにいた。レイは彼女を抱き上げ、その場から走り出した。


「オークジェネラルを倒すのはオレの仕事じゃない……」


その思いが、レイの頭を支配していた。若き冒険者の混乱だった。


オークジェネラルとの初対峙での判断は情状酌量の余地があった。しかし、戦わず助けを優先したその決断が、新たな混乱を生むことになるとは、レイはまだ知らなかった。



読んでくださり、ありがとうございます。

誤字報告も大変感謝です!

ブックマーク・いいね・評価、励みになっております。

悪い評価⭐︎であっても正直に感じた気持ちを残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、よろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ