第207話(扉を開くための謎)
「時間制限? 鍵が消えちゃうとか?」
レイがそう言うと、ふと思い出した。シルバーが持ってきてくれた鍵があったことを。
ポケットから鍵を取り出した瞬間、レイとアルは同時に気づく。
「鍵穴のマークだ!」
(鍵穴のマークですね)
その言葉に、周囲がざわめき始めた。
「これ見てください。この鍵って、三番目のマークそのものじゃないですか!」
レイが指さすと、リリーも興奮気味に応じる。
「ホントだ、鍵穴のマークだ!」
セリアは冷静に分析を始めた。
「つまり、これで分かったのは――ゲートキーパーを倒して砂の上に立つこと。
鍵穴があって、壁に何かを注いで、扉に向かう人たちがいる――そんな構図よね」
レイは思いを巡らせながら言った。
「砂が少し減ってきてるから、砂の上に登ってみます」
ゲートキーパーが崩れた砂の上に立ってみたが、変化はなかった。
「砂の上に立っても何も変わりませんね」
不安げな声に、フィオナが考え込みながら答えた。
「倒して砂の上に立って鍵穴。で、壁に何かを注げば扉が開き、人が通れる――そういう流れ?」
「途中が繋がらないニャ」
サラが首をかしげる。そこでリリーが声をかけた。
「ちょっと待って。分かっていることと、分からないことを整理しましょう。まずは分かったことから」
「最初の絵のゲートキーパー」
「ゲートキーパーが残した砂」
「鍵穴」
「扉を通る」
「壁に何かを注ぐ」
みんなが口々に答える。
「これで分かったことは全部ね」
リリーは頷き、続けた。
「じゃあ、分からないことは?」
レイが答える。
「砂の上に立っても、何も起きません」
「それは分かったことよ。何も起きないってことが分かったんだから」
リリーは冷静に指摘し、レイは照れ笑いを浮かべた。
「他に分からないことは?」
「扉を開けるために、壁に何を注げばいいのか分からない」
「それに、注ぐものがどこにあるのかも分からないニャ」
「じゃあ、もっと絵を詳しく見てみましょう。まずは“何を注ぐか”から」
四枚目の絵を見つめながら、リリーが言った。
「手に持っているのはボウルよね? でも、ボウルなんてどこにあるのかしら」
「どこかにこのボウルがあるんじゃないか?」
セリアが推測し、フィオナが提案した。
「そうだな、ちょっと周りを探してみよう」
「わかったニャ、探してみるニャ!」
サラが駆け出す。シルバーはそんなサラを静かに見守っていた。
しかしいくら探しても、それらしいボウルは見つからなかった。
探索中に魔物と遭遇し、戦いながらの探索を余儀なくされる。
「ダメニャ、見つからニャい!」
焦るサラにレイが言った。
「ここに何か落ちてたら、誰かが持って行ってしまいますよね。
だって、床に埋まっていた金属すら抉って持ち去るくらいなんだから」
セリアの目が輝く。
「それだ!」
「えっ?」とレイが驚く。
「多分、ドロップ品なんだと思う」
セリアは確信を込めて言った。
「ドロップ品ですか? 何かの魔物が落とすとか……?」
レイが疑問を口にする。
「いえ、もう落ちているんだと思うわ」
リリーが答えた。
「なるほどな。探してみよう!」
フィオナが声をかけた。
レイとサラはまだ意味が掴めずにいたが、みんなは半分消えかけている砂の場所に集まった。
レイもようやく気づいた。
探している“ボウル”は魔物のドロップ品ではなく、ゲートキーパーが残した砂の中に埋まっている
可能性が高いのだ。
「そうか、砂の中に何かあるかもしれない!」
レイが声を上げると、仲間たちは興味津々で砂を掘り始めた。
「あった、ボウル!」
セリアが叫び、砂の中から取り出したものを掲げる。それはゲートキーパーが残した砂と同じ色のボウルだった。
「本当にあった!」
レイも驚きの声を上げる。
「この色、砂と全く同じだから、一緒に落ちても分からなかったな」
フィオナが感心して言った。
リリーが考え込む。
「これが壁に何かを注ぐためのボウルね。あとは何を注ぐかだけね」
「多分そう。このボウルに何かを注いで、扉を開けるために使うんだ」
セリアは自信を持って言った。
「えっ、じゃあ鍵はどうするの?」レイがセリアを見つめる。
「あ、そうね。鍵が必要な場面もあるわね。つまり、どこに何を注ぐかがポイント」
サラが絵を見ながら興味深そうに言った。
「ニャ? 鍵穴のマークは何を意味するニャ? 意味がなければ、ここに描かないニャ!」
「サラさんナイス! これは壁に注いでいるんじゃなくて、鍵穴に注いでいるんだ!」
レイが声を上げた。
フィオナが現実的な視点を加える。
「では、何を注ぐ? 今の理論なら、ここに落ちているものしかない訳だが…」
「じゃあ、砂しかないじゃない」セリアははっきりと言った。
「やってみましょう」
リリーはボウルを砂の上に置くと、静かに砂をすくって入れていく。
仲間たちは、何かが起こるのを期待してその様子を見守った。
ボウルが砂で満たされると、淡い光がにじみ出す。
周囲の空気が、わずかに変化したように感じられた。
「これで扉が開くといいけど……」
レイが小さく呟くと、リリーが明るい声で応じた。
「期待を込めて、鍵穴に注いでみましょう!」
砂を流し込むと、「サラサラ」という音にまじって「カチッ」という硬い音が響いた。
直後、周囲の空気が張り詰める。
低いうなり音とともに、装置の隙間から光が漏れ始めた。
みんなは息をのんでその光を見つめる。
次に何が起こるのか――期待と緊張が入り混じっていた。
そのとき、アルの声が響く。
(レイ、最後の絵ですが、一番先頭の人は鍵を握っています)
「なるほど、これで鍵を使えば良いわけね」
レイは鍵を取り出し、慎重に鍵穴へ差し込む。
ゆっくりと回すと、扉が一瞬で掻き消えた。
その向こうに現れたのは、揺らめく空気の中に浮かぶ、古びた建物の残骸。
まるで空間そのものが渦を巻き、何か得体の知れない力に引き寄せられているようだった。
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