第205話(無機質の魔物)
五人とシルバーは、広い地下通路を進んでいった。視界の先には、うっすらとゲートの姿が浮かんでいる。
ここはBランク試験の関門の一つ、鉄の廃墟ダンジョンだ。
そのゲートの手前には、艶消しの汚れたベージュ色をした塊のような魔物が立ちはだかっていた。
無機質な材質の塊でできた、“ゲートキーパー”と呼ばれる魔物だった。
古くから恐れられてきた存在だが、最近、この魔物を倒した者はほとんどいない。
その理由をフィオナが呟いた。
「ここの攻略法なんだが、ゲートキーパーを倒すことではないんだ。近くにいる魔物が落とす鍵を拾って、
ゲートを突破するのが最も早い手段なんだ」
「この方法が見つかるまでは、みんな正面からゲートキーパーに挑んでいた。
でも、あれはとんでもなく硬いんだ。剣で斬っても、魔法を撃っても、ほとんどダメージにならないんだ」
斬っても刃が通らず、殴ってもヒビすら入らない。
ただし、攻撃手段は体当たりのみで、相手が倒れても追撃してこない。
まるで、通り過ぎるのを待っているような魔物だった。
そして、倒しても何か奇妙な音を発しながら、砂のように崩れて消えるだけ――。
「昔、冒険者たちが半日かけて倒したけど、結局は何も出なかったって、ここの資料に書いてあったわ」
そう言うのはセリアだ。
見た目の威圧感に反して、戦う価値は乏しく、多くの冒険者がこの魔物を素通りするようになっていた。
レイは前に出て、顎に手を当てながらつぶやく。
「へぇ、変わった魔物ですね。ちょっと試してみますか…」
セリアがすかさず指摘した。
「でも、その前に鍵を探さないとだわ。ここの魔物が落とすゲートの鍵を見つけないとね。
ゲートキーパーを倒しても砂しか出なかったら、意味ないでしょ?」
その言葉にうなずき、まずはゲートを突破するための鍵を探す戦いが始まった。
通路周辺には、硬質な魔物たち――
メタルリザード、アイアンゴーレム、シャドウマシーン、メタルワームなどが現れていた。
C・Dランクの魔物で、見た目通りの防御力を誇る。
五人とシルバーは一斉に動き出した。
フィオナは黒い短剣に風魔法を纏わせ、「ゲイルブレイド」をメタルリザードに放つ。
風の刃は以前よりも明らかに強力で、約二メルも伸びていた。
「なんだこの威力! これは……私の魔法なのか…?」
フィオナが目を見開いて驚く。
今日の調子はすこぶる良く、まるで体の一部のように魔法が馴染んでいる感覚すらある。
その隣では、セリアが黒い短剣を握り、シャドウマシーンの急所を一撃で貫いた。
「これ、ホントよく切れる!」
そう言って嬉しそうに次の敵へ目を向ける。
サラは双剣を舞うように振るい、軽やかな動きでメタルワームたちを斬り裂いていく。
「ニャ、これは楽しいニャ!」
リリーは大鎌を操りながら、魔物を一撃で仕留めていく。
「思った以上に体が動くわ。もう、ゲーム感覚ね!」
そして、レイも黒いロングソードを構え、仲間たちを支援しつつ、敵を的確に切り裂いていく。
シルバーも前に出て、アイアンゴーレムに向かって蹴りを放った。
「ヒヒィン!」
鳴き声とともに、圧倒的な速さで魔物を蹴り飛ばす。アイアンゴーレムは吹き飛び、地面に叩きつけられた。
「すごいぞ、シルバー!」
レイが感心し、その活躍に笑みをこぼす。
やがて、すべての魔物が倒れ、通路に静けさが戻ってきた。
「さて、今回の戦いで鍵が落ちたかな?」
レイが周囲を見回すと、シルバーが口に鍵を加えて戻ってきた。
「シルバー、ありがとう」
鍵を受け取ると、皆で魔石の回収に入る。
その最中、フィオナがレイのもとへ近づいた。
「魔法まで威力が上がってるのにはびっくりした」
「アルが言うには、戦闘スタイルに合わせて最適化したらしいです」
フィオナは短剣を見つめながら、口元に微かな笑みを浮かべる。
「それに、相手を迎え撃つ時に相手の動きが先に分かったんだ」
レイの顔色が変わった。
「え、それって……」
「致命傷になりそうな攻撃だったのでな」
フィオナはあっさりと続ける。
「な、何それコワイ! 当たったら危ないですって、フィオナさん!」
レイが声を上げると、フィオナは穏やかな口調で問いかけた。
「そうなったら助けてくれるんだろう?」
「助けますよ! 何としてでも!」
レイが力強く答えると、フィオナは満足げにうなずいた。
「では、安心だな」
そこにセリアがやってきた。
「何を二人で話してるのかな?」
「聞いてください、セリアさん。
フィオナさんが先読みできたそうなんですけど、致命傷になるところだったらしくて……」
説明を聞いたセリアは、一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに明るく言った。
「あら、でも危なくなったらレイ君が助けてくれるでしょ!」
「えええっ……」
「頼りにしてるぞ、レイ!」
「…もう、分かりましたよ…」
レイは彼女たちの期待に応えようと気を引き締めるが、ひとつだけ言っておきたかった。
「そりゃ、絶対助けますけど……助けますけど、自ら危険に飛び込まないでください!」
その言葉に、フィオナとセリアが一斉に眉をひそめた。
「レイがそれを言うのか?」
「レイ君がそれ言っちゃう?」
二人はレイのこれまでの無茶な行動を思い出し、じとーっとした目で見つめる。
視線に気づいたレイは、少し照れたように頭をかきながら言い返した。
「そ、そんなことないですよ! 今回はちゃんと考えて行動しますから!」
フィオナとセリアは、思わず顔を見合わせて笑いを堪え、肩を震わせた。
「まあ、私たちもレイのことを信じてるからな」
「私たちも強くなってるから大丈夫よ、任せて!」
と、フィオナもセリアも頼もしく続けた。レイはうなずき、ゲートの方を振り返る。
「じゃあ、ゲートキーパーにどこまで通じるかやってみますか」
五人と一頭は、ゲートキーパーに向かって静かに歩き出した。
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