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第202話(代償は削られるライフ)

まず最初に説明されたのは、仲間四人のBランク昇格についてだった。

これはレイと同様、ギルドへの貢献ポイントが基準を超えたためだという。


続けて話されたのは、Bランク昇格試験の概要だ。


「まず一つは、強力な魔物の討伐実績ですね。ですが、こちらはシーサーペント討伐によって、すでに条件を満たしていると判断しています。免除です」


二つ目は、護衛任務の遂行。

これについても全員が過去に経験済みで、問題はないとのことだった。


三つ目の条件は、盗賊団などの人型脅威との交戦と制圧。

これについては、直近のグリムホルトでの誘拐犯掃討の一件が当てはまる。

ギルドに提出した優遇証明書をもとに、事実確認が済めばこちらも免除になるという。


残る課題は二つ。特定の条件下でのサバイバルと、模擬戦である。


サバイバル試験は、ミストリアにある「鉄の廃墟」と呼ばれるダンジョンからスタートし、地下に続く階段を降りて「千柱の遺跡」から脱出することが目的となっている。

険しい地形や様々な危険を避けながら出口を見つけ出すことが、この試験の要となる。


もう一つの模擬戦は、Bランク以上の冒険者が敵役として参加し、リアルな戦闘状況を再現した中で行われる。

ここでは、スキルの正確さや瞬時の判断力、そして相手の動きを読んで対応する力が評価の対象となる。

必ずしも勝利する必要はなく、負けたとしても総合的な評価が高ければ合格となるということだった。


四人はBランクの試験を受けるかどうか、追って連絡すると言ってギルドを後にした。


レイは少し心配そうに尋ねた。

「受けなくて良いんですか?」


「すぐに決めなくても、試験は逃げないから大丈夫だ」

「そうですか…」


レイは、納得しつつも、内心ではせっかくのチャンスだからぜひ試験を受けてもらいたいと思っていた。

エレナさんの治療も残り一日あるし、それが終わってから準備を整えて試験に臨むこともできる。


レイは、仲間たちが次のステップへ進んでくれることを願いながら、その時を静かに待つことにした。


***


と、レイジングスピリットのBランク昇格の話はスムーズに進んだように見えたが――

その裏では、ギルド上層部の間でかなりの議論が交わされていた。


「聖者が率いるパーティを、Cランクに留めておいていいのか?」

「実績で言えば、Aランク相当でもおかしくはないが?」

「だが、Cランクに上がったばかりの者もいるし、全体としての活動期間がまだ短い、それにメンバー構成が偏っている盾役がいないパーティだぞ」

「それに、あまりに急な昇格は他パーティからの反発を招く。ギルドの査定制度そのものが疑われかねない」


紛糾する意見の中で、最終的に落としどころとして「Bランク」が妥当と判断された。


だが、レイ本人のランクについては別の問題が浮上していた。


「では、聖者殿もBランクに昇格させるのか?」

「要人警護や対等の任務依頼を、こちらから出せるのか?要人が要人を警護する事になってしまうのでは?」

「おいおい、教会からは聖者殿の警護の依頼が来ているんだぞ?」

「そもそも、ギルドが聖者殿を“ランク査定の枠内”で扱うなど、畏れ多いのでは?」


議論はけんけんがくがく、まとまりを欠いたまま何度も繰り返され――

最終的に、レイはCランクのまま据え置き、状況を見ながら後日改めて協議するという形に落ち着いたのだった。



***


そして次の日、いよいよエレナの治療最終日が訪れた。メンバー全員が見守る中、レイはエレナの手を取り、ナノボットによる治療を開始した。


アルはナノボットに命じて体内の細胞を細かく再生させ、傷んだ部分や老化した箇所を徹底的に修復していく。

レイも、エレナの体が着実に回復していく様子を感じ取りながら、ほっとした表情を浮かべていた。

しかしふと気づくと、周囲で見守っていた仲間たちが、目を見開き、驚いた顔をしている。

レイは不思議に思い、彼女たちの視線の先を追った。そこには、信じられない光景が広がっていた。


ナノボットによる治療は、単に病巣を修復するだけにとどまらなかった。

全身の細胞が効率よく再生され、老化によって傷んでいた組織までもが蘇っていく。


肌にはハリと弾力が戻り、エレナの姿はみるみる若返っていった。

その変化を目の当たりにし、誰もが息を呑むしかなかった。


「ちょっとちょっとちょっと!レイ君、これってどういうこと?」

一番に食いついたのはリリー(二十六歳)だった。彼女は目を輝かせながらレイに詰め寄る。


「それ、私にもお願い!」

続いてセリア(二十二歳)もと大興奮で声を上げる。


「私もお願いしたい」

フィオナ(三十歳 ハーフエルフ)は最初、エレナの顔とレイを交互に見ていたが、しばらくしてからレイに視線を定め、静かに言った。


「これは大発見ニャ!」

サラ(二十四歳)もニヤニヤしながらレイの肩を軽く叩いた。


そんな周囲の反応に戸惑う中、エレナ(四十八歳)が静かに声をかけた。

「一体どうしたの?何かあった?」


リリーは無言で鏡を差し出す。エレナが手に取って自分の姿を映すと、そこには二十年も若返った自分がいた。

驚きの表情を浮かべ、彼女は言葉を失った。


「アル、これって…どういうことなんだ?」

レイは困惑気味に小声で問いかけた。


(老化した細胞も修復した結果です。私たちには老化した細胞を見過ごすことはできませんからね。これでもかなり強い抑制命令を出しています)


「それにしたって、こんなに…」


レイは呆然とエレナの若返った姿を見つめていた。


周囲ではフィオナ、セリア、リリー、サラが次々とレイに視線を向けた。

誰もが“次は私!“と言わんばかりの期待に満ちた目で見つめている。


「これは…どうするんだ…?」


レイはその視線の圧に耐えきれず、困惑しながら視線を逸らした。


「一人ひとりに…あのキッラキラした目で見られるのは、正直つらいんだが…」


彼の背筋に冷や汗が流れる。やるとしても手を繋ぐだけなので技術的な負荷は全く感じないが、精神的には完全にキャパオーバーだった。


「レイ君、次は私の番よね?」

リリーが手を挙げ、にこやかに微笑む。


「いや、待ってください! これはそう簡単に…」

レイは焦りながら答えたが、その場の雰囲気に完全に押されていた。


そして、レイは押し負けた。

一人、また一人と女性たちが順番に若返るたび、レイの精神はじわじわと削られていく。


「そんなに願望ダダ漏れの目で見られたら…オレのライフが…!」


そして昼過ぎの鐘が鳴る頃、そこには肌がツヤツヤになり、満足げに微笑む女性陣と、燃え尽きた灰のように真っ白になったレイが、ぐったりと横たわっていたのだった。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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