第201話(昇格と挑戦と)
ミストリアに帰還後、シルバーを厩舎に戻し、魔石の換金のためギルドを訪れた一行だったが、
そこで足止めを食らった。
最初に呼び出されたのはレイ。そしてそのすぐ後、フィオナの名も呼ばれた。
レイは戸惑いながらギルドの個室へと向かう。
「アル、オレなんかやったっけ?」
(いえ、ミストリアでギルドに関わることをしたのは今日だけです)
「だよな〜……なんか怖いんだよ」
緊張しきった顔でため息をつきながら、レイは部屋の前に立った。
部屋に入ると、副ギルドマスターはすぐに立ち上がり、少し緊張した面持ちで頭を下げた。
「お呼び立てしてしまい、誠に失礼いたしました、聖者様。しかし、ご安心ください。悪い話ではございませんので、どうぞお掛けになってください」
「はぁ、何でしょうか?」
レイは半信半疑のまま椅子に腰を下ろした。
副ギルドマスターは手元の書類を確認しながら、丁寧な口調で言葉を続ける。
「聖者様、ファルコナーにてシーサーペントを討伐された件について報告が入っております。そのご功績が冒険者としての評価に大きく寄与しております」
「はい、シーサーペントには飲み込まれまして……その際にたまたまファイヤーボールを打ったらシーサーペントが倒れたんですけど……」
副ギルドマスターは、恐縮した表情を保ちつつ、笑みを浮かべて頷く。
「ファルコナーからの報告でも、大爆発の原因は不明とされておりましたが、倒されたことは事実と確認されております。また、聖者様はスタンピード防衛戦においても多大な貢献をされました。これらの功績により、昇格ポイントが一気に溜まってしまったのです」
「えっ、そんなに評価されることがあったんですか?」
「はい。聖者様のご活躍は非常に大きな影響を与えており、そのため一気にCランクを超える評価となりました。ただし、Dランクに昇格されたばかりということ、またご負担を考慮し、Bランクへの昇格は今は控えるのが賢明と判断いたしました」
副ギルドマスターはそこで一呼吸置き、慎重に言葉を続けた。
「Bランクに昇格されますと、要人警護などの依頼も増加いたします。聖者様のご都合を鑑みるに、まずはCランクで止めておかれるのがよろしいかと。ご本人のご意向をお伺いしたく、お呼びした次第です」
「Cランクで十分です。Bランクはまだ早すぎると思いますので」
レイが控えめにそう答えると、副ギルドマスターは深く頭を下げた。
「承知いたしました。それでは、昇格の手続きを進めさせていただきます。なお、聖者様のご活躍を鑑み、今回は昇格試験を免除とさせていただきます。本当にありがとうございます。どうか無理のない範囲で、今後もご活躍いただければと存じます」
個室を出たレイに、すぐセリア、サラ、リリーが駆け寄ってきた。
「レイ、何があったの?」
「どうしたニャ?」
「大丈夫だった?」
それぞれの問いに、レイは少し戸惑いながらも答えた。
「ギルドにも『聖者様』ってことが伝わってました。それと、ポイントが貯まったらしくて……Cランクの昇格が決まったみたいです」
「やったニャ少年! これで全員Cランクニャ!」
「おめでとう、レイ君! そっか、貢献ポイントがついたのね!」
「Cランクに上がるのが早かったわね、さすがレイ君」
祝福の言葉にレイは照れ笑いを浮かべながら、心からの感謝を込めて頷いた。
そこへ、フィオナも戻ってきたが、どこか困惑した表情をしていた。
「何かあったの?」
リリーが声をかける。
フィオナは小さく苦笑しながら答えた。
「いや、振り込まれた額があまりにも大きくて驚いただけだ。合計で六億六千百五十万ゴルドになってた。前にも話した通り、馬車の立替を含めて、皆に千二百万ゴルドずつ分配して、残りはパーティ資金の口座に入れておいたぞ」
「ニャ!」
「うわっ!」
「やっぱりね…」
「いきなり金貨千枚なんて持ちたくないニャ……」
サラが呆れたように言ったその瞬間――。
「馬車六十六台分……」
レイの顔がみるみる青ざめ、そのまま膝から崩れ落ちてしまった。
「レイ君、大丈夫? しっかりして!」
リリーがすぐに駆け寄るが、レイは微動だにしない。
「まぁ、その金額聞いたら誰だって驚くよね……」
セリアも困惑したまま、倒れたレイをそっと見守っていた。
そんな中、ギルドの受付から再び呼び出しの声がかかる。
「また呼び出しか……ほんと、休む暇がないな」
フィオナがぼやいた。
「レイ君、とりあえず立って」
セリアが肩を貸し、何とかレイを立たせ、全員で受付に向かうと、受付嬢が笑顔で迎えた。
「お疲れさまでした。今日は少しお時間をいただきたい件がありまして、まずはレイ様のCランク昇格票の交換手続きについてです。そしてもう一つ、他の皆様に関しても重要なご連絡がございます。Bランク昇格試験を受けるかどうか、確認させていただきたくてお呼びしました」
その言葉に、メンバー全員が一瞬顔を見合わせたのだった。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。
⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。




