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第200話(ミストリアでの息抜き)

レイが治癒魔法を見せた次の日から、エレナの病室に助祭司やシスターたちの姿はあまり見なくなった。

理由の一つは、レイが助祭司に頼んだことだ。

「できれば治癒魔法を使うところをあまり見られたくないんです」


そしてもう一つは、シスターたち自身がエレナの病に関わることを避けるようになったからだ。

レイにとっては治療に集中できる環境が整っただけなので、むしろありがたいと感じていた。


五回目の治療が終わった頃、エレナはすっかり回復していた。

苦しげな息遣いもなくなり、声も穏やかに戻っていた。


「へぇ、レイさんは闇の密偵が好きなのね」

エレナが目を丸くする。


「はい。シスターに読んでもらって好きになりました」

「じゃあ、何冊も読んだの?」


「いえ、孤児院にあったのは『夜の影を追う者』『裏切りの剣』『沈黙の契約』の三冊だけです。

 それでも孤児院では恵まれている方だと、シスターはよく言ってました」


「まあ、そうよね。本って高いもの」

「いくらくらいするんですか?」


「そうね……四十項くらいで七万ゴルドだったかしら」

「ええぇっ! 銀貨七枚!」


「写本だったし、手間もかかるから高いのよ」

「…なるほど。シスターの言ってたことがよく分かりました」


「私もそう思うわ。あ、そうだ――もし本を見つけたら『闇の密偵と烈火の騎士』をお勧めするわ。図書館で読んだけど、とても面白かったの」


「へぇ、覚えておきます」


そこへサラたちが入ってきた。

「少年、準備できたかニャ!」


「レイ君、治療は終わった?」

セリアが体を乗り出して覗き込むように尋ねた。


「エレナさん、具合はどう?」

リリーが容体を尋ねる。


「母上、無理はしていないのですか?」

フィオナが心配そうに声をかけた。


「ええ、もう大丈夫よ。皆さんありがとう」

エレナはゆっくりと頷いた。


ひと安心したところで、レイは今日の予定を思い出す。

ミストリア近くのダンジョンへ、半日だけ潜るつもりだ。


「ダンジョンがあるなら、ちょっと行ってみたい」

そうレイが言い出し、シルバーの運動も兼ねた実戦練習として計画された。


「では、母上。夕方までには戻ります」

「ええ、気をつけて行ってらっしゃい」


レイたちは別院を後にして西門へ向かった。

今回は短時間の遠征のため、馬車は門に残し、シルバーだけを連れて歩くことにした。

目的地のミストリア近くのダンジョンまでは徒歩でおよそ半刻だ。


到着した地下空間は、通路と広間が複雑に入り組み、規則的に並ぶ柱がどこまでも続いている。

かつて何らかの目的で造られたものらしいが、今は役目を失い、ただの暗い洞窟と化していた。

その姿から「千柱の遺跡」と呼ばれている。


「ここはどんな魔物が出るんですか?」

レイがフィオナに尋ねた。


「モールビーストという大型のモグラと、ワーム、吸血バット。水辺にはポイズンフロッグとアシッドスライムもいるな」


「その魔物で何か気をつけることはありますか?」


「レイ君、モールビーストとワームは土中から奇襲してくるから、足元に注意よ」

セリアが、ギルド受付嬢だった頃の知識を活かして忠告する。


「ワームとモグラは嫌いニャ!」

サラが耳を動かして顔をしかめた。


その時、アルが声をかける。


(レイ、こちらでワームやモールビーストの位置を三角測量と定位技術で把握します。右肩と左肩のナノボットで振動や音波の時間差を計測して、敵を特定します)


(ん?)


(測定結果をレイの目に◯や×で表示します。接近してきたら、それを目印に攻撃してください)

(それって魔物が出てくる場所が分かるってことだよね?)


(そうですが? 不要ですか?)

(いや、了解だよ)


視界に◯や×が表示され、ワームやモールビーストの位置が一目で分かるようになった。

レイは調子に乗り、片手で剣を振りながら奇襲を次々と潰していく。


ザシュ! ザシュッ!


「サラさん、そこにモールビーストが出ます!」

レイが指さした直後、土が盛り上がり魔物が姿を現した。


「ニャンだと!」

サラは驚き、一瞬跳び退いたが、すぐに体勢を立て直し反撃に移る。


「ホント百発百中ね。それってアルの力なの?」

セリアは少し感心した様子で呟いた。


「はい、アルが視界に魔物の位置を表示してくれます」


「うーん、シーサーペントの時も驚かされたが、それもすごいな」

フィオナはため息混じりにレイを見つめた。


「リリーさん、後ろ! ワームが出ます!」

レイの声にリリーが即座に反応した。


スパッ! ゴロッ。


「来るのが分かっていると、楽なものね」

飛び出してきたワームは、切られた勢いのまま地面に転がった。


「でも、もっと反則なのはあっちよね」

セリアはふとシルバーの方に視線を向けた。


シルバーは立っているだけだった。

しかし魔物が近づくたび、前脚や後脚がわずかに動き、振り返りもせずに踏み潰していく。

その動きには無駄がなく、まるで蚊を叩くようにあっさりと仕留めていた。


こうして、別院で思うように体を動かせずに溜まっていた鬱憤を発散する小遠征は無事に終わり、

一行はミストリアへと帰還したのだった。


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