第20話(魔法の見学)
荷車を引きながら、レイはドゥームウッドの森の手前までやってきた。
ここから先は草原だ。道など整備されておらず、やがて荷車の車輪が草や小石に引っ掛かり始める。
「よーし、ここで荷車を置いて行く。後は荷物を担いで進むぞ!」
バランの号令が響く。
仕方なく、荷物を担ぐために木箱にロープを結び、それぞれ背負った。
レイは迷わず一番重そうな木箱を選び、ヒョイと担ぎ上げる。アルの強化が効いているおかげだ。
「レイさん、重くないの?」
シャドウナイツの声が聞こえる。
「最近、体を鍛えた成果かな」
レイは誤魔化した。
周囲を見ると、皆が必死に木箱を担ぎ、額に汗を浮かべている。自分もアルに出会う前はこんな感じだったのかと思うと、少し懐かしい気持ちがこみ上げてきた。
しばらく歩くと、バランの声が飛ぶ。
「止まれ!」
どうやらここで待機らしい。荷物を地面に置き、蓋を開けてすぐに取り出せる状態にする。荷物運搬係はここで休憩だ。
(レイ、討伐部隊が動き出します。観察できるところに移動しましょう)
アルの声が耳に届く。
「北東と北西に分かれたから、どちらか片方しか見れないかもしれない」
レイは草原に目を向けながら呟いた。
(では、森の木に登りましょう。高所から視力強化を使えば、両方を観察できるかもしれません)
アルの提案に、レイは頷く。
レイが草原に向かって歩き出すと、すぐにバランから声がかかった。
「レイ、あんまり狩場に近づくんじゃねぇぞ。オークに勘づかれるからな」
「了解です。森の端から出ないようにします!」
森の端まで来ると、レイは腰の剣を背中に回し、慎重に木に登った。
これから魔物と魔法の戦闘が見られると思うと、心臓がドキドキしてたまらない。
風が木々を揺らし、枝がギシギシと軋む音が聞こえる。
二百メルほど離れた先に、オークの集落が見えた。粗末な小屋がいくつか並び、草や枝で薄く偽装されている。オークたちは小屋の内外を行き来し、何か作業をしているらしい。
さらに百メルほど離れた場所には討伐部隊がいた。腰を屈めながら、ジリジリと集落に近づいている。
中央付近には緑のローブを着たセイランの姿が目に入った。息遣いまで感じられるほどはっきり見える。ここからなら、彼女の動きを十分に観察できそうだ。
もう一方の部隊の中央には、赤い兜のラーヴァが剣を握っている。剣を構え、ゆっくりと前進する姿が視界に入る。
レイの視線は自然と、南東の最後尾にいるハーフエルフと獣人の二人組へも向いた。木の上からだと距離感はつかみにくいが、どうやら近くにいるようだ。
(そろそろ始まりそうですね)
アルが言ってきた。レイはセイランに目を戻した。
セイランは何かを唱えながらワンドの先に集中している。すると、ワンドの先の空気がゆらゆらとぼやけ、次の瞬間、一気に広がり始めた。周りの草が千切れ、砂と一緒に舞い上がる。二つの大きな竜巻が現れた。
「すごい……!」
思わず声を漏らすレイ。心臓が跳ねる。
(確かに凄まじい変化ですね)
二つの竜巻はオークの作った小屋に到達すると、小屋を一瞬で破壊し、木片も舞い上がって周りにいたオークをズタズタにした。
「ギャッ、ブモォォォ〜」
オークの断末魔が風に混じって聞こえてきた。
(まず、今の風魔法ですが――セイランさんの魔力がワンドを伝い、外に放出されました。その魔力は真上に伸び、頂点に達した瞬間、横殴りの突風に変化したのです。精霊はその命令どおり魔力を風に変換し、狭い範囲に吹きつけた結果、左右逆回りの竜巻が二つ生まれ、オークに突き進んだのですね)
反対側では、ラーヴァが炎をまとった剣でオークの群れに突進していた。燃え盛る剣が振られるたび、オークの持つ棍棒は無力化され、炎が広がる。レイは思わず息を飲んだ。
(次に、ラーヴァさんの炎剣です。彼の魔力が剣に流れ込むと刃が炎を纏いました。呪文は使っていません。魔力を注ぐことで、炎の精霊がその力を一気に炎に変換し、剣はただの武器ではなく、魔法の武器となったのでしょう)
炎をまとった剣が振るわれるたび、オークの棍棒は真っ二つに裂け、炎に包まれていく。
(……これじゃ、棍棒なんて木の枝と同じだな)
レイはアルの解説を聞きながらも、目の前の光景に再び集中した。二人はオークの集落の中央付近に到達し、戦いを続けている。風と炎が交錯し、二人の技が時間差で美しく共鳴する様子は、まるで一つの芸術のようだった。
その時、アルが忠告してきた。
(レイ、変です。聞いていたオークジェネラルが集落に居ません)
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