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第195話(何かを間違った?)

「コホン」


司祭様が咳払いをすると、その場の空気がピンと張り詰めた。皆がはっとして振り返る。

あまりに多くのことが立て続けに起こったせいで、場の混乱は収拾がつかなくなっていた。そう、そこに司祭様がいたことすら一瞬、忘れかけるほどに。


落ち着いた声が、静かに響いた。


「もうすぐ、警備の者が到着いたします。しばしお待ちいただきたい。そして聖者様。この場所では警備の者を配置しても、この人だかりでは危険かもしれません。そちらの方の治療も行なっていると聞きましたが、場所を移されてはどうでしょうかな?」


レイは周囲を見回しながら、ゆっくりと頷いた。


「確かに……このままじゃ、混乱はさらに大きくなりそうですし。近所の方にも迷惑がかかるかもしれませんね」


司祭様は深く頷き、提案を重ねる。


「その通りです、聖者様。周囲の静けさを守るためにも、より落ち着いた場所で治療を続けられるのがよろしいかと存じます」


レイは軽く息を吐きながら、さらに集まってくる野次馬たちの視線を感じていた。


「分かりました。すぐに場所を移しましょう」


決断を下したあと、少し戸惑いながら司祭様に尋ねる。


「で、どこに行くんでしょう? オレたち、この街には来たばかりで、あまり詳しくないんですが……」


「そうですな。少し街の中心から北に向かった場所に、教会の別院がございます。人目につかず、静かな場所です。治療には最適かと存じますが、いかがでしょう?」


「それなら、お願いします」


レイは頷き、仲間たちに目配せした。フィオナもその提案に賛同する。


フィオナもその案に賛同し、エレナの手をそっと握った。


「母上、少しだけ移動します。教会の別院ならしっかり療養できると思うので」


エレナは少し疲れた表情を浮かべながらも、フィオナの言葉に安心し、小さく頷いた。

司祭様は周囲の騒ぎを抑えながら、別院への準備を進めるために動き出した。


レイは静かに仲間たちへ話しかけた。


「とりあえず別院に移るって決めちゃったけど、大丈夫ですよね? ここでこのまま治療するのも

 近所迷惑になりそうだし。それにエレナさんのためにも良くないし…」


リリーは頷きながら答えた。

「そうね、こんなに野次馬に囲まれていたら、落ち着けるはずもないわ」


こうして一行は、街の喧騒を離れ、エレナの治療に専念できる静かな教会の別院を目指した。


教会の別院は、礼拝堂や宿泊施設、祈りの庭などが揃った、静かな雰囲気の漂うシンプルな施設であった。

ここは信者や旅人、病人が治療や静養のために訪れる場所で、特に治癒魔法や薬草を用いた療養が行われている。


到着すると、助祭司やシスターたちが温かく迎え入れてくれ、エレナの療養用の部屋もすぐに用意された。


案内された部屋は広く、静けさと安らぎが漂っていた。

外の騒がしさから完全に隔離されているような空間で、レイは周囲を見渡しながら驚きの声を漏らした。


「教会ってこんなところもあるんだ……」


セリンではこのような施設を見たことがなかったレイにとっては、新鮮な驚きと感心の念を覚える場所だった。


特に今回は、聖者であるレイがこれから別院に滞在することもあり、一般の信者たちには立ち入りを

控えるよう通達が出されていた。そのせいか、より一層静かな場所に感じられ、レイとしては

なんとなく申し訳ない気持ちになる。


そんな別院でレイが廊下を歩いていると、ふとある部屋の中で目に入った光景に足を止めた。

病室で、シスターが治癒魔法を使い、病人に光を当てて優しく癒している――。


その光は柔らかく、神聖で、見ている者の心までも穏やかにさせるようなものだった。


驚きと共に、その光景をしっかりと目に焼きつけながら、レイは自分の目的を思い出し、

再び足を動かしてエレナの部屋へと向かった。


思えば、レイはこの静かな環境で少し油断してしまっていたのかもしれない。


その日、彼は別院に泊まり、早朝に目を覚ますと顔を洗い、いつものように魔術鞭の訓練を行った。

その後、質素だが消化に良い朝食をとり、二日目の治療のためにエレナの部屋へと向かった。


部屋は三方を壁で囲まれた簡素な病室で、扉はなく、廊下から直接入れるようになっていた。

時折、助祭司やシスターの足音が外から聞こえてくる。

中央にはベッドがあり、そこにエレナが静かに横たわっている。

窓からは朝の光が差し込み、フィオナがその傍で見守っていた。


レイは近づき、優しく声をかけた。

「今日も治療をしますね」


エレナは微笑んで、静かに頷いた。


レイは周囲に気を配りながら、魔力を注ぎ、昨日と同じように光の演出を加えて治療を始めた。


治療に集中していたその最中、突然、アルの声が心の中に響いた。


(レイ、誰かがこちらに向かってきています。足音が聞こえます)


レイは一瞬、緊張が走った。

(えっ? どうしよう? 今、光を止めたらエレナさんが不審に思うだろ?)


(レイ、今すぐ光を消すのはエレナさんが不審がるリスクが高いですが、助祭司やシスターに見られてはもっと厄介です。幸い、光の強度は調整可能ですので、昨日見たシスターのように光を弱めて柔らかい光だけ残すようにしましょう。そして、助祭司やシスターが近づく前に、治療が終わったように見せかけます)


レイはアルの言葉に小さく頷いた。

(それならなんとかなるかもな)


すぐにアルは光の強度を調整し、部屋を包んでいた強い光を徐々に和らげていく。

最終的には、エレナの体を薄く、柔らかい光が包むだけの状態にした。


これなら、万が一見られても、昨日レイが目にしたシスターの治療と同じように見える。


その間、レイはできるだけ自然に振る舞いながら声をかけた。

「もう少しで終わります、エレナさん。あと少しだけ我慢してください」


エレナは信じ切っている様子で、静かに答えた。

「ありがとう、レイさん……」


そしてそのタイミングで、助祭司とシスターが部屋に入ってきた。

光はすでに弱まり、まるで治療の最終段階に入ったような様子を保っていた。


アルの冷静な対応により、誰にも疑われることなく、治療は無事に終わった――はずだった。


だが次の瞬間、助祭司が声をかけた。

「聖者様は、もしかして治癒魔法も使えるのですか?」


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