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第193話(治癒の光、再び)

リリーは、エレナの高熱と倦怠感が深刻であることに気づいたものの、原因はすぐには分からなかった。

眉をひそめながらも、しっかりとフィオナに対処法を伝える。


「今は原因がはっきりしないけど、まずは高熱を少しでも下げて体力を保つことが大事。

水を汲んで、冷やしたタオルをお母さんの額に乗せてあげて。

それから、消化に良い優しい食べ物を作らせるわ。重い食べ物は今は避けたほうがいい」


「セリア、サラ、お願いできる?キッチンで軽いスープを作ってもらえるかしら。

 レイ、あなたは水を汲んできてくれる?」


「分かったわ、リリ姉!」とセリアは元気よく返事をし、厨房へ向かった。

「材料を探すニャ」とサラもセリアに続いた。


「フィオナさん、桶、借りますね!」

レイは、厨房で桶を手に取ると、外へ向かった。


戻ってきたレイから桶を受け取ると、リリーは手際よくタオルを水に浸し、エレナの額に優しく置いた。

次に、熱冷ましのポーションを手に取り、エレナの口元に慎重にあてがい、少しずつ飲ませていく。


「これで熱も少し下がるはずよ」


リリーはフィオナに優しい声で言った。


フィオナが不安そうな顔をしているのを見て、リリーはさらに続けた。


「原因が分かれば、もっと適切な治療ができるから」


フィオナは心配そうに母の顔を見つめながら、エレナに声をかけた。


「母上、どうして……こんなにやつれて……私がもっと早く帰っていれば……」


エレナは弱々しく微笑み、フィオナの手を取って言った。


「そんなことないわ…、フィオナ…。私は大丈夫よ……心配しないで……」


その言葉とは裏腹に、エレナの声には疲れがにじみ出ていた。


フィオナはそれでも心配そうな表情を崩せず、急に思い立ったように言った。


「そうだ、母上!父上が見つかったのだ!」


エレナの瞳が微かに揺れ、フィオナの顔を見上げた。


「……そう、あの人が……」


そして、ほんの少し震える声で続けた。


「生きていて…くれたのね……」


フィオナは頷き、母を安心させるように微笑んだ。


「今日はそのことを早く伝えたくて帰って来たんだ」


エレナは安堵した表情で、力なくもほっとしたように息をついた。


「それを聞けて…よかった……」


一息ついた後、リリーは眉をひそめ、さらにフィオナに説明を続ける。


「体内に何か悪いものが入り込んで、それが全身に広がっている感じね。

 おそらく心臓や内臓にも影響が出始めてる。このまま放っておくと、命に関わるわ……

 でも、私の知識や手元の薬草では手に負えない」


フィオナの顔に不安が広がる中、リリーはフィオナの肩にそっと手を置き、続けた。


「もっと高度な治療が必要だわ。このままでは……」


その時、話を聞いていたレイが一歩前に出て言った。


「アルにお願いしてみます」


リリーも、以前レイがケイルを治療した場面を思い出し、納得したように頷いた。


「そうね……診察をお願いするわ」


リリーはバトンタッチするようにレイに視線を送った。


レイは静かにエレナのそばへ歩み寄り、優しく声をかけた。


「すみません、オレはレイと言います。

 今はここにいる皆さんと、フィオナさんと一緒のパーティを組んでいます。

 お母さんの容態を見させてもらってもいいですか?」


エレナは力のない笑みを浮かべ、小さく頷いた。


「そう……可愛らしいお医者さんね……」


その言葉に、フィオナが声を震わせて言う。


「レイ、お願いだ。母を……診てやってくれ……」


レイは無言で頷き、エレナの手をそっと取る。そして目を閉じ、心の中で呼びかけた。


(お願い、アル……)


すぐにアルの落ち着いた声が返ってくる。


(すべて任されました、レイ)


その瞬間、レイの手から放たれたナノボットがエレナの体内に入り込み、

血流に乗って全身を巡り始めた。アルは静かに作業を進めていく。


(さて、エレナさんの体の状態を確認します)


ナノボットが臓器や血管を細かく調査していく。脳、心臓、肺、肝臓、腎臓……

すべての器官が弱っており、とくに心臓には深刻な異常が見つかった。


(心臓弁の腫れ、血流の滞り……感染の影響が心内膜にまで広がっています。

 外傷から侵入した細菌が全身に回っているようです)


(アル、それ……オレには上手く説明できないよ)


レイが戸惑うと、アルがすぐに言葉を整えて返す。


(こう伝えてください。病気の原因は、おそらく小さな傷から入り込んだ『瘴気』や『毒』です。

 それが体内を巡って悪さをしているようです。と)


レイはそのまま、周囲に聞こえるように伝えた。


「病気の原因は、おそらく小さな傷から入り込んだ瘴気や毒が、体の中で悪さをしてるんだと思います」


エレナの様子を見ながら、レイはナノボットの存在を明かすべきか迷っていた。しかし、アルが提案する。


(聖者の力ということにしましょう。すでに神殿でやらかしていますし、

 一つエピソードが増えたところで問題ありません)


(ちょっ……アル、何をしようとしてる?)


(彼女の状態は深刻です。心臓や内臓にまで、生理機能を妨げる物質が広がっており、このままでは

 生命に関わります。ですが“聖者の力”という名目で、それを取り除き、臓器の機能を回復させます。

 一度に完治させることも可能ですが、彼女の体力を考慮し、六日間に分けて治療しましょう)


(……分かった。フィオナさんのお母さんなんだ。絶対に助けたい。アル、頼んだ)


(了解しました)


その返答と同時に、アルがレイの体の主導権を握る。


レイの手のひらが淡く光り、そこから聖なる光が放たれる。

やがてその光がエレナの体を優しく包み込み、淡く輝く光の膜が形成された。


驚きの表情を浮かべるエレナを、レイはそっと見守る。


手から放たれる光が、頭部から内臓へと順に移動し、肝臓、腎臓、そして最後に心臓へと吸い込まれていく。

心臓部分に光が集中し、全身に吸い込まれた瞬間、光はふっと消えた。


治療は静かに終わり、アルが再びレイに体の主導権を戻す。


(……ん? 今回は気絶の演出はしないのか?)


(説明の必要がありますからね)


アルは淡々と返した。


(そっか……)


そう呟いた瞬間、レイは鋭い視線に気づく。

見ると、ベッドの上のエレナが、目をまん丸にしてレイをじっと見つめていた。


(うわっ……!これ、どうやって説明すればいいんだ!?)


レイの心の中に、慌てた叫びが響いた。


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