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第191話(羨望の眼差し)

「パーティ全員の未来を切り開くためです」

レイはあの後も何度も念押しして説明し、ようやく宿を出ることができた。


だが、フィオナとセリアの表情はどこか沈んでいた。

レイはその様子に「これはまずい」と焦りを覚え、口を開く。


「今までより一層…みんなと、えっと…、今までより仲良くやって行きたいんです!短剣はその為の証です!」


勢いだけで言葉をぶつけてしまったが、二人にはその中の「みんなと」という部分がすっかり抜け落ちていた。


セリアは心の中で歓喜する。

「え?レイ君が、今までよりもっと仲良くしたいって証…!」


フィオナもまた、心の中で期待が膨らんでいた。

「レイが…私と、もっと親しくなりたいという証…!」


その一方で、サラとリリーは顔を見合わせ、どこか呆れた表情を浮かべる。


(また余計なことを言っちゃったわね)

心の中でツッコミながらも黙っていた。


当の本人であるレイは、なぜ二人の反応がおかしいのかまったく理解できず、首を傾げるばかりだった。

そんな微妙な空気のまま、レイたちはシルバーに馬車を繋ぎ、グリムホルトを出発することになった。


本来の予定より三日は遅れている。

シルバーの速度ならばもっと早く進めるはずだったが、思わぬ事件続きに足を取られた。


「リーフ村でもグリムホルトでも事件に巻き込まれたけど、こんな遅れは旅の常識の範囲内だ」

自分に言い聞かせながら、レイは旅の日程表を見つめる。


もっとも、普通はそんなに事件に巻き込まれないのだが。


その日は九月一日。

シルバーの健脚によって、予定では二日かかるはずだったカム村に、レイたちは無事到着した。

だが、村の周囲には驚くほどの人々が野営しており、レイは思わず声を上げた。


「これって何の行列ですか?大きなキャラバン隊?」


やがて、野営場所の交渉と状況確認を終えたセリアが、軽い足取りで戻ってきた。

レイたちは彼女に気づき、自然と視線が集まる。


セリアはいつになくやる気に満ちた表情で報告する。


「この先のカム川にかかる橋が、連日の雨で途中から流されちゃったそうよ。今、復旧作業中で橋が使えないから、みんなここで野営してるんだって」


それを聞いたフィオナは、ああやっぱりかという表情で頷いた。

「やはりこの時期は雨が多いからな。川が増水して橋が流されることがよくあるんだ」


レイは状況を整理しながら、問いかける。

「じゃあ、オレたちも向こうに渡るのは無理ってことですよね?」


セリアが返す。

「そうね。リンハルト方面には行けないけど、ミストリア方面に迂回することはできるわ。どうする?」


フィオナの顔を見ながら、レイは答える。

「フィオナさんのお母さんがいるところですよね。お父さんの無事を伝えるためにも、ミストリアに向かったほうが良いかもしれません」


フィオナが少しだけ驚いたような目で見返してくる。

「それはありがたいが、本当に良いのか?」


「はい。何日待たされるか分からないなら、迂回して先に進んだほうが良いと思います」


セリアも同意するように言葉を継いだ。

「確かにそうね。ここにいる人たちはほとんどがリンハルトを目指しているけど、その先の王都に向かう人たちは、すでにミストリアに行き先を変えたそうよ」


レイは微笑みながら付け加える。


「じゃ、次の行き先はミストリアに変更ということで、野営の準備を始めましょう。普段お世話になってるフィオナさんのお母さんにも挨拶出来ますからね」


その言葉に、フィオナは一瞬で顔を赤らめた。


(あれ? レイが私の母に挨拶って、まさか…!)


すぐに我に返り、首をぶんぶんと振る。

(いやいや、そんなわけない!)


「ま、まあ、挨拶くらいなら普通のことだ…うん、普通のこと…」

フィオナは自分に言い聞かせるように呟いたが、心の奥では期待が渦を巻いていた。


気を取り直そうとしても、火照った頬の熱はなかなか引かず、フィオナは落ち着かない様子だった。


そんなフィオナをよそに、レイたちはさっそく野営の準備を始めていた。

だが、どこか周囲の空気がざわついている。


ひそひそと話す声が耳に入るたびに、レイは視線を感じ、落ち着かなくなってきた。


「アル、ちょっと聴覚強化頼める?」

頼まれたアルが聴覚を強化すると、周囲の声が一気にクリアになる。


「男一人に女四人か、こりゃすげぇパーティだな!」

「ハーフエルフと獣人までいるぞ。見境なしか?」

レイはわずかに眉をひそめ、視線を巡らせながら別の方向にも耳を傾けた。


「……あの馬、スレイプニルだよな。初めて見た!」

「馬もすごいけど、あの馬車って何でできてるんだ? 金属製か?」

「すげぇ馬車だな、六輪なんて初めて見たぞ! あれでナンパしたのか、アイツ」


もう少し離れたところでも声が上がっていた。


「馬車にかかってるのって、貴族様の旗だよな。貴族様がここで野営するのか?」

「何だよ、あのハーレムパーティ!俺と代われよ!」


レイは思わず眉をひそめる。


(ハーレムパーティって……みんな、大切な仲間なんだぞ……)


レイは何とも言えない顔で周囲を見渡した。


あちこちから好奇の視線が突き刺さる。スレイプニルや馬車はもちろん、仲間たち、あるいは自分自身かもしれない。


そのとき、セリアとリリーがレイの顔を覗き込んだ。


「なんで、そんな顔してるの?」

リリーが微笑を浮かべながら言う。


「ふーん、だったら見せつけてやればいいじゃない? 優雅なところをよ。貴族様って呼ばれたんでしょ? いい機会だわ」


セリアもすぐに頷いた。

「それ、面白そう!」


「新作のトラウトすり身スティックの出番ニャ!」

サラも笑顔で加わった。


レイは少し驚きながらも、やがて頷いた。


(見せびらかすのって、ちょっと抵抗あるけど……今は、これが一番平和的な対抗策か…)


まずはシルバーを馬車から外し、そのまま放す。


「シルバー、遊んできていいよ。ただし人だけは蹴るなよ!」


シルバーは周囲を悠然と歩き始めた。

その威容に、他の旅人たちは思わず距離をとり、憧れにも似た視線を送っていた。


「おい、あいつマジか! スレイプニルを放しやがったぞ!」

「おいおい、大丈夫なのかあれ……」


レイたちは馬車の側面に仕込まれていたタープを広げ、まるで屋外サロンのような空間を設けた。

次に、御者台の後ろに飾っておいたセリンの旗を、これ見よがしにタープの端に引っ掛けた。


さらに、座席を引き上げて板状に変形させ、瞬時に馬車内部をベッドルーム仕様にする仕掛けも披露した。


「うお、あの馬車……中身も化け物かよ」

「あれ、どこかの貴族の旗だよな…」

「貴族ってのは、あんな旅支度するのか……」


貴族の紋章が風になびく中、サラの手料理が振る舞われ、レイたちは静かに、そして優雅に食事を楽しんだ。

周囲の人々は口をぽかんと開け、ただ見守ることしかできなかった。


その晩、レイたちの存在は、羨望とともに強烈な印象を残したのだった。


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