第190話(刃物は危険な贈り物)
フィオナとセリアは、グリムホルトのショッピングから戻ると、買ってきた服や小物をレイに手渡した。
フィオナは少し笑いながら、インナーシャツとハーフパンツを差し出す。
「レイ、いつも同じ服ばかり着てるから、たまには気分転換をしてみないか?
これは、レイに似合うと思って選んでみたのだが…」
優しい笑顔だった。
セリアも続ける。
「そうよ、レイ君。今の服って確かに便利だけど、見た目が暑そうで心配だったの。
だからフィオナと取……じゃなかった、相談してこの生成りの半袖シャツとベルトを選んだの。
これで少しでも涼しく見えるわよ」
少し照れながら、レイに手渡した。
レイは二人の気遣いに驚きつつ、素直に頭を下げた。
「ありがとうございます。ちょっと着替えてきます」
彼は礼を言って、自分の部屋へと戻っていった。
***
着替えを終えたレイは、鏡を見ながら少し照れたようにシャツの袖を直す。そして、あることを思い出した。
(そうだ、シルバーホルムで剣を打ち直してもらったとき、余った素材で作ってもらった
短剣とナイフがあったな……)
感謝の気持ちを伝えたかったレイは、バックパックからその包みを取り出すと、女性陣の部屋へと向かった。
レイが新しい服装で部屋に戻ると、フィオナがすぐに微笑んだ。
「やっぱり、似合うな、レイ。これで、もっと動きやすくなるんじゃないか?」
セリアも満足げに頷いた。
「涼しげでいい感じよ。これで暑さも少しは和らぐんじゃない?」
レイはその反応に嬉しそうに笑みを浮かべながら、手にしていた包みを差し出した。
「ありがとうございます。これ、服のお礼です」
そう言って、少し長めの包みをフィオナとセリアに、短めの包みをサラとリリーにそれぞれ渡す。
全員が不思議そうに尋ねた。
「これって、何?」
「まあ、開けてみてください。すぐに分かりますから」
レイが少し照れながら答えると、彼女たちは包みを開けていった。
フィオナとセリアの包みには短剣が、サラとリリーの包みにはナイフが入っていた。
「……!」
フィオナとセリアは驚きに目を見開き、やがてその目にうっすらと涙を浮かべる。
一方、サラとリリーは頭を少しかしげながら、手にしたナイフをじっと見つめていた。
フィオナは短剣を両手でそっと包み込むように抱き、じっとそれを見つめ続けた。
その表情はやがて柔らかくなり、まるで宝物を手にしたかのように、胸に大切そうに抱きしめる。
「こんなに素敵なものを、レイが私に……」
うっとりとつぶやきながら、レイをまっすぐに見つめる彼女の瞳には、感謝とわずかな恥じらいが浮かんでいた。
セリアもまた、短剣を静かに見つめていたが、やがてふわりと微笑み、レイへと穏やかな眼差しを送った。
「レイ、本当にありがとう…」
その声は、心の底からあふれ出た喜びを抑えきれない響きを帯びていた。
その様子を見ていたリリーが、そっとレイを手招きし、声を潜めて尋ねた。
「レイ君、親しい女性に刃物を渡す意味って知ってる?」
レイはきょとんとした顔で首を傾げる。
「さぁ? 知りません」
その言葉に、リリーは意味深な笑みを浮かべて告げた。
「レイ君、ちょっとこれは重要なことだから教えておくわね。
イシリアでは、男性から女性に刃物を贈るのは『二人で未来を切り開く』って意味があるのよ。
つまり、プロポーズね!」
「ええぇぇっ!?」
レイは目を見開き、叫び声を上げた。
すかさずサラが口を挟む。
「知らないニャ! 二人とも目がうっとりしてるニャ!」
「ど、ど、ど、どうしましょう!」
レイは真っ青な顔で慌てふためいた。
リリーは肩をすくめて笑う。
「まあ、全員に刃物を渡してるんだから、全員で未来を切り開こうってことになるのかしらね?」
「それはどういう意味ですか!?」
混乱の極みに達したレイが問い返す。
リリーはさらりと流した。
「さぁ、どうなんでしょ?」
レイはますます困惑し、必死の表情で訴える。
「助けてください。そんな意味があるなんて本当に知らなかったんです!」
リリーはにやりと笑った。
「あら、レイ君。じゃあもう一つの意味かしら?」
「それって……なんですか?」
おそるおそる尋ねたレイに、リリーは涼しい顔で答えた。
「あなたとは縁を切る、って意味よ!」
「そんな~~~!」
レイの悲鳴が部屋に響いた。
「どっちがいいの?」
リリーがさらなる追撃を仕掛ける。
「どっちって……」
返答に詰まるレイ。
「未来を切り開くか、縁を切るかよ!」
「えええぇぇぇぇっ!!」
レイの叫びは、先ほどよりさらに大きかった。
するとサラが真剣な顔で口を開く。
「そうニャ! 私ももらったニャ! さあ、さっさと選ぶニャ!」
リリーは楽しげに言った。
「さて、これはどう収めるかしらね。レイ君、リーダーとしての責任はどうするの?」
「責任って……え、ちょ、どうすれば!?」
本気で悩み始めたレイを横目に、リリーはふと視線を移した。
「それより、あっちの二人をどうするかよね……」
その視線の先には、短剣を手にしたまま、いまだ夢心地のような表情で立ち尽くす
フィオナとセリアの姿があった。
レイはその様子を見てさらに困惑し、思わずつぶやいた。
「ど、どうしよう……」
そんなレイを見つめながら、リリーはいたずらっぽく微笑むのだった。
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