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第187話(予想外の解放劇)

レイは今、衛兵隊の詰所にいた。

理由は言うまでもないが、砦爆発の後、こうなった。


レイが隊長らしき人物にしどろもどろで説明を始めようとしたその時、

半壊した砦の奥からか細い声が聞こえた。


「た、助けてくれ……!」


「え? まだ誰かいるのか?」


隊長が驚いて振り返ると、瓦礫の中から手が一本、にょきっと伸びていた。


「とにかく助けよう!」

フィオナが駆け寄り、瓦礫をどかし始めた。


「今、助けてやるニャ!」

サラも飛び跳ねて瓦礫をどけ始めた。


「いや、助けるのはいいけど……これ、敵じゃな勝ったっけ?」

レイが戸惑うと、フィオナは鉄の棒を手に取り、平然と答える。


「今は、それ置いておく!」


ガンガンと瓦礫を叩き始めたフィオナの隣で、サラは笑いながら作業を続ける。


「なんか、宝探しみたいニャ! もう少しで見つかるニャ!」


レイは「本当にこれでいいのか……」と思いながらも、勢いに押されて手伝うことにした。


瓦礫の下から現れたのは、やはり誘拐犯たちだった。だが、今はただの瓦礫まみれの人々。

アルが渋々応急処置を施し、フィオナが手を差し出す。


「ほら、さっさと出ろ!」


誘拐犯の一人は戸惑いながらもその手を取って、かすかに礼を述べた。


「あ、ありがとう……?」


隊長は周囲を見渡しながら呟く。


「なぜ古い要塞に人がいるのか分からないが……とにかく救助だ。街に戻って報告するぞ!」


「いや〜、今日は大活躍ニャ!」

サラが胸を張ると、フィオナも笑顔でうなずく。


「私たちの力を見せつけてやったな」


レイは頭を抱えながら、ぼそっと呟いた。


「……これ、どう説明すればいいんだ……」


砦は半壊。

誘拐犯たちは街の医療所へ送られ、レイたちは衛兵の詰所に案内された。

重要参考人扱いである。


***


詰所の一室で取り調べを待っていると、セリアとリリーが攫われた女性たちを連れて現れた。

リリーが隊長に手短に事情を説明する。その内容に、室内の空気が一変した。


「この女性たちの証言によって、砦内に埋まっていた者、全員が誘拐犯だと判明しました!」


報告を受けた隊長は目を見開き、声を荒げる。


「全員武装! ただちに月影亭へ急行しろ! 逃げられるな、必ず捕らえろ!」


詰所は一気に慌ただしくなり、衛兵たちは次々と出動していった。

その様子を見ながら、レイたちは内心「これで帰れるかも」と期待する。

だが誰一人、彼らに話しかけようとはしない。


「えっと、俺たち……帰ってもいいんでしょうか?」


レイが近くの衛兵に尋ねると、男は装備を確認しながら軽く返した。


「スマン、今は忙しい。後でな!」


それでも気になったレイは、忙しく動く隊長のそばへ近寄り、小声で尋ねた。


「隊長さん、オレたちはどうすれば?」


隊長は振り返ることなく言った。


「今は忙しい。邪魔をするな!」


「すみません……」ともう一度声をかけたが、隊長は手を振りながらそのまま走り去ってしまった。


サラが首をかしげて呟く。


「え、私たち、もう用済みかニャ?」


フィオナは肩をすくめて答えた。


「まあ、引き上げても問題ないんじゃないか……」


重要参考人から、ただの被害者へ。

いつの間にか、彼らの扱いは静かに変わっていた。


ため息をついたレイは、諦めたように言った。


「とりあえず、宿に戻ろう……」


***


翌朝。

宿で朝食をとっていると、衛兵隊から報告が届いた。


月影亭での捕り物は無事成功し、犯人たちは全員逮捕されたという。

宿に報告が届いた理由は、詰所で冒険者としての身元確認を受けた際、宿泊先も記録されていたためだった。


その後、衛兵隊長がわざわざ訪れ、丁寧に感謝の言葉を述べた。

「監禁されていた女性たちから、君たちが命を救ってくれたと聞いている」

その証言が多く寄せられたため、レイたちは一躍この街の英雄となったのだ。


報酬は金銭だけでなく、街の商店や宿屋で一年間、三割引きの優遇措置も付いていた。


「これはもう、しばらくこの街に滞在して、いろいろ見て回るしかないわね!」


リリーが楽しげに提案し、セリアも笑顔でうなずく。


「それ、賛成!」


「なら、私は武具屋をチェックしに行こう」

フィオナも乗り気になり、話はショッピングプランへと進む。


サラはふと空を見上げながら呟いた。


「ニャんか、美味しいトラウト料理でも探すかニャ……」


その頃、レイは衛兵隊長に招かれ、改めてもてなされていた。

だが話がひと段落すると、隊長が真顔で問いかけてくる。


「ところで、古い要塞がなぜ爆発したのか、分からないか?」


レイは背筋が凍った。思い出すのは、あの火の玉一発。口から出たのは、半ば反射的な言葉だった。


「なぜファイヤーボール一発で砦が崩れるほどの爆発が起きたのかは……オレにも分かりません!」


隊長はしばらく考え込み、やがて静かに頷いた。


「そうか……誘拐団が何かの爆発物を持っていたのかもしれん。

この街では最近、行方不明者が増えていてな。組織的な犯行の可能性を疑い、我々も調査を進めていた」


そして、やや声を落としながら続ける。


「そんな折に、古い要塞で騒ぎが起きたと聞いて、何か関係があるのではと睨んでいたのだ。

 だが結果として、犯人を捕らえ、多くの女性を救い出せた。感謝している」


レイはそっと息をつき、頭を下げる。


「ありがとうございます……」


――こうして、なんとかその場を切り抜けたのだった。


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