第186話(やり過ぎだろ!)
レイは追ってくる敵の気配を感じながら、ふと良いことを思いついた。
後ろから追いかけてくるなら、敵を足止めできるかもしれない。
仲間たちを振り返り、レイは声をかける。
「みんな、先に逃げていてください。オレ、ちょっと戻ってさっきのトラップを仕掛けてきます!」
そう言い残し、レイは再びトラップのあった地点へと走り出した。
元のワイヤー装置を思い出しながら、慎重に手を動かす。
「これで追ってくる連中を一時的にでも止められるかも…」と呟きつつ、急いで再設置を進める。
そのとき、アルのプロジェクションが視界に現れた。
(レイ、網膜プロジェクションでサポートします。トラップの感度を調整します)
(ありがとう、アル)
視界に浮かび上がった矢印と赤丸に従い、ワイヤーや装置を微調整する。
細かな感度の調整まで終えると、レイは小さくガッツポーズ。
「よし、これでオッケー!」
ちょうどそのとき、背後からにぎやかな声が響いた。
「ニャハハ、遅いニャ!もっと頑張れ!」
サラの挑発的な声だ。どうやら、逃げた女性達を追いかけてきた誘拐犯たちの注意を
後ろから引きつけているらしい。
サラのすぐ後ろには、フィオナの鋭い戦闘音も混じっている。
二人は後衛に回り、女性たちを逃がすために追手をコントロールしていたのだ。
レイは網の真下に敵が差し掛かるのを確認し、叫ぶ。
「サラさん、ストップッ!上!」
声を聞いたサラは、即座に足を止めた。
直後、仕掛けたトラップが作動。
ガランガランッ! バサーッ!
鐘のような大音が響き、上から網が勢いよく降りてきて、追ってきた誘拐犯たちを見事に絡め取った。
驚いた表情を見せたサラだったが、すぐににやりと笑みを浮かべる。
絡まった誘拐犯の頭を軽やかに踏み越えながら、「無様ニャ〜」と一言。
フィオナも続き、無駄な動き一つなく網を通り抜ける。
冷ややかな目線を落としつつ、網に囚われた敵を軽く踏みつけて進んだ。
「ナイスな罠だった、レイ」
フィオナは静かにハイタッチ。
サラも笑いながら手を合わせてくる。
「さっきは危なかったニャ。でも、いい仕事だったニャ!」
「でも、増援が来る前に早く出ないとまずいな」
フィオナが冷静に言葉を付け加えた。
「わかりました。じゃあ、すぐに合流しましょう」
レイは仲間とともに移動を始めたが、そのときアルの声が頭に響いた。
(レイ、砦の右側に厨房があります。そこに小麦粉が積んであるのを確認しました。うまく使えば追手を足止めできます)
「小麦粉で足止め?どうやってだ?」
(小麦粉を空気中に散布すると非常に可燃性が高くなります。火を使えば爆発を起こせます。追手を無力化できるでしょう)
「なるほど…分からないけど、足止め出来るならやろう!」
そう言って、レイたちは砦の入り口へと向かう。
厨房へ飛び込むと、大きな小麦粉の袋が目に入った。
時間を惜しみつつ、レイは袋を破り、通路に小麦粉を撒き始めた。
「ゴホ、ゴホ…こんな感じでいいんだな、アル?」
(はい、それで十分です。あとはここから離れて、安全な距離からファイヤーボールを撃ってください)
レイは仲間にも声をかけ、砦の外に出た。
「これでファイヤーボール打つの?…これで足止めになるのかな…?」
振り返って入口へ向けてファイヤーボールを放った。
ボウッ!
ドゴオオオオォォォォォォォォォン――!
命中した火の玉が小麦粉に引火し、轟音と共に砦内部を激しく揺るがした。
バリバリバリッ!と古びた石壁にひび割れが走り、ゴゴゴゴゴ……と断続的に崩落が始まる。
塔が軋みながらゆっくりと傾き、ドサァァァン!という轟音とともに砦の横へ崩れ落ちた。
ザザザザッ……と瓦礫が辺りに飛び散り、もくもくと黒煙が夜空を覆い尽くした。
レイは絶句した。
「……アル、やりすぎだろこれ!どうする?敵じゃなくて砦壊しちゃったぞ!」
(…少し派手でしたね。次回はもう少し抑えます)
外で待機していたレイたちは、静けさに包まれる中、不安が胸をよぎる。
「アル、本当にやりすぎだってば…」
フィオナも呆れ顔で言った。
「まさか、本当に誘拐団を壊滅させてしまったのではないか」
サラも耳をピクピクさせながら警戒した様子でつぶやく。
遠くから蹄の音が近づいてくる。
街の衛兵たちが馬に乗って駆けつけてきたのだ。
「まずい…これ、どう説明すんだ?」
レイが焦りをにじませて呟いた。
「とりあえず落ち着いて。状況を説明できるなら正直に話すしかないな」
フィオナが静かに励ます。
「でも…この爆発、明らかに犯行みたいに見えるよな…」
レイは責任を感じながらも、フィオナの案に従うと決めた。
衛兵たちは前で馬を止め、険しい顔つきで近づいてくる。
隊長格が威圧的に声をかけた。
「お前たち、何をしている! 古い砦で爆発が起き、逃げる女性が発見されている。いったいどういうことだ!」
レイたちは緊張しながらも、静かに対応を始める。
レイが一歩前に出て、言葉を選びながら説明を始めた。
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