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第184話(救出脱出大作戦)

レイが目を覚ますと、冷たい床の上に後ろ手で転がされていた。

ぐるりと周囲を見回すと、以前捕らわれていた女性を含め、仲間たち全員――計八人が、

鉄格子の中に閉じ込められているのがわかった。


「レイ君、おはよう」


「リリーさん……おはよう。って、ここ……アジトなんですか?」


「んー、どっちかって言うと……収容所、かな?」


そのとき、アルが静かに言った。


(レイ、ここに来るまでの様子を録画しました。画像は荒いですが……)


レイの網膜に、プロジェクション映像が映し出される。

自身が運ばれてくるところから、現在の場所に収容されるまでの一部始終が再生されていった。


(これ、新機能か?)


レイが心の中で問いかけると、アルがすぐに応じる。


(そうです。ですが緊急時なので、その説明は後ほどにします。現在確認できた敵は九名。

 全員が奥のアジトで話し合いをしていますが、音が拾えない位置にいる可能性も考慮してください)


映像には、外観は崩れ荒れているにもかかわらず、入口だけが不自然に整えられている

砦の様子が映し出されていた。


厨房のような空間、いくつかの扉。

そしてしゃがみ込んだ男が何かを拾い上げるシーン。

さらに続く、狭く暗い通路。その先に広がるのは整然と並んだ鉄の檻だった。


「檻が並んで、何人か攫われた人がいますね」


「……何も見ないでよく分かるわね。檻なら、ここの鉄格子から顔を出せば見えるわよ」


リリーが軽く冗談を返す。


レイが首だけ外に出して確認すると、全部で八つの檻が並んでいた。自分たちの檻も、そのひとつに過ぎない。


「まずは自由にならないとですよね。アル、手を硬化させてこの縄、切れないかな?」


(了解しました。手の一部を硬化させて切断します)


レイの手の甲がわずかに変色し、しんと冷えた空気の中で、硬質な感触が縄に押し当てられる。

ナノボットの働きで繊維が少しずつ裂け、やがて――


(もう少しです……)


縄が完全に切れ、レイは両手を自由にした。


「おお、すごいわね。それ、セリアから聞いてたけど便利だわ」


リリーが感心したように微笑む。


「その手があれば、何でもできちゃうんじゃない?」


「まあ、奥の手ですけどね」


レイが少し照れくさそうに笑うと、すぐにリリーの縄に手を伸ばし、素早く解いた。


「助かったわ」


「これで動けますね」


レイは仲間たちの縄を次々に解いていき、やがて全員の拘束を解き終えた。


「よし、これで全員自由になれましたね」


仲間たちが次々と目を覚まし、状況を確認し始める。


「レイ、次はどうするのだ?」


フィオナが即座に問う。


「こんなとこ、居たくないわね。早く動こう」


セリアが短く言い、サラも立ち上がりながら頷く。


「眠いニャ……でも、急ぐニャ」


そのときだった。

背後の檻の中から、かすかな物音と息を呑む声が聞こえた。


「……ん、え……?」


「え、ここどこ……?」


目を覚ました攫われた女性たちが、次々と身じろぎし始める。

手足に巻かれた縄が緩んでいることに気づくと、戸惑いと警戒が一気に広がった。


「ちょっと、誰か……っ」

「やだ、なにこれ、檻? なんで!?」

「誰よ、あんたたち……こっち見てるの、誰……!」


レイたちに気づいた女性の一人が、怯えたように声を上げた。

続くように他の者たちもざわつき、狭い檻の中で互いに身を寄せあう。


「違います、僕たちは――」


レイが一歩踏み出し、説明を試みようとする。


「近寄らないで! 何が起きてるの!?」

「これ、夢!? なんなの、ふざけないで!!」


縄が解かれているとはいえ、彼女たちはまだ檻の中だ。

混乱と恐怖、そして目の前の武装集団への疑念に縛られたままだった。


その様子を見て、リリーが静かに前に出た。

大きく息を吸い、やわらかな声で語りかける。


「大丈夫。私たちは、あなたたちを助けに来たの。

でも今、あなたたちはまだ安全とは言えない場所にいる。

騒いだら、外の敵に気づかれるかもしれない。だからお願い。

深呼吸して。私たちを信じなくてもいい。でも、まずは静かに」


檻の中は、泣き出す寸前のような緊張で張り詰めていたが、

リリーの言葉に応えるように、ようやく一人がうなずいた。


その様子を確認し、レイは静かに仲間へ振り返る。


「今のところ、敵は九人。

……ここからどう動くかは、急がないといけません」


「九人なら蹴散らせるな」


フィオナが即答する。


「その倍でも平気ニャ!」


とサラが意気込んで言ったが、セリアは沈んだ目で檻を見たまま言った。


「けど、彼女たちを連れて戦うのは無理。

戦わずにやり過ごせるなら、それが一番よ」


レイはそれを確認すると、再び皆に向かって言った。


「リリーさんがみんなの様子を見てくれている間に、オレたちは外の状況を探りに行きましょう」


「……どうやって檻から出るのだ?」


フィオナが尋ねる。


「アル、なんか手はない?」


(ナノボット使いが荒くなってきましたね。……良いでしょう。レイ、檻の鉄の棒の接合部を握ってください)


レイは指示通り、鉄格子の接合部をそっと握る。


「アル、どうするんだ?」


(ナノボットで微振動を加えます。接合部分を緩めるので、しっかり握っていてください)


しばらくすると、微かに振動が伝わってくる。

鉄棒がわずかに緩み、レイが引くと、するりと棒が抜けた。


「わわ、いとも簡単に棒が外れた……!」


レイが棒を見つめながらつぶやく。


「これ、どうしよう?」


その棒をフィオナが掴む。


「レイ、それを貸してくれ」


「フィオナさん、棒術とかできるんですか?」


「一応はな。剣や槍も一通りは使える。だが、今は弓が主流だ」


その立ち姿からは、どんな武器でも使いこなす自信がにじみ出ていた。


「じゃ、オレは他の檻も開けてきます。フィオナさんは、あっちの扉の監視をお願いします。

 あっちがアジトっぽいので」


レイが指さすと、フィオナは頷いた。


「了解。監視に回る」

「私も行くニャ!」


サラがフィオナの後を追う。


「じゃあ、私は鍵開けね」


セリアが言いながら、ブーツの踵から小さなツールを取り出す。


「そんなところにツールを隠してたんですか? さすがですね……」


「これでも斥候でならしたのよ」


セリアがにやりと笑う。


「じゃあ、手分けしましょう」


レイが指示を出し、仲間たちはそれぞれの役割に散っていく。


リリーは攫われた人々のケアを続け、優しく声をかけていた。

誰もが、緊張の中でも自分にできることを即座に判断し、動き始めていた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

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