表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

192/336

第182話(分からない事が分かった)

彼らが魔法陣を修復しようとしている理由と、その行動が自分たちの目的とどう関わっているのか。

それは「封印せし者」としての務めによるものだと理解できた。


だが、その「封印せし者」についての詳しい情報は、リューエンでさえ知らなかった。

おそらくは失伝してしまっているのだろう。

そのため、彼らが本来どんな役割を果たすべきなのかは、誰にも分からないままだった。


他にも「護りし者」や「保守せし者」と呼ばれる者たちがいて、世界のバランスを保っていると言われている。

だが、その“世界の何のバランス”なのかすら失われており、まるで虫食いの書物のように断片的な情報しか残っていない。


シルバーも「封印せし者」について知っていたが、アルを通して尋ねたときの返答は途切れ途切れだった。


「…封…維持…者…危険、封…」


おそらく「封印を維持する者で、危険を封じる」という意味だと理解した。

シルバーもそれ以のことを知らないようだった。


フィオナが問いかける。

「では、そんな分からない仕事は放棄しても良いのでは?」


リューエンは逆に問い返した。

「では、なぜあなた方はあの場所に居たのですか? 迷いの森の異常を見て、それを元に戻そうと思ったのではないですか?」


確かに、シルバーの頼みがあったとはいえ、放っておけなかったのは事実だった。


レイはさらに尋ねた。

リューエンに「星間犯罪」や「外部からの脅威」について聞いてみたが、具体的な内容は教えてもらえなかった。

ただ、以前新聞屋を捕らえた件で、脅威の一部は排除されたとだけ伝えられた。


しかし、それ以外の脅威については沈黙が続いた。

一方で、こちらが脅威と感じている帝国の動きについては、「干渉になる」として手を出さないと冷たく言われた。


「なんでそんなに干渉って言うんですか?」

そう尋ねると、リューエンは淡々と説明した。


「以前、技術支援をした星で内乱が起き、滅んでしまったことがあった。それ以降、未発展文明への技術供与や内政干渉は禁止された。先進技術は文明の文化や社会構造を壊す可能性がある」


特に、技術の管理や倫理が未熟な文明では、戦争や環境破壊、社会不安を引き起こす危険が高いという。


(サラがブーツを履いた足を慌てて隠したのは、見なかったことにしよう)


フィオナは、なぜイーリスが家族を離れ、危険な任務を選んだのかを知りたかった。

その問いに、イーリスは静かに答えた。


「本当にすまない。家族を守るため、この任務を選んだ。お前たちを遠ざけたのも安全だと思ったからだ。しかし、そのせいで寂しい思いをさせてしまったことを後悔している」


フィオナが複雑な表情を浮かべるのも無理はなかった。


彼女自身も「封印せし者の一族」と判明したが、その能力について尋ねると、リューエンは「占いのようなもの」と説明した。


ただし、その占いは最初に設定した“テーマ”が全てを決める。

一度決めたテーマは変更できず、以後の占いはすべてその指針に従う。


たとえば、リューエンは「里を守るにはどうすればよいか」。

イーリスは「家族の幸せを守るにはどう動けばよいか」と念じたのだという。


その後は、占いで導かれた感覚に従って行動を選ぶ。

「右に進むべきか左に進むべきか」と問いかけ、正しい選択なら安堵が、間違っていれば不安が湧く。

――そういう仕組みだとリューエンは言った。


ただし、この力を使うたびにかなりの魔力が消費され、使いすぎれば魔力枯渇で倒れてしまうという。


フィオナが「すぐに使えるのか」と尋ねると、リューエンは首を振った。

「訓練を続ければ、数年後か、数十年後には顕現するだろう」


悠長な話だと思ったが、エルフにとってはそれが自然なのだ。

時間の流れが違う。


余談だが、一族の中には最初のテーマを「金持ちになるにはどうしたら良いか」に設定した者もいたらしい。

その者は占い師として莫大な財を得たが、人との縁には恵まれず、生涯独りだったという。


最後に、今後の危険について尋ねると、リューエンは淡々と答えた。

「封印を除けば、せいぜい自然災害くらいだろう」


帝国の企みに関しては、やはり何も語ろうとはしなかった。

彼の態度はどこか他人事のようで、里が本当に危機に陥らなければ動かないつもりのようだった。


その言葉を聞き、レイの胸に不安が広がった。

他にも封印された場所がいくつも存在するらしい。

同じような異常が起きる可能性があるのだ。


(こんなこと、オレたちだけで対処できるのか?)


レイの焦りは強まっていった。

(アル、オレはもうダメだ。何が分からないか分かっただけのような気がする!)


(レイ、確かに状況は複雑で理解しがたいことも多いです。しかし、まずは整理しましょう。迷いの森の異常を解決し、魔法陣を修復できた。それは確実な一歩です)


アルの励ましに、レイは息をついた。


その時、リューエンとイーリスの話が終わり、二人の視線がレイへ向けられた。

イーリスの鋭い目が何かを問うように見据える。

フィオナが気づき、無言で睨み返す。

短い緊張が走り、やがてイーリスは視線を外した。


イーリスはフィオナに微笑みながら言った。

「フィオナ、お父さんはお前のことをちゃんと見ている。寝ている時でもな」


フィオナは冷たい視線を返す。


リューエンが笑って言った。

「お嬢さん。その辺で勘弁してやってくれ」


二人は「四大神の加護があらんことを」と告げ、緑のフードを被って森の奥へ消えた。


フィオナはその背中を見つめ、涙ぐみながら呟いた。

「良かった…父上が生きていた」


サラが気まずそうに言った。

「良かったニャ。でもずっと煙たがってたニャ」


フィオナは涙をこらえきれず、声を震わせた。

「だって十五年だぞ。どうやって接したらいいのかも分からなかった」


セリアとリリーが寄り添い、優しく肩を抱いた。


レイも声をかける。

「良かったですね、フィオナさん」


しかし、その顔には複雑な影が差していた。


(行っちゃったな。オレ、次に何をすればいいんだろう?)

(そうですね。レイの目的は王都に向かうことでした。迷いの森の異常を解決した今、一段落ついたと言えます)


(でもさ、教会に助けを求めるどころか、それ以上のことに巻き込まれてない?)

(確かに予定外です。しかし、これまでの経験がレイを成長させました。自信を持ってください)


(オレ、強くなってるのかな?)

(もちろんです。三ヶ月前のゴブリン戦を思い出してください。あの頃とは比べものになりません)


(……そうか。三ヶ月でここまで来たんだもんな。すごい進歩だ)

(その通りです。このまま進みましょう)


「よっしゃ!やってやるぞー!」


突然の大声に、皆が驚いた。


「レイ、いきなりどうしたのだ?」

フィオナが涙を拭いながら振り返る。


「なんか不安そうだったけど、やる気が出たみたいね」

セリアが微笑み、フィオナの肩を叩いた。


「元気が出るのはいいこと。でも、まずは落ち着いてね」

リリーが笑う。


「レイ、びっくりしたニャ!すり身スティック落とすところだったニャ!」

サラが慌ててスティックを握り直した。いったいいつの間に持っていたのか。


「すみません、なんかやる気が出ちゃって。とりあえず明日の旅程を考えましょうよ」

レイは頬を赤らめながら言った。


「そうね、話し合いましょう」

フィオナが微笑む。


「もちろん」

セリアが頷く。


「了解よ」

リリーがにっこりと笑う。


「ニャ!」

サラが元気よく返事をした。


その夜、全員は宿へ戻り、翌日の計画を立てた。


王都への道のりはまだ長い。

だが、今の彼らなら、どんな困難もきっと乗り越えられると誰もが感じていた。


――ただアルを除いて。


アルの心には、拭いきれない不安が残っていた。

シルバーの使った思考言語が、アルのデータベースに存在していたのだ。


それは、スレイプニルと意思を交わせる者が、アルのいた星系にも存在していたことを意味していたことになる。アルは一瞬、レイに伝えるべきか迷ったが、混乱を招くだけだと判断した。

そして静かに、その事実を胸にしまい込んだ。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ