第181話(封印せし者の血脈)
「それじゃ、父上は極秘の任務があるからまだ帰れないと言うのかっ!」
フィオナは怒りを抑えきれずに叫んだ。
「フィオナ、この通りだ。それ以上は言えん。勘弁してくれ!」
イーリスは必死に説得しようとするが、その顔には焦りが滲んでいた。
「母上のことはどうするつもりだ?それに干渉できないとは、どういう意味だ!」
フィオナはさらに詰め寄る。
イーリスは困ったように眉をひそめて言った。
「母さんには、お前から無事だと伝えてくれ。まだやらねばならぬことが残っている。それが終わったら必ず会いに行くから…どうか待っていてくれ」
レイが不満げに問いかける。
「でも、その『やらなきゃならないこと』って何なんです?家族にも会えないなんて、おかしいですよ!」
セリアも疑念を抱きながら尋ねた。
「それなら、なぜこの魔法陣を直そうとしたんでしょう?それって、干渉にならないんですか?」
リューエンは淡々と説明を続けるが、瞳には強い決意が宿っていた。
「先にも言ったが、魔法陣の修復は封印せし者の役目だ。この封印を守ることこそが、この星の均衡を保つ行為であり、干渉ではなく必要なことなのだ」
「でも隠れて何かやっているじゃないですか」
レイは疑念を隠さず、リューエンをじっと見つめた。
「そんな根拠のないことを言うな!」
イーリスは苛立ちを隠せず返すが、どこか焦りも感じられた。
「いや、セリンに帰ろうとした時に『待て』と言われましたよね?あの新聞屋も、人さらいを企んでいたんです」
レイは一歩も引かず、強い意志を込めて続けた。
「あれは干渉だ。オレたちはその干渉を防ごうとしていたんだ」
イーリスは声を荒げて感情を抑えきれずに言った。
「その人とフィオナさんの父上は、何が違うんですか?」
レイは冷静に問いかけながらも、心の中で答えを探していた。
「あいつは犯罪者だ」
イーリスは短く言い放つ。その言葉には重みがあった。
「イーリス、それ以上は言うな。これ以上話せば、それも干渉になってしまう」
リューエンは深く息をつき、静かに制止した。
リューエンは続けた。
「確かに我々は犯罪者と呼ばれても仕方がないことをしているかもしれん。ただ、それはこの星の中の話ではない。この星を取り巻く他の星系間の話だ」
イーリスは焦りを隠せずに声を上げた。
「じいさん、それって干渉じゃないか!」
「そもそもの発端は、この先読みの力で、この星を守りたい。私は里を守りたい。イーリスは家族の幸せを守りたい、そう始まった話なのだ」
リューエンは穏やかに語る。
「そして我々は知った。この星が外から狙われていることを」
リリーが戸惑いながら手を挙げた。
「すみません、話についていけないのですが、星って夜に空に光るものですよね。それとこの話は、どう関係があるんですか?」
リューエンは微笑んでから言った。
「イーリス、今からはただのエルフだ、わかったな?」
「爺さん、オレは聞かなかったことにするよ」
イーリスは諦め顔で答えた。
リューエンはリリーに向かい説明を続ける。
「お嬢さん、その光る星の中に異星人…いや、帝国の者が住んでいる。もし彼らがこの星に向けて強大な魔法を放とうとしていたら、どうする?」
リリーは考え込むように答えた。
「どうするって…嫌ですね。そんな遠くから撃たれてもわからないし…」
リューエンは真剣な表情で言った。
「我々は、彼らが魔法を使わぬよう話し合いで解決しようとしている」
リリーは少し納得し尋ねる。
「外交の仕事ということですか?」
リューエンは頷く。
「そうだ。その範囲は、外に見える星まで含まれている」
「そんな遠くまで?」
リリーは驚きの表情を浮かべた。
「船を使って行くのだ。リリーさんも遠くに行くときは船を使うだろう?」
リューエンは静かに答えた。
「小島に行くくらいですね。この前はシーサーペントに襲われかけましたが」
リリーが説明した。
「ウソだろ!あの船って…!」
イーリスは目を見開いた。
「シーサーペントの話、知ってるんですか?」
レイが疑問を投げかける。
イーリスは誤魔化し笑いを浮かべる。
「いや、その…あはは…」
フィオナは鋭い目で詰め寄った。
「父上!何か隠してるな。白状しろ!答え次第では許さんぞ!」
リューエンは穏やかに言った。
「お嬢さん、そこは勘弁してやってくれ。イーリスをこの仕事に誘ったのは私だ。それに、この世界で起きることのほとんどに、我々は干渉してはならぬと約束している。ただし、封印せし者の仕事だけは例外だ。イーリスも、お嬢さんも、この一族の血を引いているのだから」
フィオナは言葉に詰まるが、すぐに複雑な表情を浮かべる。
「私が…封印せし者の一族…」
「ふむ、お嬢さん、未来に起こることを先に感じたことはないか?」
「ある!私が廃坑で攫われそうになった時、レイが魔法で天井を崩そうとしたのが先に分かった」
「それが先読みの力だ。ただし長い年月をかけて養わねば、力は完全に発現しない。最初は危機的状況でしか発動しないかもしれんが、それがきっかけで目覚めることもある」
フィオナは疑問を口にする。
「じゃあ、父上は私の平手を避けなかったのか?」
イーリスは笑いながら答えた。
「先読みはできたが、娘に平手をもらうのも父親の務めだと思ってな!でも、次は手加減するつもりだ…」
パシッ!
しかし言い終わる前に、フィオナの平手が再び飛ぶ。イーリスはその手をなんなく掴んだ。
「父上は本当にもう…」
フィオナは半ば呆れた表情で微笑んだ。
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