表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

190/334

第180話(再生と再会と未解)

作業は、魔法陣の清掃から始まった。


まず、魔法陣の表面に積もった埃や汚れを丁寧に取り除いていく。

これは修復作業を円滑に進めるための重要な工程であり、リューエンは魔法陣を清めるために少量の浄化の水も持参していた。

なくても修復は可能だが、浄化の水を使うことで汚れを取り除く作業が格段に容易になるという。


清掃だけでもかなりの時間を要し、結局、その日の作業は魔法陣の清掃だけで終わってしまった。


その夜、彼らは地下空間で過ごすことになった。

見張りを立てようとしたが、リューエンから「見張りの必要はない」と告げられる。

そして、リューエンは見たことのある端末を取り出し、それを床にセットした。


「あっ!」

レイの口から声が漏れたが、それ以上は何も言わず、黙って様子を見守ることにした。


外では雨が降り続けており、その音が微かに地下にも届いていた。

レイはその音に耳を傾けながら、リューエンの動きを見つめ続けた。


「レイ、あれはランゲじゃニャいか?」

サラが低い声でささやく。


「サラさん、シー…」

レイは即座に反応し、彼女を制した。


翌日。魔法陣の清掃が終わると、リューエンは容器からエルダーウッドの樹液を取り出し、細い筆で魔法陣の欠けた部分に慎重に塗布し始めた。


このエルダーウッドの木は、迷いの森にも生えている捻れた木から採れる樹液であり、魔力を帯びたインクのような役割を果たしている。


樹液は古代のシンボルや文字を補完し、壊れた魔法陣のラインを再び繋ぎ直すためのものだった。


レイは樹液を見つめながら、初めて迷いの森に入ったとき、正面にあった捻れた木がエルダーウッドだったのかと、ふと思い返す。そんなことを考えつつも作業に戻ると、樹液を塗るのは思った以上に難しかった。


最初ははみ出したり、薄くなったりと苦戦したが、全員で慎重に作業を進めていった。


「レイ君、腰が痛いんだけど、アレやってよ」

リリーが甘えた声で頼んでくる。


「アレって何ですか? リリーさん」

レイは少し警戒しながら問い返した。


「ウチのソファでみんなが寝違えた時にやってたマッサージよ」

リリーがにっこりと笑う。


レイは困ったように首を振った。

「あれ、やり始めたらみんな収拾がつかなくなるじゃないですか。却下です!」


「もう、ケチね!」

リリーが不満そうにぼやいた。


それでも作業に慣れてくると、黙々と作業を続けた。この日の作業は半分ほどが終わった。


ただ、リーフ村に宿を取ったままにしていることが気がかりで、レイはシルバーに乗って村まで戻ることにした。


宿屋に連絡を入れたあと、森の異常について調査するため森に入ると、ギルドにも伝えておく。

「こんな雨の日にですか?」と出張所の職員に聞かれたが、レイは「ええ、まぁ…」と苦笑いを浮かべた。


それに、ほとんど何も持たずに森に入ってしまっていたため、食料もなかった。

持てるだけの保存食を持って戻ってきたレイに、サラが期待の眼差しを向けて尋ねた。


「すり身スティック持ってきたかニャ?」


「はい、持ってきましたよ。あれだけ催促されればね!」


レイがそう言ってすり身スティックを取り出すと、サラの目が輝いた。


「ニャイス! 少年は出来る子ニャ!」

ぱくっと一口で食べると、すぐにおかわりを要求してくる。


「次はもう少し多めにお願いニャ!」


レイは苦笑いを浮かべた。


翌日も、エルダーウッドの樹液を塗布する作業が続いた。

フィオナとイーリスはまだ和解できていない様子で、イーリスはフィオナの周囲を気まずそうにうろついていた。


父親が見つかって嬉しいはずなのに、フィオナの表情は複雑だった。


「父上、鬱陶しい。あっちへ行ってくれ」

フィオナが険しい顔で冷たく言い放つ。


「フィオナちゃん、機嫌なおして」

イーリスが焦りながら懇願する。


だが、その瞬間――


「ちゃん付けするなっ!」


フィオナが一気に振り向き、イーリスに突っ込んだ。


「ブベッ!」


イーリスは勢いよく叩かれ、吹っ飛んで地面に転がった。


レイはその様子を見て、心の中でつぶやいた。


(父親も大変なんだな…)


魔法陣が再び繋がったら、フィオナとリューエンとイーリスが樹液を塗布した部分に

魔力を注ぎ込んで定着させる作業が始まった。


この作業は二日にも及び、地道に魔力を流し続けるという非常に根気のいるもので、

封印せし者の魔力のみが反応する特殊なものだった。


レイは一瞬、「魔力変換した時の魔力だったらできるんじゃないか?」と考えた。

だが、古代の呪文はあまりにも難解で、自分には唱えられないと判断し、手を出すのをやめた。

代わりに、黙って作業の進行を見守ることに徹する。


その間にも修復作業は順調に進み、魔法陣は完成とともに再び機能を取り戻し、転移のエネルギーを

安定して制御できるようになった。


「えっと、何日ここにいたんでしたっけ?」


レイがふと尋ねる。


「初日は夜からだったけど、そこを半日として計算すると、私たちはここで四日半作業したことになるわ」


セリアがすかさず答えた。


「じゃ、ギルドに連絡入れたのって三日前ですね。捜索される前に、ここを引き上げないと!」


「でも、その前に聞かなきゃならないことがあるわよね」


リリーが静かに口を開く。

レイも同意し、皆の視線がリューエンと、フィオナの父であるイーリスに向けられた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。

⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、

今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
書いているうちに設定ぶれてますか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ