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第18話(食事改善)

結局、その日は、レイはゴブリンを魔法で仕留められなかった。

魔力をロープ状にしてゴブリンを躓かせて転ばせることは出来たが、魔力球はサッパリ当たらなかった。

八つ当たりをした訳ではないが、最奥のゴブリンまで全て剣で倒してしまった。


もう、ここのダンジョンも卒業である。


魔石の換金をしてもらおうとギルドに寄ってみたが、なんだか今日はギルド内が慌ただしい。

いつも以上に多くの冒険者が集まっていた。その冒険者の横をすり抜けて受付の近くに行くと、セリアが手招きをした。


「人が多くてびっくりしたでしょう?」

セリアは忙しそうにしながらも微笑んだ。


「はい、何かあったんですか?」

レイは驚きながら尋ねた。


「前にドゥームウッドの森の手前でオークが見つかったって言ったでしょう?その奥でオークの集落が見つかったらしいの」


「そうなんですか?」


「そうよ。それでCランク以上の冒険者にオーク討伐の緊急依頼が出されたの」


そう言って、セリアは緊急依頼書を見せてくれた。


「それでね…」とセリアは続けた。


「EランクとFランクも強制じゃないけど、物資の運搬依頼が出てるのよ」


「はい、参加します!」


これは参加しろということだろうと思ったレイは、すぐ返事をした。



「やった。じゃあ明日、早朝の鐘が鳴ったらギルド前に集合してね。朝の鐘が鳴ったら出発するから」


セリアはそう言って依頼書のリストに名前を書き込んでいた。


「じゃ、また明日来ます」


忙しそうだと思ったレイは、セリアに挨拶をして隣にある換金所でゴブリンの魔石を換金してからギルドを出た。


ギルドを出たところでアルが話しかけてきた。

(レイ、珍しいですね。物資運搬の依頼に参加するなんて)


「ああ、セリアさんは『強制じゃないけど』って言ってたけど、ああいう時の依頼って受付も募集のノルマがあるみたいなんだ」と答えた。


(レイも、人の顔色を伺うんですね)とアルがからかってきた。


「“レイも“は余計だよ!それに討伐の緊急依頼なら魔法使いも参加するだろうから、魔法が見られるかもって思ったんだよ」


(なるほど、それは良い案ですね)


「そうだろう、これでまた一歩進めるよ」


次の日の早朝、レイはアルに起こされた。


(レイ、そろそろ起きてください。朝の鐘が鳴りますよ)


「ん〜、むにゃ、もう鐘が鳴ったっけ?」


(まだですが、あと十分以内に鐘が鳴ると思います)


「十分って何?」


(私が造られた所での時間の単位です。ここでは『日出・早朝・朝・昼前・昼後・夕・夕方・日の入』で時間が分けられています。そして『十分』とは、次の鐘が鳴るまでの時間を十二等分した長さです)


「ふ〜ん、アルのいたところって、そんなに細かく時間を区切るんだ。大変そうだね」


そんな話をしているとカラ〜ンコロ〜ンと教会の鐘が聞こえて来た。


「あ、ホントだ。早朝の鐘が鳴った」


レイはベッドから起き上がると、いつもの装備に着替えて宿を出た。ギルドに向かう途中で、開いていた露店で小さなパン一つとチーズの欠片を買うと、それを口の中に放り込んだ。


(レイ、いつも銅貨一枚で買える朝食を食べていますが、何かに使う予定があるのですか?)

アルが尋ねてきた。


「装備代かな。一番安い鉄の剣でも銀貨一枚するし、解体用のナイフだって一番安くても3,000ゴルド掛かる。鞘は別にこしらえなきゃならないし、鉄の剣を研ぎに出したら2,000ゴルド以上取られるよ」

レイはため息をつきながら肩をすくめた。


(なるほど。だからロングソードが宝箱から出た時に喜んだのですね。それとレイは、ゴルドと言ったり銀貨一枚と言ったりしていますが、言い方に何か法則があるのですか?)

アルが尋ねてきた。興味を持った様子である。


「 法則? うーん、そんなの無いよ。文字が読めない人も多いし、そもそも計算をちゃんと教わってない人も多いからさ。だから下町だとゴルドで書かずに銅貨十枚とかって書いてあったりするんだ」


(なるほど。では、レイがそれを扱えるのは…)


「うん、教会でシスターに教わったんだ。字も数も、ほかのことも色々。孤児だからこそ、生きるために覚えとけってさ」


(レイはどちらでも分かるから言い方がバラバラなんですね)


「そうねぇ、強いていうなら、シスターの勉強が厳しかったんだよ」


(ほう、勉強ですか)


「週に三回づつ、読み書きの日と計算の日があって、それが出来るまで昼飯を食べさせてもらえなかったんだよ」

レイは遠い目をしながら語った。


(なるほど、それは必死になりますね)


「だろう?まぁ今となってはすごく感謝してるけどね」


(それがレオニウス司祭の残していったものですね)


「だからその司祭様が孤児院に残していったことと、オレにしようとしてたことが、全然結びつかないんだ」


(確かにそうですね。だとすると、そうしなければならなかった理由があったのではないでしょうか?)


「理由ねぇ、誰かに頼まれたとか?」


(どうでしょうね。これ以上は分かりません。では、分かることから始めましょう)アルは静かに答えた。


(分かることって何?)


(レイに必要なカロリー、体を動かすためのエネルギーですが、今のレイには圧倒的に不足しています)


(そうなの?)


(はい。一日に三千キロカロリー必要ですが、今の食事は合計で四百キロカロリーしかありません)


(えぇ?そんなに少ないの!)レイは目を見開いた。


(はい、そうですね)


(でもなぁ、お金が足りるかな……)レイは不安そうに呟いた。


(なるほど。食費に余裕がないと、必要な栄養まで回せませんね)アルは理解を示す声で言った。


(前よりは、かなり余裕が出てきたけどね)レイは少し前向きに答えた。


(ですが今のままでは、必要な栄養素が足りないため、筋肉は十分につきません)アルは淡々と警告した。


「えぇっ!ホントに?」


(はい。強くなりたければ、これから言う食材を食べてください)


アルは果物やナッツ、緑葉野菜など、具体的な食材を次々と挙げた。


レイが激しい運動をするには、炭水化物やタンパク質、脂質、鉄だけでなく、ビタミンやカルシウム、汗で失われる電解質も必要だった。アルはバランスの良い食事でそれを補ごうと考えた。


この日以降、レイの肉体改造計画――食事改善――が始まることになるが、レイ自身はまだそのことを知らない。

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