第178話（古の魔法陣）
レイは、アルからのメッセージを仲間たちに伝えた。
その言葉を聞いた瞬間、メンバー全員の表情が強ばる。驚愕と戸惑いが、一斉に広がった。
「封印せし者って……誰のこと？」
リリーが目を見開き、困惑を滲ませながらつぶやく。
「これまでそんな存在、聞いたこともない。ただの転移異常ではなかったのか？」
フィオナは信じられない様子で問いかけた。
「陣が破損して転移異常が起きたってことだよね……それを私たちの誰かが直せるってこと？」
セリアが不安そうに周囲を見渡し、他の顔を見比べる。
「ますます話がややこしくなってきたニャ……」
サラは耳をピクピクと動かしながら、警戒心を露わにした。
しばし沈黙が流れたが、フィオナが一歩前に出る。
「しかし、ここで立ち止まるわけにはいかない。夕闇が迫っている。ここで野営するのは危険だし、深部まで行こう」
「行くしかないニャ」
サラが元気よく応じる。
仲間たちは無言でうなずき、誰も反対の言葉を発することはなかった。
こうして一行は、迷いの森の深部へと歩みを進めていった。
しかし――
夕闇が迫る中、突然フロストウルフの群れが姿を現した。
「来たわよ！」
フィオナが素早く弓を引き絞り、一匹のフロストウルフを正確に射抜く。
その矢が命中した瞬間、残りの群れが一斉に飛びかかってきた。
「まとめて吹き飛ばすっ！」
リリーが大釜を力強く振りかざすが、ウルフたちは素早く身をかわし、戦いはたちまち混戦に陥った。
「くっ、動きが速い……！」
セリアは短剣を握り、翻弄するように一匹のウルフと渡り合う。
「こっちは任せるニャ！」
サラは双剣を構え、別のウルフに応戦する。
シルバーが咆哮のように鼻を鳴らし、迫るウルフを力強い一蹴りで吹き飛ばした。
「っ、こいつら、群れで…統率が…！」
レイは黒いロングソードを構え、フロストウルフの鋭い爪を受け流しながら反撃を繰り出す。
風を裂く一閃が、ウルフの体を鋭く切り裂いた。
フィオナは次々と矢を放ち、セリアがその隙を突いて短剣で喉元を斬り裂く。
リリーの大釜がうなりを上げ、数匹をまとめて押し返した。
サラの双剣が鋭く閃き、一匹が地に沈む。
「まだ来るニャ！」
サラが叫ぶ。
だが次の瞬間、シルバーが吠えるように突進し、その圧倒的な力でウルフたちを蹴散らした。
その光景に怯んだのか、残ったフロストウルフたちは恐怖に駆られたように一斉に逃げ出した。
彼らは森の奥深くへと姿を消していき、辺りには再び静寂が訪れる。
メンバーたちは周囲を警戒しつつ、互いに無言で頷き合い、ようやく構えを解いた。
「雲行きも怪しくなって来たな。雨が来る前に進もう」
フィオナが静かに号令を下した。
レイはやっぱりこういう時はフィオナさんの方が様になるな、と心の中で思いながら、彼女の後に続いた。
少し経ってから、一行は草原にたどり着いた。シルバーが居たからなのだろうか？一度も迷わずにここまで来てしまった。
シルバーが何かを感じ取ったかのように、自然と草原の中心へと進んでいった。
そして、顔を地面に近づけた瞬間、遠くで雷鳴が轟いた。
それと同時に、地面が静かに動き始める。今までなら石碑が競り上がってくるはずだったが、今回は違った。
地面が沈み込むようにしてスロープが現れ、地下へと続く道が姿を現したのだ。
「今度は石碑じゃなくて、道が出てきた！」
レイが驚きの声を上げる。
「この草原って、何か特別な意味があるのかしら……」
リリーは声を落としながら、どこか不安げに草原を見つめた。
「どちらにしても、これが『陣』への道だと思う」
フィオナは冷静にそう分析したが、その声にはわずかな緊張が混じっていた。
サラが奥を覗き込みながら言う。
「何があるのか気になるニャ」
その表情には、恐れよりも興味が勝っているようだった。
「行ってみるしかないね。シルバー、頼むよ！」
レイが呼びかけると、シルバーも
「ヒヒィン！」
と力強く鳴いて応えた。
その瞬間、ポツリと大きな雨粒がレイの肩に落ちてきた。
続けざまに、次々と雨粒が地面に打ちつけられ、あっという間に本降りになり始める。
「雨が来た。急ごう！」フィオナが素早く判断し、メンバーたちは互いに視線を交わし、軽く頷き合った後、迷いの森に開いたスロープへと駆け込むように足を踏み入れていった。
＊＊＊
その道の両側には、まるで大理石を切り出したかのような白い壁が続いていた。
薄暗い森の中とは対照的に、その壁は光を反射してほんのりと明るさを保ち、道を照らし出していた。
フィオナがふと足を止め、壁を見上げながら呟く。
「この壁、既視感があるな」
レイも同じく壁を見上げた。
「そうですね、祈りの洞窟ダンジョンと同じような感じですね」
セリアも不思議そうに周りを見回している。
「あそこも、この場所と何か関係があるのかしら」
レイたちが降りて行った先には、広大な地下空間が広がっていた。
天井は高く、四方の壁には無数の古そうな文字やシンボルが刻まれている。
空間の中央には、一目見ただけで圧倒されるような巨大な魔法陣が描かれていた。
その模様は驚くほど複雑で、異様なエネルギーが部屋全体に漂っているのを感じさせる。
「これはすごいな…こんな場所が迷いの森の中に隠れていたなんて…」
フィオナが驚きを隠せない様子でつぶやいた。
レイもまた、その異様な光景に圧倒されつつも、次第に魔法陣の細部に目が行くようになる。
古代のシンボルや文字が魔法陣の中にびっしりと描かれており、それらが放つ微かな光が、神秘的な雰囲気を一層強調していた。
しかし、よく見るとその線の一部が風化し、欠けている部分があることに気づいた。
「この魔法陣、すごいけど…やはり、ところどころ壊れているみたいですね」
「どうやって、この魔法陣を修復するかよね。シルバーは私達って伝えてきたんでしょ、封印せし者だっけ？」
セリアは落ち着いた声でそう言い、仲間の顔を見渡した。
「そうですね。封印せし者はシルバーに聞くとして、素材ならアルが調べられると思います」
レイが提案しながら、アルに向けて思考を集中させる。
（アル、頼めるか？）
するとアルは違う返事を返してきた。
（レイ、誰かがこちらに降りてくるようです、警戒を！）
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