第177話(シルバーの秘密と陣の謎)
迷いの森に入ると、すぐに白い毛皮の狐が飛び出してきた。レイがすぐに気づいて声を上げた。
「あれ? コイツ、見覚えがあるぞ! これって、コニファー村の迷いの森にいた魔物じゃないか?」
セリアが眉をひそめ、不安そうに言った。
「え、それってダンジョン内で魔物が行き来してるってこと?」
リリーは険しい表情で頷きながら続けた。
「考えたくないけど、可能性は高いわね…。もしそうなら、事態はかなり深刻よ!」
サラも警戒しながら口を開いた。
「それって、ヤバいんじゃニャい?」
その緊迫した空気の中、フィオナが素早く弓を取り出し、矢を放った。
矢は正確に狐の胸元に命中し、白い毛皮の狐は短い悲鳴を上げて地面に倒れた。
「仕留めた!」
フィオナが勝利の声を上げるが、すぐに表情を引き締めて続けた。
「でも、立ち止まっている暇はない。先を急ごう!」
仲間たちは頷き合いながら、再び歩を進める。
シルバーが一歩先に立ち、まるで道案内をするかのように、迷いの森の奥へと進んでいった。
セリアがふと思い出したように言った。
「じゃあ、シルバーが急いだのはこれが分かったからだよね。それって、この異変を止められるってことなのかな?」
フィオナは考え込んだ表情で応じる。
「どうやって止めるんだろうな?シルバーがここでの転移の鍵のような存在なら、シルバーをここに残すしかないのかもしれない」
「それって、シルバーがここに残らないとダメってこと? せっかく仲間になったのに、ここでサヨナラなんて嫌だな…」
レイが寂しげに言葉を絞り出した。
みんなが悩んでいると、リリーがふとアイデアを思いついた。
「ねぇ、レイ君とアルって心の中で会話してるんでしょ? それなら、シルバーとも会話できるんじゃない?」
サラもその提案に乗り気になって言った。
「それニャ! シルバーの考えを聞いてみるニャ!」
レイは少し考えてから、心の中で問いかけた。
(どう、アル? できる?)
(レイの場合、私はレイが思考した言語に関する部分だけを読み取っています。それは、あらかじめ私のデータベースにインプットされた言語があったからです。つまり、レイが頭の中で言葉として形成した思考を、私がデータベースと照らし合わせて理解し、会話が成り立っています。しかし、シルバーの場合、それが可能かは不明です)
(でもシルバーって、すごく聞き分けが良いよね。もしかして、こっちの言ってることを理解できるんじゃない?)
(試してみましょう。レイ、シルバーに触れてください)
(分かった、頼んだ、アル!)
レイがシルバーに手を伸ばすと、ナノボットたちがシルバーの体内へと流れ込んでいった。
ナノボット同士が思考をリレーし、シルバーの意識をアルのもとへ届ける仕組みだ。
アルが脳内メッセージの読み取りを始めたその瞬間、思いもよらぬ事態が発生した。
シルバーが送ってきた思考で構成された言語が、すでにアルのデータベースに存在していたのだ。
この事実に、アル自身も驚きを隠せなかった。
なぜ、スレイプニルであるシルバーの思考言語が、自分の中に記録されているのか?
相手が人族であれば、過去にレイと意思疎通ができたように、この星の言語体系を学習していたと説明はつく。
だが、今回はそうではない。
アルの内部に、その理由を示すデータは見当たらず、謎は深まるばかりだった。
実はこの現象は、かつてアルが目覚めて最初にレイと意思疎通を試みた際にも起きていた。
あのとき、レイと会話ができたのは、アルのデータベースにすでにレイの思考言語が組み込まれていたからだ。
当時のアルは、それを「誰かが事前にこの星の言語としてインプットした」と受け止め、深くは考えなかった。
だが今、同じことが再び起きている。
スレイプニルは唯一の存在であるはずなのに、なぜその思考言語までがデータベースに含まれていたのか。
新たな違和感が、静かにアルの中に根を下ろしていった。
不思議に思いながらも、今はその謎を解明するより、目の前の問題に集中すべきだった。
アルはデータベースの調査を開始し、同時にシルバーが送り出したメッセージの解析に専念する。
そのメッセージは、次のような内容だった。
「……陣、綻生じ……転位、力、留め得ず……封…せし者の力…今、要と成る……我、其方ら……待てり……」
メッセージを受信したアルは、即座に状況を把握し始めた。
迷いの森で起きている異変は、「陣」の破損に起因している。
そして、その陣を修復するには、レイたちの力が必要――そのように読み取れた。
アルはシルバーに問いかける。
「陣の場所はどこにある?」
すると、シルバーは迷いの森の奥へと顔を向けた。
どうやら、その先に「陣」が存在しているようだ。
アルはレイに向き直り、思考の解析結果を伝える。
(レイ、誤訳でなければ、シルバーはこう言っています。『陣に綻びが生じ、転移のエネルギーが受け止めきれない。封印せし者の力が必要だ。我は其方たちを待っていた』)
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
ブックマークや評価をいただけることが本当に励みになっています。
⭐︎でも⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎でも、率直なご感想を残していただけると、
今後の作品作りの参考になりますので、ぜひよろしくお願いいたします。